第23話 ゴブリンのスキル
体躯は1メートルあるかないか。異様に耳と鼻が大きく、絵本に出てくる魔法使いのお婆さんのようだ。肌が薄く緑色なのも薄気味悪さを増長させていた。
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【ゴブリン】
ヒト型モンスター。小柄な体躯だが、それ故の俊敏さをもっている。
異常な性欲と繁殖力をもっているため、同種族以外にも種付けが可能。
すぐに仲間を呼び、連携して獲物を捕獲あるいは殺害する。
【位】 最下級モンスター
【恩恵】 性欲
【天稟】 ★
【スキル】早熟・繁殖力
潜在能力値 0.21
生命力 23 / 25
精神力 10 / 10
筋力 5
体力 7
器用 3
敏捷 11
知力 4
魔力 2
【ドロップリスト】
・ゴブリンの皮 ON
・ゴブリンの牙 ON
・ゴブリンの腰布 ON
・【早熟】スキル ON
・【繁殖力向上】スキル ON
【 DR設定】
・ゴブリンの皮 1 / 8
・ゴブリンの牙 1 / 16
・ゴブリンの腰布 1 / 4
・【早熟】スキル 1 / 500,000
・【繁殖力向上】スキル 1 / 1,000,000
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目を引くのが、今までとは比べものにならないほど高確率となったドロップ率だ。
4層までは何千億とか何兆とかという天文学的な確率がほとんどだったのに対し、ゴブリンのドロップ率は月とすっぽんだ。
この数値の差を見れば、4層までのモンスターはアーティファクトやスキルオーブをドロップしないという概念になってしまうのも仕方ないことが分かる。
「ぎしゃあ」
貧相な装備の俺を見て、格好の餌と思ったのか。目の前のゴブリンは、ニタリと大きな口を歪ませる。
「ぎゃおおおおおおおおおおっ」
突然の咆哮。何事かと思うが、答えはすぐに出た。
「ぎひっ!」
「ぎゅふふっ!」
草むらをかき分け、四方からわらわらとゴブリンが現れる。
ゴブリンAは仲間を呼んだ。ゴブリンBが現れた。ゴブリンCが現れた。以下同文ってことか。
総勢7匹のゴブリンに囲まれる。どのゴブリンも薄汚れた布きれを身にまとっているが、手に持つ獲物はそれぞれ違っていた。岩の塊のような棍棒やギザギザに欠けた青銅の剣、竹のような槍を持つヤツもいる。
さっと目を走らせるが、どうやら全員近接武器だけのようで遠距離武器を持つヤツはいない。
「ぎゅおおおおおっ!」
じりじりとにじり寄ってきていたゴブリンの1匹が、雄叫びを上げながら飛びかかってきた。
それを難なく避け、インベントリから瞬時に取り出した武器で隙だらけとなったゴブリンを打ち据えた。
瞬間、木っ端みじんに吹き飛ぶゴブリン。完全なるオーバーキル。なんなら細かな肉片とか血しぶきすら、俺の振るった武器の風圧で吹き飛んでいた。
「ぎゅおっ!?」
完全なる余裕の表情から一変、仲間のゴブリン達が驚愕した表情で動きを止める。
「……ふっ」
格好つけながら手に持った武器を軽く振るい、剣道のように正眼に構えた。
俺の持つ武器――
木刀。ダンジョン探索のために入手した武器だ。
剣道や刀剣術の習いなんて皆無だが、武器と言えばやっぱり刀だろうという舐めた発想で入手した木刀。
本当は日本刀が良かったが、そんなものを買う伝手もお金もなく、仕方なく市内の剣道関連ショップで購入してきた。
ただ普通に使えば俺の筋力に耐えられるわけもないので、【全てはあなたの心のなかにある】スキルで魔改造済みだ。
高い耐久性と汚れ防止のための浄化機能を併せ持った、俺のスーパー木刀。銘を天地無用。我が岡山が舞台となったアニメから拝借した。
意味は全くもって関係ないが、響きだけで決定。ナイスなネーミングセンスだと自画自賛している。
「ぎしゃあああ!!」
戦略的撤退という言葉とは無縁なのか、残ったゴブリン達が一斉に迫ってくる。
が、一振りで殲滅。
まったく盛り上がることのない戦闘シーンに、これが漫画ならクレームものだなぁと場違いな感想を抱く。
一瞬でゴブリン達を片付けた後は、お楽しみのドロップアイテムの時間だ――と言いたいところだが。
「なんかほしいものがない……」
これらをアーティファクトと言って良いのか甚だ疑問な、見るからに汚そうな皮や牙。使うことに不安しか感じさせないスキルオーブ。ドロップしてもあまり嬉しくないだろう、これは。
いや、一応貰っておくけれども。
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【ゴブリンの皮】
耐久性はそこそこあり軽量のため簡易的な革製品に使用できる。
しかし、匂いや汚れがキツいため、あまり好まれない。
【ゴブリンの牙】
様々な薬や魔法薬の素材となるが、効能は低い。
【ゴブリンの腰布】
汚い、臭い、使い道がない。ゴミ。
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うーん……解析してみても、微妙さが際立つな。
スキルオーブも、一応解析してみる。確かどちらも既に発見されているはずだが、まだ明らかになっていない効果があるかもしれない。
ADAのデータベースによれば、【早熟】スキルは成長が早くなるスキル、【繁殖力向上】は畜産動物の繁殖力を向上させるスキルだった。
以前見た情報なのに、簡単に正確に思い出すことができる。俺のステータスが向上したことによって、記憶力も抜群に良くなっているからだ。段々この能力に慣れてきたのか、扱い方も上手くなってきている気がするな。
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【早熟】スキル
スキルオーダー:(-)★(+)
獲得できる能力経験値が1.5倍になる。
しかし、一定の能力値に到達すると獲得できる能力経験値は0.5倍となる。
さらに各能力値において500が上限値となる。
【繁殖力向上】スキル
スキルオーダー:(-)★★(+)
繁殖能力が向上し、生まれてくる子どもの健康に対して補正がかかる。
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「おっ、これはこれで悪くないのかも」
そもそも【早熟】スキルは、成長が早くなるスキルとして知られている。
ダンジョン探索を生業にする者からすれば、己の能力が早く成長できるこのスキルは垂涎のスキルだ。
ただ、この”成長”というものを客観的に表すことはなかなかに困難だ。なぜならゲームのように個人の能力を数値化することは、基本的に不可能とされている。
それこそ俺のスキルや、もしかしたら存在するかもしれない【鑑定】【解析】【調査】等々のスキルがあれば可能になるかもしれないが、現状は不可能ということになる。
ただ、能力の数値化はできなくても、経験として体感する”成長”を知ることはできる。
例えば今まで倒すのに十手必要だったモンスターを、八手で倒すことができるようになった。100メートル走で記録が2秒速くなった。ナイフで刺されても掠り傷にしかならなくなった。
そんな変化は、長期間の訓練の積み重ねのたまものであったはずなのに、ダンジョンはそれを変革させた。
モンスターを倒すことが、能力の成長を促す。
数年間かけて訓練することで得られる力を、わずか数ヶ月のダンジョン探索で獲得できてしまう。確実な証明は難しくても、それが世界の常識となるのに時間はかからなかったわけだ。
で、今回手に入れた【早熟】スキルは、どうやらこの成長する力——いわゆる経験値を増やせるようだ。
つまり同じ時間同じ行動をしても、得られる経験値がスキル未所持者と比べて大きくなるというわけだな。
ただ落とし穴もある。
ある一定の成長の後は、獲得できる能力経験値が低下してしまうことに加え、能力に
スタートダッシュは決められるけれど、スタミナがないマラソン選手になってしまうようだ。
それにCAPの設定はツラいと思う。
能力値500は、現時点での一般探索者にとっては高い数値っぽい。
探索者でない一般人の能力の平均は、俺調べで10前後。得手不得手で前後するとは言え、高くても20はいかないし、低くても3は下回らない。
小中学生でも平均5前後はある。
では、探索者はどうかというと、岡山ダンジョンで名の知れたベテランさんが、高い能力値で700に行くか行かない程だった。一般探索者でも300を超える能力がある人は稀だったし、まだまだ人類のレベルは低いと言えるんじゃないだろうか。
だって、あの我が家のダンジョンの龍とか軒並み万越えだもんな。高いのに至っては5万とかあったし、低くても万を下回るものはなかった。ヤバすぎだろ、あいつ。人類勝てるのか。
俺の能力も65535まではカウントされていたから、一般的な最高値はそれくらいなんだろうか。
それが500に制限されるのは先が見えなくなってしまうんじゃないだろうか。
ただ、この情報は公開したとしても信じてもらえないだろうし、証明もできないしなぁ。それとなく白雪さんに伝えて、注意喚起してもらうしかないと思う。
甘い話には裏があるっていうのは当たり前だしね。
「こっちの【繁殖力向上】はデメリットなさそうなんだよな」
繁殖能力が向上し、生まれてくる子どもの健康に対して補正がかかるスキル。
文言からは人間にも使えそうだから、不妊に悩む人たちにとってはありがたいスキルかもしれない。しかも、生まれてくる子どもに補正ブーストがかかるオマケ付きだからな。
まぁこれも証明できないのでどうしようもないが。
そして証明できない故に、このスキルの価値は高くない。
現状畜産動物にしか使用していないようだし、使用してもスキルの効果があるのはその動物だけで、次世代に引き継がれるわけではない。費用対効果が悪すぎるのが、価値が低くなってしまう原因だな。
ちなみに動物も
魔法を使う動物とか格好良い気がする。
そのうち【言語理解】的なスキルが発見されて、意思の疎通ができる動物ができてきてもおかしくはない。いや、動物の脳的に適切な会話ができるかは微妙かな。
しかし俺だけが知っている情報が増えてきた。
これが共有できれば、もっとダンジョン探索の進展や社会の発展に寄与できるかもしれないが、そこまでするのも面倒くさいしなぁ。
対価を得られるなら
こういう情報は複数の証言がないと信じてもらえないだろう。いや、でも確実な証明はできなくても情報を「正しいかも」と思わせることはできる、か。
「そうか……」
解析が必要なスキルやアイテムの情報を”ウリ”にする事業でも始めようか。
こちらが発信する情報への信頼が必要だけど、要求されるスキルオーブを提供したり、スキルオーダーを低く再設定したりするサービスでもあれば、すぐに信頼されそうな気はする。
情報は力ともよく言われるしな。
これはちょっと本気で考えても良いかもしれない。
スキルオーブを売りさばいて財産を築くのも良いけれど、どうせならお金だけでなく名声も稼いでみたい。俺の名を伝説にするのも格好良いと思うのは、力を得たことで厨二病的な発想が再燃してきてしまったせいなのかもしれないな。
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