第71話 ブリーフィング① 顔合わせ
ADA岡山支所の会議室。会議室の中は、外の廊下よりも空気が重かった。
長方形のテーブルがコの字型に配置され、その内側に大きな円形のプラットフォーム。そこから立ち上るように、半透明の青い光が空中に浮かんでいる。立体ホログラフだ。
19階層の地形全体が、まるでミニチュアモデルのように立体表示されている。逆さに映る湖面、岩壁、天井の凹凸まで再現されていた。
部屋の壁にはスクリーンがいくつも設置され、様々な情報が表示されている。
俺が入室すると、上座に座っていた十宮和輝が、露骨に舌打ちをしたのが聞こえた。
「……チッ、遅ぇよオッサン」
相変わらずの態度だ。桜に振られた腹いせに、完全に敵対視してきてるな、これは。
俺は軽く頭を下げて、室内を見渡す。
会議室の片側には、ADA岡山支所の探索者たちが座っている。俺と同じように軽装の者もいれば、しっかりとした装備に身を包んでいる者もいる。
反対側には、先ほどロビーで出会った顔ぶれが並んでいた。
鮮やかな赤と黒と金で統一された装備。
胸元には「TEMPEST」とロゴが入っている。
十宮、金髪女性、小柄な女性、カメラをもつ大柄な男性。
その周囲には、配信クルーと思しきメンバーが、機材のチェックをしていた。固定カメラが会議室の端にセットされ、その横には「Dtube Live」のロゴ入りの小さな表示モニターが立てられている。
ここまでくると、もはや戦場というよりスタジオだなと、変な感想が浮かんだ。
正面に、伊達と冴葉が座っている。俺は促されるまま、伊達の隣に腰掛けた。
「お忙しい中、お集まりいただきありがとうございます」
伊達が立ち上がると、それまでざわめいていた空気がすっと収束する。
「では、岡山ダンジョン19階層におけるサンダー・ベル討伐作戦の最終ブリーフィングを開始します。まずは、今回の参加メンバーの確認から」
冴葉がスクリーンに表示を切り替える。そこには、名前と所属が一覧で表示されていた。
「ADA岡山支所から」
冴葉が、一人ずつ読み上げていく。
「監理監査部長、伊達将範」
伊達が軽く会釈する。冴葉が次々とADA側のメンバーの名前を呼んでいき、名前を呼ばれた職員が立ち上がり自己紹介を行う。
「では、【テンペスト】側」
冴葉が促すと、茶色の髪をラフに整え、わざとらしく襟を開けたジャケットを羽織っている男が悠々と立ち上がった。
「【テンペスト】代表、十宮和輝です」
さり気なく、首元につけた魔導具っぽいチョーカーに手をやり視線を誘導させている。何かスポンサーがらみの商品なんだろうか。
「みんなの人気者、カズキって呼んでくれていいよ。今回のメイン火力担当って感じかな」
軽く手を振ると、配信クルーの一人がカメラの角度を微妙に調整していた。今の一言も、配信用なんだろう。面倒くさいな、これ。
十宮が座るのと同時に、隣にいた女性が立ち上がった。
金髪を無造作に後ろで束ねた、ハーフっぽい顔立ちの女性だ。鋭い目つきと、ジャケットの上からでも分かる引き締まった体躯。十宮よりも一回り大きく見えるほど、存在感がある。
「ギルド【テンペスト】所属、藤崎レイナだ。前衛と、カズキのサポートを担当する」
声は低く、ハスキーだ。アイドル的な愛想笑いは一切ない。腰には大振りの
「撮影兼前衛の甲田です。ダンジョン内では基本俺が撮影のほうを担当しますんで、よろしくです」
もう一人、重そうな撮影機材を横に置いた、がっしりした男が軽く会釈した。無精髭を生やし、髪は短く刈り込まれ、首元には筋肉が詰まっている。
十宮のキラキラしたオーラとは対照的に、職人肌というか、少し疲れたような空気を纏っていた。
最後にひときわ目立つ存在感を放っていた子が、軽くスカートの裾を揺らしながら立ち上がった。
オレンジ色の髪をツインテ気味にまとめていて、その髪色が室内灯の光を反射して、まるでキャンディみたいにきらきらしている。
身長は桜よりさらに少し低いくらいで、小柄なんだけど――服装がすごかった。
黒を基調にしたゴスロリのワンピースに、胸元と袖にたっぷりのフリル。そのコントラストで、肌がやたら白く見える。
耳元には長めのピアスがいくつも揺れて、アクセサリーのきらめきだけで小さな音がしそうだ。メイクも派手で、アイラインが鋭く跳ねていて、目元にストーンみたいなのが散りばめられている。
「
発言内容もぶっ飛んでいた。こいつヤバいだろと思うが、それを表に出すほど若くはない。にっこり顔でスルーだ。
「……以上が、テンペストからの参加メンバーとなります」
冴葉も華麗にスルーして、締めていた。
「最後に、今回協力していただく探索者、柴田さん」
全員の視線が、こちらに向いた。その視線を受け、俺は椅子から立ち上がる。
「柴田 浩之です。よろしくお願いします」
そう言って頭を下げると、岡山支所側のメンバーたちは、少し緊張した面持ちで会釈を返してくれた。
以前、救出作戦で一緒に潜った者もいる。目が合うと、わずかにホッとしたような笑みを浮かべる者もいた。
一方で、テンペスト側の視線は別の意味で熱い。
「あー、やっぱりアンタが『シバタ』って訳ね。ちゃんと確認しときたいんだけどさ、アンタがランクワンで良いの?」
十宮が、わざとらしく手を打ち、剣呑の眼差しを向けてくる。
伊達が何か言おうとするが、それを遮り、俺は口を開いた。
「ええ。間違いなく、俺がランクワンです」
室内が騒然とする。おおよそ全員が予想はしていたんだろうけど、ここまでしっかりと肯定するとは思っていなかったようだ。テンペストのクルーがカメラを向けてくるが、無視する。
「……良いんですか?」
伊達が心配を含んだ声で聞いてくるが、頷き返す。
自ら公言してまわるつもりはないが、必死に隠すつもりもない。正直、【光魔法】をはじめとするアーティファクトを世に出すと決めた時点で、ランクワンであることは知れ渡っても仕方ないと思っていた。
「なるほどね。いやぁ、ランクワンって肩書きもってるから、どんな怪物みたいなやつが来るのかと思ったら」
そこで、一拍置いてからニヤリと笑う。
「ほんとに、普通のオッサンなんだな」
ざわ、と、会議室の空気が揺れた。岡山支所側の職員が、目に見えて顔をしかめる。
「カズキ」
藤崎レイナと名乗った女性が、低い声で名前を呼ぶ。
「いい加減にしろ」
「はいはい、分かりましたよ」
全く反省をしていない表情で手を振る十宮。藤崎はしかめ面でため息を吐いた。苦労しているんだろうな。
——あとがき
昨日は「これから2回更新になります」って言いましたが、年内は1日3回更新で続けられそうです^^;
年明けたら確実に無理ぽです……。
よろしくお願いします!
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