第45話 おかっぱ頭の少女
「・・梅雨は嫌だね」
僕は少女の背中に向かって
恐る恐る声を掛けた。
振り返った少女の目が大きく見開かれた。
「でも。
今夜からしばらくは
晴れの日が続くみたいだよ」
僕は少女の隣に立つと
南の空に目を向けたまま呟いた。
右頬に少女の視線をはっきりと意識した。
「・・見えるの?」
ふいに少女が呟いた。
「うん・・」
僕は少女の方を向いて頷いた。
「・・どうして?」
少女が不思議そうに
パチパチと2度瞬きをした。
「さあ?」
僕は首を傾げた。
生温い風がじっとりと体に纏わりついた。
「・・でも。
良かった」
「良かった?」
「うん。
冬至くんには
謝らなきゃいけないことがあったから」
少女が微かに哀しみを帯びた笑みを
浮かべた。
「てっきり。
嫌われたと思ってたけど・・」
僕は躊躇いがちに少女の目を見た。
「私が誤解してたの・・」
少女がゆっくりと首を振った。
そして少女は南の空の方へ顔を向けた。
「今更言っても仕方がないけど。
私を盗撮した画像が
あるサイトに貼られてたの。
それでね。
その盗撮犯がね・・」
少女の言葉に僕はハッと息を呑んだ。
「・・僕だと思った」
「う、うん・・。
だって・・」
少女がそこで口を噤んだ。
「あのサイトには
立夏姉ちゃんの画像が貼られてたから」
僕が少女の思考を代弁すると、
少女の顔に驚きが広がった。
「知ってたの・・?
あのサイトのこと」
「あ、あれは・・白露兄ちゃんが」
「うん。
そうだよね。
冬至くんがそんなことを
するはずがないのに・・」
「僕があのサイトで
『ミモザ』のスレッドを見つけたのは
君が・・亡くなってからなんだ」
少女が頷いた。
雲間から夕日が顔を出した。
「・・そう言えば。
白露さんって家出中だったよね?
戻ってきたの?」
「う、うん・・」
「そっか。
良かったね」
少女がにこりと微笑んだ。
その笑顔を見て
僕は胸の奥が締めつけられるような
苦しさを覚えた。
僕はゆっくりと深呼吸をした。
「そ、それよりもさ。
『誤解してた』って言ったけど、
それって盗撮犯の正体が
わかったってこと?」
一瞬の沈黙の後で
少女が微かな迷いを滲ませつつ頷いた。
「あの日。
彼をここに呼び出したの。
その前の日に
愛ちゃんと美紀ちゃんから
聞いてたから。
『小林くんが盗撮してるかも』って」
少女の顔が西日に赤く染まっていた。
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