逆さ湖と牙編
第50話 依頼
三月二十七日。午前九時。
我が新居の二階のリビングは穏やかに時間が流れていた。
オーク材のテーブルには、淹れたての黒烏龍茶。大きな窓からは薄曇りの空が見える。もしかしたら雨が降るのかもしれない。まぁ洗濯物は乾燥機で乾かしているから問題ない。
観葉植物の葉が、エアコンの気流でちょっとだけ揺れている。この静かな環境に響くのは、コントローラーがポチポチ鳴る音。俺のゲームの音だった。
——最高だ。
朝からまったりゲームをする。これだよ、これ。こういう生活を追い求めていたんだよ。
今は一人。桜は今教習所に行っている。夕方の迎えまではまだまだ時間があった。誰に気兼ねすることなく、好きなだけゲームができる。パソコンができる。最高だ。
だが、そんな幸せな時間は長く続かないのが、世の常である。
なんてな。そんなわけない。幸せな時間は長く続くべきだ。
ピピピ。
そんなわけない……こともなかった、か。
俺のスマホと連動して、壁のスマートディスプレイに白雪さんのアイコンがぴょこんと出た。ひとつため息をついてゲームをストップさせ、スマホの通話ボタンを押す。
「お疲れ様です。柴田です」
『失礼します。白雪です。今、少しお時間よろしいですか』
「あんまりない気がします」
『そんな冗談を言っている場合ではないんです。【空飛ぶ大福】への緊急依頼です』
——緊急依頼。
そもそもギルドは、探索者達の互助組織だ。それが年数を重ね大きくなり、営利企業のような側面をもつようになってきた。
クライアントから依頼を受け、要求されたアーティファクトの収集、資源の確保、モンスター討伐、護衛、エトセトラ。多岐に渡る依頼を受け、解決する。現代ではダンジョンを走破しその真実を探索する、まさに探索者という名前通りの役割だけではなくなっていた。
依頼は、基本的にクライアントが直接ギルドの窓口に連絡することが一般的だ。
あるいは、ADAが主催する探索者用サイト内に設置されてある『掲示板』にオファーを掲示し、自己推薦の探索者と契約することも多い。
例外的なものとしてあるのが、緊急依頼だ。
これは探索者という存在を管理するADAからの、緊急性の高い直接依頼といえる。
断ることもできるが、報酬が相場より多かったり便宜を図って貰えたりと、受諾する方がメリットがある。
だから結構人気だったりする。そもそもADAが持っている探索者、ギルドのデータベースを使って最適者を選定するので、緊急依頼が来ることの方がレアらしい。そんなものを、まだ出来たてのギルドに出すなよとは思う。
『——依頼は、救難です』
「……何がありました?」
だが、救難と聞いてしまい、断るのもどうかと思ってしまう俺は、お人好しなのか。
『場所は岡山ダンジョン十九層。資源探査部の保全班が全滅。数名が現場に取り残されており、その救助が必要です』
「全滅……」
『はい。詳細はこちらで。伊達も待機しています』
「分かりました。すぐ向かいます」
通話を切る。自分の部屋に戻り、ささっと着替える。最近、ダンジョン探索用に服も整えた。
登山では
ダンジョンの環境は階層ごとに異なるので、レインジャケットやパンツも携帯するようにしている。
二階に降り、ラボっぽい透明ガラスの部屋に入る。この部屋はダンジョン装備置き場となっていた。壁についたカウンターテーブルには高性能ラップトップ。可変棚にはダンジョン用の各種装備やカメラ類などのガジェットが揃っている。
そこに置いてあるスリングバッグを肩に回すのは、最低限の装備は持っているよアピールだ。ロープ、ハーネス、ヘッドライト、簡易AED、携帯式酸素メーター、ショック吸収ランヤードなど、ほとんどの装備はインベントリに入れてある。ただ使ったことはない。
玄関のトークンをジッパー付きのポケットに入れ、出発。
救難依頼。つまり人命が懸かる依頼だが、初めて依頼を受けるということに少し興奮していた。
エントランスの二重扉を抜けて外へ出る。拠点の目隠し塀越しに、春の空が輝いている。桜にメッセージアプリで伝言を残し、車に乗り込んだ。
——あとがき
この後が長くなりそうなので、一旦ここで切ります。
短くて申し訳ありません。
本日中に続きを更新しますので、少々お待ちください。
よろしくお願いいたします。
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