第3話 街に入ろう
街は防壁に囲まれていた。
城郭都市ってやつね。日本では珍しいけど、ヨーロッパでは観光地としてよく見る。
日本の場合は、壁を作るより堀を作る。高低差で敵の侵入を防ぐという意味では機能的に同じ。あとは地形や文化の違いかしら。
「街に入るのに税金とか、かかるのかしら?」
門の左右に門番が立っているのをみつけて、アタシは尋ねた。
よくある展開だものね。それで借金する主人公とか。序盤の起承転結の転としては使いやすいのかしら。その後それで苦労する様子がないのもお約束ってやつよね。
「ここでは掛からない。
隣の領地との境目にある街では掛かるぞ」
「ああ、そういう……」
人頭税なんでしょうね。
人口流出を防ぐ手っ取り早い方法として、出ていくのに大金が必要ってこと。
所得税とか法人税とか消費税とかの累進課税な性質でやるなら、むしろ移動を制限するための税は邪魔だもの。
まあ、管理する手間が増えて文官が死ぬでしょうけど。パソコンて偉大よね。
「止まれ! なんだそのデカい……ドラゴンじゃないか!」
「た、隊長に報告してくる!」
「頼んだ!」
手に負えないと判断したのか、2人の門番の片方が、バタバタと詰め所に走っていった。
「冒険者か? 冒険者証を出せ」
「出ているぞ。これだ」
マックスは胸元のシンプルなペンダントを指した。
軍隊の認識票みたいなやつね。たぶん役割も同じなんだわ。
「Aランク……!?
しかし、マックスなんて冒険者は知らんぞ?」
「稼ぎが少なくて名前が売れてないからな。
……ううっ……自分で言ってて悲しくなってきた」
ヨシヨシ……。
「素材の買い取りが無いものねぇ。
護衛ならできても、討伐は証明部位が残らなくちゃ成功扱いにならないのよね?」
「うむ。私は全部吹っ飛ばしてしまうからな。
しかし今日からは違う!
私はついに、私のスタイルに必要な相棒を手に入れたのだ!」
「あー……とりあえず、ここで待て。
嘘ではなさそうだが、そんなもの引きずって街に入られたら被害がとんでもない事になるからな」
確かに門番の言う通り、あちこちぶつけて壊しちゃいそうだわ。
てゆーか、まずは門を通れない大きさよね。
「むむっ……!? それは確かに……」
「マジックバッグみたいな物はないのかしら?」
「あるぞ。高くて買えないけどな。
まあ、お前となら、近いうちに買えるだろう」
「それは最優先で買わないといけないわね。
毎回これじゃあ門番さんにご迷惑だわ」
「迷惑というか……珍しいものが見えて新鮮というか……。
それよりお前たち、外見と中身が逆じゃあないか?」
「余計なお世話だ」
「あらあら、ダメよマックス? 女は愛嬌。自分から戦術幅を狭めるのは、もったいないわ。
門番さん、アタシたちは外見と中身は一致してるわよ。喋り方だけ男女逆なの。
でもね、これって意外と便利なのよ? あえて自分とは逆の立場を演じてみると、見えてくるものもあるわ」
「たしかに、内容のわりに、あまり説教くさく聞こえないな」
「気づいたわね。
さあ、あなたも今日からオカマの仲間入りよ」
「それは断る」
「あら残念」
アタシは肩をすくめた。
少しも残念だとは思ってないけど、こうやって雑に会話をぶった切れるのも、オネエ言葉の利点ね。
「……さっきの門番、なかなか戻ってこないな」
「別の出口からどっか行ったみたいね。
ほら、たぶんアレを呼んできたんじゃあないかしら?」
街の中から走ってくる一団があった。
いえ、二団かしら。
毛色が違う2種類の人達だわ。
「冒険者ギルドと騎士団だな」
マックスの言う通り、事務員らしき格好の一団と、板金鎧の一団だった。
少し意外だったのは、騎士団といっても馬には乗ってないこと。街中の移動には不向きなのかしら? そういえばパレードか何かで馬が出てくるときって、必ず後ろに馬糞を拾って回る人がついてるわね。
「第一騎士団だ! ドラゴンを連れてきたという冒険者は、お前たちか!?」
「連れてきたのではない。持ってきたのだ。
こいつは死体だからな」
「死体だと? ……なんと見事な」
騎士団がドラゴンの死体に見惚れていると。
先を譲って控えていた事務員らしき連中が前に出た。
「冒険者ギルドの支部長補佐だ。
Aランクのマックスだな。いつも獲物をバラバラにするくせに、今日はどうしたことだ?」
「こっちの新しい相棒のおかけだ。
こいつをギルドに登録してくれ」
「それなら、そっちの彼にはギルドへ来てもらおうか。
このドラゴンは買い取りでいいのか? この場で解体しないと街の中には入れないな……」
「それでいい」
「待て待て! 解体する前に、伯爵様にお伺いを立てる。そのまま買い取りたいと仰せになるかもしれぬゆえ、解体はしばらく待つのだ」
剥製にしたら迫力満点よね。
解体しちゃあ台無しだわ。
「それなら、このまま置いておくから、盗まれないように警備して下さいよ?
鱗の1枚でも剥がして持ち去られたら、その分は騎士団から支払ってもらいますからね」
「ぐむっ……!? い、致し方ない。承知した」
よしっ、と言わんばかりに、ギルド職員が小さくガッツポーズした。
解体するにせよ、そのまま売るにせよ、それまで置いておく間の警備は必要。その費用を負担しなくて良くなった、ということね。
解体しないと街に入らないなんて言い出したのも、そのため……最初から計算ずくとは、なかなかしたたかね。
「では、あとはお願いします。
よし、2人とも、行くぞ」
いつの間にか書類まで用意していたギルド職員は、騎士にしっかりサインさせて。
アタシたちを冒険者ギルドに案内した。
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