第49話 お茶の間【ワイドショー】

 オープニングのジングルが響く。白基調のスタジオでは、複数のカメラがREC状態になっていた。お昼のワイドショー【ライブ! アサクラ屋】の放送が始まった。


 おそらくお茶の間のテレビには、画面左上に『光魔法オーブが三本同時出品!』『最高落札額は千億超えか!?』のテロップが表示されていることだろう。


 ダンジョンが世間に浸透して、テレビ番組にも変化が出てきた。探索者やダンジョンの情報が結構な頻度で取り扱われるようになってきたのだ。


 内容はダンジョンの探索状況だけでなく、アイドル化した探索者の様子やドキュメンタリー、有力ギルド特集、さらにはダンジョンを題材にしたバラエティ——実際にモンスターを倒しにいくアクティビティを録画したもの——など多岐にわたっている。


 本日の【ライブ! アサクラ屋】でも、そんなダンジョンの話題が扱われることになった。そのテーマは——。


 MCの朝倉が胡散臭い笑顔で、カメラに振り向く。


「今日のテーマはダンジョン特集です。ズバリ、ADAの公式オークションで【光魔法】のスキルオーブが三本同時に出品されるという前代未聞の衝撃が生まれました。落札価格は千億を超えると言われ、市場がざわついています」


 大きな身振りで朝倉が唾を飛ばす。


「ということで、本日は魔法スキルに詳しい、元ダンジョン庁技術戦略室の三条さんと装備商社【オリハレン】の里見さんにお越し頂きました。お二方よろしくお願いします」


 コメンテーターの三条にカメラがズームする。


「そもそも、ここまで世間が騒いでいる理由というのは何なんでしょう。スキルオーブのオークションが開催されたことは、過去数えきれずあると思いますが」


「そうですね。理由は三つ考えられます。

 まず今回の出品オーブが、そもそも世に出たのが初だったこと。

 二つ目はそれが原始魔法オリジン——要は無限の可能性を秘める魔法スキルであったこと。

 最後に全てが★《シングル》であったこと。

 三つの奇跡が重なり、世界は衝撃を受けたわけです」


「★《シングル》、というのは何か。こちらをご覧ください」


 スキルオーダーの図解が大モニターに映る。


「里見さん、これはどういうものでしょうか」

「はい。人類がダンジョンに接触することで、天稟と呼ばれる素養が発現します。

 これは個人差があるんですが、星の数で表され、星が多い程スキルオーブの使用範囲が広がるわけですね」


 図解には、スキルオーダー=必要な天稟の数と表示されている。


「一方で、スキルオーブにも必ず星の数が備わっています。

 こちらはスキルオーダーと呼ばれ、この数以上の天稟を持っている人でなければ、スキルの取得ができない、というわけです。

 人類の天稟の平均数はおよそ2.1と言われていますので、星が二つ以下のスキルオーブでないと修得可能者は一気に減ってしまうわけです。

 これは逆に言えば、星が二つ以下のスキルオーブであれば、修得可能者が多いということです」


「なるほど。では、今回の【光魔法】のスキルオーブは、誰にでも魔法を与える夢のオーブだということなんですね」


「ええ。初出のスキルですのでその効果は分かりませんが、他の原始魔法オリジンが極大の力をもっていることから、その可能性はとてつもなく高いと考えられます」


「実際、どうなんでしょう。三条さんの経験的に、どのような効能があると予想されますか?」


 事前に台本を受け取っていた三条は、まるで今考えているかのように一拍間を開け、しっかりと考えてきた推論を口にする。


「そうですね。光魔法は光という属性に関与する魔法です。

 攻撃、防御、回復、支援。あらゆる側面において、卓越した力を発揮することは間違いありません。

 たとえば、高出力のレーザー兵器など既に光を活用した兵器がありますよね? あれが人の身体のみで実現できるかもしれません。

 あるいは光遺伝学。光を使い細胞の働きを防ぐことで治療に活用するものですが、その延長線上には浄化魔法や回復魔法があるのかもしれません。

 光とは視覚情報でもあるわけですので、ステルスや幻影なども使える可能性はあります。私的には、某映画のように光の剣などを生み出せればロマンを感じますがね」


「つ、つまりは軍事、治安、医療、救難、公衆衛生、あらゆる分野に応用の利く魔法というわけですか」

「はい。そして、それを誰でも扱えるようになる。世界が騒ぐわけです」


 アシスタントの女子アナが眉を上げる。


「それが三つ。さらに、同一の出品者によって出品されたスキルオーブが二つ。この五つ全てが★《シングル》、というのも珍しいんですか?」


「極めて」と里見が頷く。


「統計的にはほぼゼロに近いと言えます。まだ宝くじの一等を何度も当てる方が簡単ですね」

「そんなレアなことを“たまたま”で五回連続再現できる人がいたら、その人にとってはもう“たまたま”ではない、ということですよ」

「——それは、スキルオーブを作れるということでしょうか」


 MCの朝倉が、大袈裟に顔を作る。


「……オーブを作るという発想は現状、完全に不可能とされています。ですので、今回の同時出品は製造ではなく、回収した在庫の放出タイミングを揃えたとみるのが自然ではないでしょうか。これはあくまで市場の見立てに過ぎませんが」


 里見は慎重に言葉を選びながら答えた。


「では、どこかに確率ゼロを突破する存在がいるわけではないということでしょうか」

「おそらく。大手ギルドが非公式にダンジョンを走破したという噂もあります。そんなギルドが人海戦術で挑めば可能だと思いますね」

「私は、そうだとは思えませんね。いくら人を増やしても、ゼロがイチになることはないですから」


 三条が里見の説を一刀両断する。


「おっと、三条さんのご意見も伺いたいところですが、少し時間が押しているようです。では、次のテーマです」

「はい。次はこちら。誰が買うのか」


 女子アナがフリップで現在の落札予想価格を表した。


「自国戦力を底上げしたい各国の公的セクターと、トップランカー達の争いでしょうね」

「『戦闘機やミサイルを買うよりも、スキルのほうが戦力になる』――これはもう周知の事実です。各国はスキル、あるいは探索者を戦力として捉えるようになっています」


「アメリカやロシア、イスラエル。様々な国が戦闘に有効なスキル保持者の部隊を作るほどですからね」

「トップランカーでは、ランク2から陥落したロシアのイワン・ムラトフ氏が購入に動いているという噂もありますよね?」

「ええ。それに、名前で言えば――今、いちばん世界が気にしている“名前”は別にあります」


 朝倉が身を乗り出す。


「新しいランクワン——H.Shibata?」


 スタジオに微妙なざわめきが走る。三条は苦笑した。


「ええ。神碑オベリスクのランキングに登録されているランクワンです。

 誰もがその名前を知っているが、顔が出ない。今回の出品との関係は不明。ただ私は、この人だと睨んでいるんですよね。“無名のまま世界を動かす存在”がいる、という事実が――一番のニュースなのかもしれません」


「なるほど。そのランクワンについてですが、防衛省への取材で面白い事実が出てきました。こちらの映像をご覧ください。ランク8として日本を代表する探索者、水瀬伊織特任尉官のインタビュー映像になります」


 ここでVTRに映像が切り替わった。

 映像の中では、水瀬が何人もの記者に囲まれている姿が映っていた。マイクを向けられ、困った表情をする彼女に、何度もフラッシュが炊かれる。


「——では、【光魔法】を修得したという噂は本当なんですね!?」

「はい。間違いありません」


「SNSなどでは、世界初の原始魔法オリジン二属性ダブルと騒がれています。どんなお気持ちですか?」


「身の引き締まる思いです。より精進していきたいですね」

「新たな力の手応えは?」

「詳細は控えますが、選択肢は大幅に増えたと思います。まだまだ研鑽は必要ですが」


 インタビュー慣れしているのか、水瀬はいくつものカメラやマイクを向けらても、平気な顔で答えていた。だが——。


「非公式の情報では、光魔法のスキルオーブは謎のランクワンが出品したものだとあります。実際にどうだったんですか? 受け渡しでランクワンと会いましたか?」


 その質問で、水瀬の睫毛がほんのわずかに震えた。言葉を選ぶ気配が生まれる。


「……出品者についての情報は守秘義務に該当しますのでお答えできません。ですが——」


 防衛省の広報担当の女性とアイコンタクトをする。その女性は顔を横に振った。


「憧れの人ができました」


 その瞬間、記者達に爆発的などよめきが起こる。何人かは「スクープだ!」と叫びながら、囲み取材の中から飛び出していく。広報の女性は額を抑えながら、大きくため息をついた。


「それは、恋人、ということでしょうか!?」

「恋愛関係が!?」

「実際、どうなんですか!? もうお付き合いを!?」

「ランクワンと!?」

「申し訳ありません。以上で取材は終了となります!」


 押し寄せる取材陣の間に入り込んだ広報担当は、水瀬を引っ張ってその場を離れる。何人もの記者がフラッシュを炊きながら追いかけていった。

 そこで映像がスタジオに戻る。朝倉が両手を叩いた。


「さぁ、盛り上がって参りました! 水瀬特任尉官が憧れの人とまで言い切った相手は誰なのか。話題は──もちろん新ランクワン、神碑オベリスクの登録名H.Shibataです」


 女子アナがフリップを掲げる。左に「確定情報」、右に「噂と仮説」とあった。


「まずは事実から。神碑の表示ではH.Shibata。国籍は日本。顔出し・プロフィールは一切なし。以上が確定です」

「少なっ! ほとんど不明というわけですね」


 朝倉が肩をすくめる。


「少ないからこそ、追い求め燃えるのが人の性でしょう」


 と三条が苦笑する。


「では、情報筋やSNSで出てきた噂を見てみましょう」


 女子アナが指し棒で右側を示す。ボードには大きく四つのタイトルが並んでいた。


 ① あの某アイドル(T・K)

 ② ギルド【王獅子】の隠し玉

 ③ 市井の無名探索者(普通の人に見える超人)

 ④ チーム運用の単一ID説(実は複数人)


「なるほどなるほど。いろいろとありますね。では、お二人の見立てを」


 朝倉が聞くと、まず三条が答えた。


「④は薄いですね。神碑は個人に紐づきます。支援体制はあっても、【位】は本人に帰属する設計ですね。もし④であるとしたら、少なくとも私は単独主体+厚いサポートだと見ます」


「②は業界的にはあり得るけど、なら顔を隠す動機が薄いです。売名して勧誘や資金調達に回すのが定石ですから。匿名を貫くのは、余計な横槍を避けたいか、個人の生活を死守したいかのどちらかでしょう。大手ギルド所属とは考えにくいですね」


「確かに。ですが①は夢がありますね」


 と朝倉がニヤつく。


「SNSでは、探索者アイドルとして絶大な人気を誇るT・Kではないかという声が絶えないようです。検証動画がバズってますね」

「映像がないのに検証動画はどう作っているんでしょうね」


 と女子アナが疑問を呈するが、スルーされた。


「私は③に1票ですね」


 三条が再び口を開く。


「強者には物語が宿りがちですが、その序章は地味で堅実であることがほとんどです。ですが世界は──」


 言いかけて、三条は言葉をのみ込んだ。


「失礼、ここは推測が過ぎますね。要するに地味で、堅実な、そういうタイプではないでしょうか」


「結局、正体は分からない。でも名前はもう世界で有数のものになった。H.Shibata——おそらく、シバタさん。日本人なら、誇らしく表舞台に立ってほしいものです。世間はそれを求めいていますからね!」


 モニターに「情報求む」と大きく出現し、朝倉がそれを叩いた。


「では、次の話題です——」


 女子アナが引き継ぎ、テロップが『ダンジョン外に魔物出現!?』と物騒なものに変わった。


 ランクワン——浩之は、本人が望む望まないに関わらず、徐々に世界へと現れていく。

 伝説のはじまりだった。






——あとがき


以上で第2章は終了です。

ここまでお読みいただきありがとうございました!


第3章もこの調子でやっていこうと思いますので、応援よろしくお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る