第44話 雨上がりの放課後

「帰ろうぜ」

「雨も止んだみたいなんだなぁ」

ホームルームが終わって、

皆が次々と教室を出ていく中、

僕が鞄に荷物を入れていると

圭太と良司が急かした。

「今日はちょっと用事があるから

 2人で先に帰っていいよ」

「何だよ。

 今日は『ひととせ』に寄って

 晩飯を食ってから帰ろうって

 良司と話してたのによ」

「冬至のお父さんの料理は

 美味いんだなぁ」

圭太は口を尖らせ良司は肩を落とした。

「仕方ねえな。

 2人で行くか?」

「そうなんだなぁ。

 そのうち冬至も帰ってくるんだなぁ」

「ちょ、ちょっと待って!

 み、店はダメだって」

「心配すんなって。

 お前のツケにはしないから」

「うんうん。

 お金はあるんだなぁ」

「い、いや・・その・・。

 そうだ!

 今日は予約が入ってて

 店は貸し切りなんだ」

僕は咄嗟に嘘を吐いた。

「ちぇっ。

 それなら真っ直ぐ帰るか?」

「駅前の『鶏ネギラーメン』を

 食べてから帰るんだなぁ」

「そうするか」

そして2人は渋々と教室から出ていった。

「いつ予約が入ったのかしら?」

幻夜が鞄に荷物を入れながら呟いた。

「み、店でアルバイトをしてることが

 バレたらそっちだって困るだろ?

 そ、それに。

 同じ屋根の下で暮らしてることが

 あいつらに知られたら・・」

「私は別に構わないわよ?

 あと。

 私はアルバイトじゃなくてお手伝いよ。

 お給料は貰ってないわ」

「と、兎に角。

 僕達の関係は絶対に秘密だからな」

「あら?

 私達の関係って何?

 秘密にするような関係だったかしら?」

そう言うと

幻夜はチラリと僕の方を見てから

立ち上がった。

「寄り道せずにさっさと帰ってくるのよ」

彼女はそんな捨て台詞を残して

教室を出ていった。

掃除当番の小林が首を傾げて

僕の方を見ていた。

僕は何でもないという風に肩を竦めた。


廊下に出た僕は校舎の東階段を上がった。

3階を過ぎてそのまま屋上へ向かった。

屋上のドアの前で立ち止まってから

僕は一度大きく深呼吸をした。

そしてしばし逡巡した後、

躊躇いがちに扉を開けた。

西の空に僅かな晴れ間が覗いていた。

僕は意を決して足を踏み出した。


視線の先に

おかっぱ頭の少女の姿が見えた。

少女は屋上の縁にぽつんと佇んでいた。

僕が現れたことに

気付いていないようだった。

僕はゆっくりとした足取りで

少女へ近づいていった。

肌に生温い風を感じた。

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