第58話 将来設計の準備

 電話を切ると、桜がこっちをじっと見つめてきていた。いや、電話中から常に視線は感じていたけどね。


「なんだって?」

「昨日のサンダー・ベルだよ。討伐が決まったんだって」

「そっかぁ。やっぱりADAとしては、やらざるを得ないんだね」


 桜が頬杖をつきながら、暖かいカップの取っ手をさわる。リビングチェアーから出た長い足が、ぶらぶらと揺れていた。


 3月28日の朝。

 白雪さんから電話がかかってきたのは九時前だった。朝早くからお仕事お疲れ様だ。


「やらざるを得ない?」

「うん」


 桜が視線を向けた先には、ニュースが流れている大型テレビがあった。電話していたため消音にしていたが、テロップで内容はよく分かる。


 『ネームドモンスター出現!』『【王の帰還リターナー】再び!』とテロップが踊り、コメンテーターらしき男女が何か喋っていた。


「【王の帰還リターナー】……?」

「ひろくんが遭遇した魔物のことだよ。過去何度かあったんだけど、階層のレベルに合致していないヤバい魔物が出現すること」


「それをなんでADAが討伐しないといけないんだ?」

「一応、ダンジョンを管理するっていう建前でいろんな特権をもってるからね。探索者達が安全にダンジョンに挑んでアーティファクトを持って帰ってくる環境を保守したい人達がいるから。それを守るためにADAは動かないといけないみたい」

「はー、お役所仕事は大変だねぇ」


 俺も先月まではその一員だったわけだけど。


「ひろくんも行くの?」

「まあ、誘われたからね。一度関わった以上、一応最後までやらないと気持ち悪いからなぁ」

「ふふっ。損する性格だね」


 桜が苦笑いを浮かべる。全くその通りです。


「いつ行くの?」

「30日から潜って、31日に決行。帰りは1日か2日になるって。まさかのダンジョンでキャンプだよ」


 俺一人なら日帰りも余裕なんだけど、しっかり討伐隊が結成されるみたいだからそうはいかなかった。

 団体行動好きじゃないけど、さすがに大の大人がそれを言い訳に拒否するのは駄目すぎるだろう。


 まぁ、キャンプ道具等はADAが準備してくれるらしいので、気楽に行けば良いみたいだ。


「えーっ!? 2日は大学の入学式だ……私も行きたかったなぁ」


 あ、そっちね。てっきり、入学式を見に来てほしいって言うのかと思ったが、どうやらそれは大丈夫のようだ。まぁ、入学式なんて親と一緒に行って、帰りに美味しいものを食べに行くものだろう。俺の出る幕ではない。


「まぁまぁ、代わりにお金稼ぎに付き合うからね。入学式、それに免許の試験も頑張っておいで」

「うー……仕方ないかぁ。って、今何時?」


 時計を見て小さく悲鳴をあげる桜。


「やばっ、卒業試験始まっちゃう!」


 どたばたと三階に上がっていく桜。自分の部屋に荷物を取りに行ったんだろう。

 飲み残したカップを片付けながら、桜が降りてくるのを待つ。


 今日は桜の教習所卒業試験の日だ。

 上手くいけば明日が免許センターでの試験となる。桜のことだから多分大丈夫だとは思うけど、免許センターの試験は酷い問題が多いからなぁ。


「ごめん、ひろくん! お願いします!」

「あいよ」


 まぁ、とりあえずは俺のすべきことをしよう。まずは桜を教習所へ送り届ける。その後は、先生らしく将来設計の準備だ。




——あとがき


すみません……。

文字数調整のため、本日の第1話はここまでです。

次話も本日中に公開します。

よろしくお願いします!

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