第6話
天人族。それはその名の通り神代の時代より天に浮かぶ島々に住み大空を駆ける権能を持った一族である。創世記の頃よりたびたび文献に登場してきたが現在に至るまで地上勢力に干渉することはめったになく、唯一の例外である帝国の首脳との年に1回の恒例会談以外ではその姿を現すことすらない。また、住み着いた土地柄か神代の技術の扱いに長けているとされる。
権能。創世神話によればそれは神代の時代に生とし生ける種すべてに与えられた神の御業の一端であり、一部例外を除いて親から子へ、子から孫へと継承する贈り物でもある。強き権能は強者の証であり、並大抵の技術でその力の差を覆すことはできない。
…唐突に広い空間に無機質な音声が響き渡った。次第に照明がつき、目の前の瓶の中の少女はまるで氷が溶けるようにその雰囲気が温かな有機的なものになった。
「っうぉ!?」
いきなり、横たわるガラス瓶の上半分が開いて中から少女が露になった。
「…君は?…」
ゆっくりと少女の金色の眼がひらく。少女は辺りを見渡したあとへイムルの方を眺める。視界が安定していないのだろうか、焦点は合っていないようだ。
「………ダルナ?…良かった。無事生きてたんだね…」
「ダル…ナ?すまない、たぶんそれは人違いだ。俺はへイムル • ラグナルズドッティル。騎士ブリタの養子だ。」
「あら、違った?ごめんなさい。あなたが友人ににてたからつい。特にそのきれいな瞳とか…」
少女の口から耳を疑うような言葉が飛び出した。へイムルは瞳の色も権能と同じく親から受け継ぐものだと母に聞かされてきた。だからこそお前のその唯一無二の炎のような瞳は母の自慢だ、とも。
「待ってくれ、俺は今まで生きてきて同じ色の瞳を持つ人間には会ったことがないんだ。そのダルナ?について教えてくれないか?」
「んー…いいよ。でも、少し疲れて眠いから…また…今度ね…」
「…え?!」
へイムルの困惑をよそに、少女はまたもや眠りについてしまった。今回は、スースーと規則正しい寝息を立てて。
…ラグナルズドッティル城。
ブリタの執務室のドアが乱暴にノックされ、開け放たれる。
「何者か!…まて、ヒルムとハルドルか。…何か、あったのか?」
ブリタが圧を込めて振り返った先には、肩で息をしながら満身創痍の2人がいた。
「ゴホッ…ご報告を。…偵察中に、遺跡を発見。…神代の魔物と交戦…遺跡内部に退避した折、…隊長が…遺跡の床の崩落に巻き込まれ消息不明。捜索隊の、出動を!」
そう言い終えると、ヒルムはその隈のできた顔をカーペットに打ち付けて倒れた。
「まて、神代の魔物がいたのか!?…数は?」
「それが、落下してきた飛来物は神代の遺跡であった模様。…正確な数は不明ですが、我々が交戦しただけでもサソリ型が最低20ほどは…大切なご令息を守れず、誠に申しの開きようもございません!」
そう言い、ハルドルは地に頭を付けひれ伏す。
「…わかった…私が出よう。正直他の奴らに務まるとも思わんしな。逆によくぞ生きて情報を持ち帰ってくれた。」
「お、お待ちください叔母上!それはあまりにも危険でございます!」
「お前は私を誰だと心得るんだ?有無は言わせん。留守の間の執務は任せたぞ。」
おそらく拒絶して入るものの頭ではわかっているのだろう。現状これが最も良い一手であることを。ハルドルは立ち上がり、苦虫を噛み潰したような表情で敬礼した。
「…ご武運を!」
「…ああ」
そう短く放ち、机の上の使い古した手袋と壁際に飾られているバスターソードをつかんで執務室をあとにしたブリタは厩舎に立ち寄り愛馬のスキンクファシにまたがり、疾風の如き速度で城門を抜けていった。
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