第22話 岡山ダンジョン、再び

 桜家の呪い騒動から一週間が経過した。


 正確にはまだ騒動は解決したわけではないが、これ以上は相手のリアクション待ちになってしまう。相手――大河原和馬がどう動くかでこちらの対応も変わるわけだが、目的が何であれ桜家に対する手の込みようからもこのまま諦めて終わるとは考えられない。


 完全に待ちの状態になってしまうと、少し居心地の悪さを感じてしまう。俺としてはこういうトラブルはすぐに解決して、気持ちよく次に進んでいきたいと思ってしまうからだ。


 まあ俺の気持ちで何かが変わるわけではないんだけどね。

 結局、桜のボディーガードの話は承諾することになったが、実際にいつからするのかというと、もうしばらく後になるようだ。


 桜たちは桜のお母さん――椿さんの全快を祝って、家族旅行に行くことになったからだ。

 行き先は日本全国の温泉街。海外旅行等も候補に入ったみたいだが、思う存分温泉に入りたいという椿さんの要望に応える形で、鹿児島から北海道までの温泉を制覇するらしい。

 すぐさま日本一周旅行を決めてしまう財力と実行力はさすがだ。


 桜はダンジョンにいち早く行きたいようだったが、それでも椿さんの全快祝いの方を優先する冷静さは残っていた。

 それに春からは大学生となるため、ますます家族旅行に行くタイミングがなくなってしまうのも分かっていたんだろう。


『ひろくん、帰ってきたら絶対に一緒に行ってくださいね!!』と言いながら旅立っていた。俺の呼び方が『先生』から『ひろくん』になっているのは、俺がもう教師じゃなくなったからだ。


『先生じゃなくなったから先生って呼ぶのおかしいですよね。なんて呼びましょう。柴田さんは他人行儀過ぎるし。先生の名前は浩之でしたよね。ひろゆきって呼び捨ては失礼だから、じゃあひろくんでいいですか。いいですね。うん、そうしましょう』と顔を真っ赤にしながらめっちゃ早口で言ってきた。


 既に家では『ひろくん』って呼んでいたのは知っているが、それを伝えない優しさを俺はもっている。可愛いヤツめ。


 何はともあれ、旅行から帰ってくる二週間後までは自由に過ごせるわけだ。


 自由に過ごせると言いつつも、桜の相手をするのは嫌ではない。何事にも一生懸命な桜と一緒にいれることは楽しいし、頼られるのも悪い気はしない……というか嬉しい。実際に、早く旅行から帰ってこないかなと思ってしまう自分がいた。


「まぁ、やれることやっとくかー」


 ダンジョンに入り、大きく伸びをする。

 いつもの岡山ダンジョンだ。


 この数日で、4階層まで到達している。初心者の壁となる5階層突破まで、あと僅かというところだ。ただ、5階層に行かずとも、新しいモンスターと遭遇することができた。結果手に入れたスキルオーブやアーティファクトも多少増えて、俺のインベントリを賑わせていた。


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 ・【物理耐性】スキル × 35

 ・【回復促進】スキル × 35

 ・【空間魔法・拡張空間】スキル × 35

 ・【毒魔法・ポイズンボール】スキル × 25

 ・【光魔法】スキル × 33

 ・【伸縮】スキル

 × 19

 ・【草魔法・植物分析】スキル × 13

 ・【筋力向上(Ⅰ)】スキル

 × 13

 ・【光魔法 - 浄化】スキル × 13

 ・【水魔法・アクアボール】スキル × 14

 ・【水魔法】スキル × 13

 ・【光魔法 - 殺菌】スキル × 13

 ・ヒールポーション × 30

 ・キュアポーション × 24

 ・きのこ胞子 × 25

 ・オナス(5個入り) × 13

 ・発芽剤

 × 13

 ・空間拡張源(Ⅰ) × 31

 ・暗視草 × 9 

 ・スコップ × 9

 ・オリハルコン

 × 19

 ・極上石鹸 × 8


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 個数に差があるのは、俺が使ったモノもあるからだ。


 特に嬉しかったのが、【光魔法 - 浄化】だろう。

 これは、本来はアンデッド系のモンスターに効果のある魔法らしいのだが、健康な人間に使用することで心身共にキレイさっぱりにしてくれる超魔法なのだ。


 さらには衣服などの汚れにも効果があるようで、入浴洗濯の面倒くささから解放されてしまった。


 ちなみに【浄化】、【殺菌】の両スキルオーブを使用した時、【光魔法】の原始魔法オリジンを俺は取得していたので新しいスキルにはならず使い方が理解できるだけだった。


 どうやら原始魔法オリジンをもつ属性の制限魔法――魔術のスキルオーブを使用すると、スキルとして取得するのではなく、魔法の応用方法として理解できるようになるようだ。まぁ使える分には変わらないのでどっちでも構わない。


 そういえば、今回初めて知ったのだが、ダンジョンで神碑オベリスクに触れていない人間にはスキルオーブは使用できない仕様になっているようだ。


 旅行に行く桜一家が少しでも安全になるよう、桜に【光魔法】のスキルオーブを使わせようとしたが、残念ながら使用した瞬間光の粒子となって消えてしまった。もちろん能力は身についていなかった。


 軽く百億は超えると言われるスキルオーブを簡単に与えてしまうことも、完全なる無駄遣いをしてしまったことも、誰かが聞いたら発狂しそうなことを平気でやってのけてしまったわけだが、後悔は一切ない。


 これが毎日オーブをゲットできる者の余裕ということか……。


 桜には【光魔法】のスキルオーブを何個も見せて、余分があるからということで無理矢理使わせた。それでも申し訳なさそうにしていたが、完全に俺の責任なので気にしないでほしい。


 後は、面白いアーティファクトとして、2階層で出てくる【どどめ草】というモンスターがドロップした【発芽剤】というのがあった。


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 【発芽剤】

 これを振りまいたところに応じて、その場所に適応したモノが発芽する。

 不毛な大地には熱に強い草を、氷の大地には寒さに強い草を。

 髪の抜けた頭には……。

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 俺の解析さんによると、中年男性だけでなく、全世界待望の薬である発毛剤ではないかと思われる。使用デメリットはないようなので、これも販売を考えている。


 販売といえば、そろそろスキルオーブを売ってもいい頃かもしれない。

 いろいろドタバタしていて後回しにしていたが、白雪さんが会う度にどうするか聞いてくるからな。

 一度どれくらいで売れるのか、試してみたい気持ちもある。


 【光魔法】のスキルオーブは目玉商品として1個は出すとして、後は【物理耐性】と【回復促進】のスキルオーブくらい出してみようかな。


 どれも1階層の友であるスライム君がくれるから、入手も容易だ。

 ただ、ダンジョンの上層はエンカウント率が結構低いようで、なかなかモンスターと対峙できないのが難点だけどね。アイテム収集には時間がかかってしまう。


 そんなことを考えながら探索を進めていると、ついに5階層に降りる階段を発見した。


 階段を降りると、そこは草原だった。

 さっきまで鬱屈とした洞窟内にいたはずなのに、突然の草原、そして降り注ぐ陽光に目がしばたく。


 後ろを向けば、降りてきた階段を囲む大きなかまくらのような岩と洞穴があった。

 洞穴の中には確かに上り階段が見えるが、階段を覆い囲む岩の上には青い空が広がっている。一体階段はどこに行ったのか、摩訶不思議な光景がそこにあった。


「さすがダンジョン」


 通常の物理法則や世界の常識を簡単に蹴り飛ばしてしまうダンジョンの凄さを、改めて思い知った。


「さて、どうするかな」


 地平線の彼方まで続いてるかのような草原。コンパスがないと一瞬で迷子になってしまいそうだ。というかダンジョンでコンパスなんて効果あるのか、甚だ疑問だ。


「とりあえず、この岩を目印に探索してみようかな」


 階段を囲む大きな岩は、結構な大きさで目立っている。大きく離れない限りは、すぐに目に入るであろう大きさだ。

 安全第一。のんびり楽しく探索していければ良いと思う。


「5階層からが本番だっていうしな」


 一体誰に喋っているのか自分でも分からないが、一人でこんなところダンジョンにいるのは寂しさと心細さでたまらなくなってしまう。確かに探索のワクワク感もあるし、次々と手に入るアーティファクトやスキルオーブも心を躍らせるけれど、それとは別問題なわけだ。


 もしかしたら桜の護衛を快く了承したのは、一人でのダンジョン探索に不安があったからかもしれない。


 何はともあれ、この5階層に足を踏み入れた瞬間からそういったノスタルジックな気持ちを抱きつつも油断は一切していない。


 ダンジョン探索のドキドキ感をしっかり味わうために、あまり予備知識を入れないようにしているが、噂では何度か聞いたことがある。


 この5階層から出てくるモンスターは、これまでの上層とは違う本格的な怪物になるらしい。

 初心者がぶち当たるダンジョンの初めての”壁”。


 油断すれば簡単に命が散ってしまう、ゲームとは違う現実のダンジョン。

 しかし、リスクは高くなるが、モンスターがアイテムをドロップし始める、まさにハイリスクハイリターンな、本当のダンジョンの始まり。


 そんな噂を耳にしていたからか、突然目の間に現れたモンスターに少しビビっている。


「ぐるぅるる」


 大きく開かれた口から覗く牙。そして振りまかれる涎。少し離れたここからでも据えた匂いが漂ってくるのは、ヤツが身につけている布がボロくて汚れているせいだろう。


 ゴブリン――。




——あとがき

中途半端ですが、長くなるので一旦ここで切ります。

続きは、本日中に更新します。

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