第96話 灼熱
そして6階層。
今度は「灼熱」の地獄谷だ。
煮えたぎるマグマの池があちこちに点在し、硫黄の匂いが鼻をつく。
地面からは熱気が立ち上り、靴底が溶けそうなほどの高温だ。
「熱いっ! さっきまで寒かったのに、極端すぎるよこのダンジョン!」
桜が額の汗を拭う。
【冷たき抱擁】のマントは冷気にしか耐性がないとはいえ、熱波はある程度防げているようだった。
しかし、それでも視覚的な暑さは精神を削る。
「水分補給をこまめにしとこう」
俺が冷たいスポーツドリンクを渡そうとした時、マグマの池が爆発した。
灼熱の飛沫と共に現れたのは、巨大な影。
牛の頭と、巨大な土蜘蛛の体を持つ異形の怪物——
さらに、岩の隙間からは体長5メートルはある
「うわぁ、気持ち悪いのがいっぱい!」
「桜、大百足は俺がやる。牛鬼は頼める?」
俺が提案すると、桜は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに不敵な笑みを浮かべた。
「うん、任せて! あの図体なら、スピード勝負だね」
桜が駆け出す。
牛鬼が、侵入者を排除しようと戦車のような勢いで突進してくる。
その重量は数トンはあるだろう。まともに食らえばぺしゃんこだ。
「遅いよっ!」
桜は正面からぶつかる……と見せかけて、直前でサイドステップ。
水魔法を巧みに使い、滑るように加速した彼女の動きに、鈍重な牛鬼はついていけない。
すれ違いざま、桜が杖を振るう。
「<アクアカッター>!」
高圧の水流が、牛鬼の関節部分を切り裂く。
水と高熱の体表が接触し、爆発的な水蒸気が発生した。
ダメージそのものは浅いが、急激な冷却によって関節が固まり、牛鬼の動きがぎこちなくなる。
「グオォォッ!?」
牛鬼が苛立ち、周囲にマグマを撒き散らす。
だが、桜は舞うようにひらりひらりとそれを躱し、死角へと回り込んでいく。
「こっちだよー!」
挑発しながら、的確に冷却魔法を叩き込む。
パワータイプの天敵となる動き。まさに完封だ。
その間に、俺は大百足の処理を済ませる。
こいつは毒液を吐いてくるが、俺の動体視力なら止まって見える。
毒を紙一重で躱し、すれ違いざまに木刀で甲殻の隙間を貫いた。
いくつかのアイテムをドロップしながら、粒子と化していく大百足。
それを尻目に俺が振り返ると、ちょうど牛鬼が限界を迎えていた。
桜の執拗な水魔法攻撃により、体表の溶岩が冷え固まり、黒曜石のように硬化して動けなくなっているのだ。
「ひろくん、今! トドメお願い!」
「ナイスアシストだ、桜!」
俺は地面を蹴り、動けなくなった牛鬼の頭上へと跳躍した。
木刀【天地無用】を上段に構える。
「砕けろッ!!」
振り下ろされた一撃が、牛鬼の眉間を直撃した。
重く鈍い衝撃音。硬化した体が耐えきれず、粉々に砕け散る。
牛鬼は悲鳴を上げることもできず、光の粒子となって崩壊した。
「ふぅ……。なんとか片付いたな」
「うん! ひろくんとの連携、ばっちりだったね!」
桜がハイタッチを求めてくる。
パチン、と乾いた音が灼熱の空気に響いた。
「桜がうまく足止めしてくれたおかげだ。頼もしくなったな」
「えへへ……ひろくんに褒められると、もっと頑張れちゃうかも」
桜が嬉しそうに笑う。
激しい環境変化と連戦。いくら全体的な
「さて。じゃあ、お宝探偵団の時間だな」
「お宝探偵団?」
「……まぁ気にするな」
大百足と牛鬼が落としたアイテムを集めると、9個もゲットできた。ぐふふ。大量だ。
まずは、大百足のドロップ。素材が二種にアーティファクトが三種もある。
ーーーーーーーーーー
【百足の黒殻】 1 / 4
鋼鉄よりも硬く、非常に軽い甲殻。
防具の素材として優秀で、物理耐性の高い鎧が作れる。
【猛毒の粘液】 1 / 8
強力な神経毒の原料。
武器に塗布したり、解毒ポーションの材料になったりする。
取り扱い注意。
スキルオーブ【
足場の悪い場所でも速度を落とさず移動できるようになるパッシブスキル。
壁や天井を走ることも可能になるが、見た目がアレなのがデメリット。
スキルオーブ【毒耐性 - ★★】 1 / 512
ありとあらゆる毒、麻痺に対する抵抗力を高めるパッシブスキル。
アーティファクト【
節くれだった不気味な槍。
攻撃時、確率で相手に「猛毒」と「麻痺」を同時に与える。
ーーーーーーーーーー
「【毒耐性】は桜が使っとこうか」
「いいの? ひろくんは大丈夫?」
「俺は魔力が高いから、多分状態異常耐性系はいらない気がするなぁ」
次いで、牛鬼のドロップに目を向ける。こっちも良さげな物を落としてくれていた。
ーーーーーーーーーー
【牛鬼の角】 1 / 4
巨大でねじれた角。魔力を通しやすく、打撃武器や杖の素材として使われる。
スキルオーブ【
一直線に高速移動し、その勢いを乗せて攻撃するアクティブスキル。
単純だが威力は高い。移動用としても使える。
アーティファクト【
人間大のサイズがある巨大な金棒。
重量補正がかかっており、筋力が足りないと持ち上げることすらできない脳筋武器。
アーティファクト【
装備するだけで筋力を中補正する腕輪。
ーーーーーーーーーー
「【
「うん。前衛向けに人気出そうだな」
デザインも格好良いし、効果もなかなかにエグい。
俺たちには不要そうだから、これも売却しよう。
インベントリから冷たいおしぼりを取り出し、桜に渡した。
「無理はしないようにね。ここから先は、雰囲気が違いそうだ」
「うん。ありがとう」
◇
6階層の奥。
灼熱地獄を抜けた先に、下へと続く階段があった。
ここまでに多くの魔物を倒し、そのドロップアイテムはすべて回収済みだ。
市場に出せば億単位、いや、それ以上の価値になるアイテムが、俺のインベントリには山のように積まれている。
ADAのオークションにどう出していくか、今から頭が痛いところだが、まあ「運が良かった」で押し通すしかない。
階段の前には、これまでとは違う、重厚な石の扉が立ちはだかっていた。
扉には、禍々しいレリーフ——のたうつ大蛇のような彫刻——が刻まれている。
ここから先は、階層としてのレベルが違うのが身体全体で感じられた。
漏れ出してくる空気が、重圧が、これまでとは桁違いだ。
「……ここからが本番だな」
俺は気を引き締め、桜を見た。
連戦で少し疲れているようだが、その瞳は強い光を宿している。恐怖に飲まれてはいない。
「大丈夫か、桜? ここで一旦キャンプして休むか?」
「ううん、大丈夫! まだ行けるよ。
早く最下層まで行って調査終わらせて、ゆっくり気ままに温泉に入りたいもん!」
「よし。じゃあ、行くぞ」
俺は重い扉に手をかけ、ゆっくりと押し開いた。
ギギギ……と重い音を立てて、まるで数百年ぶりに開かれるかのように扉が動く。
その向こうには、さらなる深淵と、まだ見ぬ怪物が待っているはずだ。
俺たちは、深層への一歩を踏み出した。
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