第52話 倒してしまっても
受諾の一言のあと、会議室は一気に実務モードに切り替わった。室外で待機していた人達が戻ってきて、再び外に走り始める。
「装備はどうします?」
「自前ので大丈夫です。もし持って行った方が良いものがあれば教えてください」
「では、こちらを」
冴葉が素早く指を鳴らす。白雪さんをはじめスタッフが台車を押して入ってきて、テーブルに装備を並べた。
「導電繊維のインナー。帯電しても流して逃がします」
「絶縁ブーツ。滑りにくいソールです」
「携帯式の広域ビーコン受信機。保全班のタグに反応します」
次々に置かれる。どれも新品だ。
「それと、こちらを」
差し出されたのは、片耳に装着するBluetoothヘッドセットイヤホンみたいな機械だった。
「これは?」
「戦術情報支援ツール——通称【イルミネーター】。
基本概念はAR《拡張現実》と人工視覚の合わせ技です。詳細は省きますが、レンズ等のデバイス無しで様々な情報を相互伝達できます。オペレーター《こちら》との通信も可能ですし、ルートも表示できます」
なんか近未来な装備が出てきたな。
ダンジョンから様々なアイテムやアーティファクトが産出し始めて、既存の技術も大幅に底上げされている。
特にこのようなガジェット類や通信関係は顕著だ。今ではダンジョン内からでも
最近ではダンジョンアタックを生配信しているインフルエンサーもいる。商魂たくましい。
「後でオペレーター側の機器も提供しましょう。柾木さんと上手く使ってください」
「それは……太っ腹ですね」
「こういう時のための予算ですので」
冴葉が淡々と言う。妙に迫力があった。
「ところで、本当に単独潜行を——」
「大丈夫です。自分のペースで行った方が早く行けると思うので」
「……本音は止めたいところです。ですが、あなたの動きやすさを優先します。現地では常時リンクを——冴葉、オペを頼む」
伊達からADAの腕利きの同行させてはどうか、と提案を受けたが断る。
多分、俺の能力的に他の人に合わせて移動するより、一人での方が早いはずだ。
それに俺の力は極力隠したい。身体能力的なものは仕方ないけど、スキル関係は見せて得になることはない。
「19階層までのマップも公開します。前哨拠点に着いたら、資探のラインに乗ってください」
「分かりました」
俺は並べられた装備を手早く身につける。イルミネーターを装着すると、視界の隅に透明なディスプレイが表示され、いくつかの情報が流れた。幾度か通信の確認を行い、準備が完了する。
「桜さんには?」
「連絡してから行きます」
廊下に出て、伊達、冴葉はオペレートのために戦略情報通信室なる部屋へ向かう。俺は白雪さんに案内されながら、スタッフ専用エレベーターでダンジョン入口まで案内されていた。
スマホを取り出し、メッセージアプリを短く打つ。
——人助けで19階層まで行ってくる。戻ったら電話する。心配しないでおっけー。何かあれば白雪さんへよろしく。迎えは行くから大丈夫。
必要なことだけを短く伝える。数秒で既読となった。
スマホがぽこん、と小気味良い音と震えを出す。
『ぜったい無事で。信じてる』の文字と、小さな拳の絵文字。これだけで、十分だ。
エレベーターに乗ったところで、耳につけたイルミネーターから伊達の声が聞こえた。
『今回はあくまで行方不明者の発見、救助が第一目的です。接敵はできる限り避けてください』
「分かりました」
『万一、サンダー・ベルと遭遇したときは、避難を優先で』
「……でも、倒してしまっても構わないですよね?」
数旬の間が空いて、くくくと低く笑う声が聞こえた。
『ええ。それは最高ですね』
『柴田さん、確認です』
変わって冴葉の声が聞こえる。同時に視界の片隅にマップが表示された。マップ上にいくつかの緑の点が点滅する。
『現場周辺に、王獣の牙が使用していたと思われる"台車"が放棄されています。
もし要救助者が自力で動けない場合は、それに乗せて帰還してください』
「了解です」
『それと、もう一つ。今回の救出は極秘です。
王獣の牙が私設区画を作っているという“事実”は、現時点では公表していません。政治的な判断です。ですが——余力があれば、王獣の牙メンバーも救助お願いします。確認したいことがありますので』
「分かりました。できる限りで、対処します」
『助かります。では、ご武運を』
エレベーターが開き、ドアを二つくぐると、いつもの【門】に来た。
「行ってきます」
「気をつけてください」
白雪さんの心配気な声に片手を挙げ、【門】をくぐる。一瞬で、世界が変わった。
——あとがき
すみません……
どれくらいの文字数が適切かまだ迷っています。
今回も長くなりそうなので、ここで切ります。
本日中に続きは更新しますので、少々お待ちください。
よろしくお願いいたします。
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