ドキュメント08
ガラスの向こうでは女の子たちが踊っている。熊楠には聴こえなかったが、彼女たちにはきっと聴こえているのだろう、音楽が。
それが鳴っている間は、終わることなど考えずに踊らなければならないような気がして、彼は欠伸を漏らしつつ、泥沼でもがくように手足をぶるぶると震わせる。
その奇妙な動作は黒雲を呼び寄せ、彼は雨に打たれながらどこかへ向かう。僕には分からない。何も分からないから、何も分からないということだけが分かっている。
仕方のない、しょうむない人生はまだまだ続くんだろうし、もしかすると終わりなんて来ない可能性だってゼロじゃない。完全なゼロでないのなら、つまり可能性は十分にあるのと同じだと僕は思うけど、熊楠はそう信じていなかったらしい。
彼は向こう側で休憩している女の子たちに近づこうか、あるいは大声でも出して怖がらせようか迷っていて、どちらも悪辣な気がしてきて、気が滅入ってきて、同時に僕もうんざりしてくる。
僕が誰なのかを知ることは現状できないし、草葉と草葉の隙間に繁る赤い花は美しさを未だ失っていないし、じゃあ僕だって彼女らに近寄ってみたって何の問題もないとかいう思いが少しずつ募ってくる。
馬鹿馬鹿しくていい。むしろそれがいい。
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