第4話 冒険者ギルドに登録しよう

 冒険者ギルド。

 外から見た大きさは学校の体育館みたいな感じだけど、中に入ると銀行や市役所みたいな感じだった。

 長いカウンターに窓口の職員が数人ならんでいる。若い女性ばかりね。見栄えの問題? それとも社員教育の課程の問題かしら?

 その奥では事務員が書類と格闘している。こっちは男性が多いわね。一番奥にいる男性だけ年齢が高そう。課長とか部長とかそういう感じのアレかしら?


「こちらに必要事項を――」


 冒険者証に刻印する内容ね。

 名前、種族、生年月日。

 住所や経歴や「今なにが出来るか」さえも記入欄が無いわ。

 私が履修したラノベでは――


「なにが出来るか記入する欄もないのね?

 それをもとにパーティーを紹介してくれたりっていうサービスが、あるんじゃあないかと思ったんだけど……」


 ――そういう設定があった。

 結局それを使う話は出てこないのがお約束。主人公と仲間たちの出会いを運命的なものとするための演出よね。


「職業ごとに、出来ることも、やるべき事も、だいたい決まっているからな。そして職業は見た目で分かる。

 そこからはみ出した者は、パーティーを組めない。私のようにな。はっはっはっ!

 ……はぁ……」


「落ち込まないで、マックス。

 つまり、あなたと組める時点で、アタシもはみ出し者って事ね。アタシたち似た者同士よ」


「そうだな。頼りにしてるぞ、エノキ。

 実際のところ、ギルドを介したメンバー探しは、そんなにうまく行かない。

 結婚相談所じゃあないんだ。我慢して組むのは命取り。気の合う仲間を自分で見つけるのが一番だ」


「気が合うかどうかは、ちょっと試しに組んでみないと……て事よね? つまり、たまたま組んだ連中が勝手にくっつくから、わざわざそんなサービスをやる意味がない?」


 MMORPGで野良パーティーを組むようなものね。

 気が合う相手とは、そのまま固定パーティーになる。

 サブキャラ作ってネタに走るのも、よくある話。もちろんネタキャラは仲間内でしかパーティーを組めない。


「そういう事です。

 気難しいフリをしていても、人は状況に応じて柔軟に生きられるということですね。

 では、こちらが冒険者証です」


 受付嬢から冒険者証を受け取り、首にかける。

 これでアタシも冒険者ね。

 生活の目処が立った。

 差し出した手を、マックスがしっかりと握り返してくれたわ。


「さあ、ガンガン稼ぐわよ」


「そのために、まずは準備だな。

 ドラゴンの売り値でマジックバッグを買えるといいが……」


「伯爵様にお伺いを立てると言ってたわね。

 どうなるかしら? 解体せずにってことは、剥製にして飾るつもり、とかでしょ?」


「貴族の世界でそれがどれだけの利益になるのか分かりませんが……時間が掛かるでしょうね。

 ドラゴンの素材は、鍛冶師や錬金術師など色々な方面から欲しがられますから……」


 アタシは疎いから適当なことを言ったけど、受付嬢の反応はアタシの予想があまり大きく外れていないことを示唆していた。


「食い下がられて売り先が決まらないかしら。

 領主といっても、あんまり強硬なことをすると後が面倒でしょうし……オークションになるかしら? でも丸ごと欲しいわけじゃあないわよね、伯爵様以外は」


 オークションとしては成立しないでしょうね。

 たとえば中古車のネット販売なんて、言ってみれば逆オークション。出品者はできるだけ値下げして、購入者はできるだけ安いのを探す。けど、それでも「丸ごと欲しい人」が買うのであって、タイヤだけ欲しいとかカーナビだけ欲しいとかって人は買わない。

 値段が「つり下がる」状態でもそうなのだから、値段が「つり上がる」オークションでは余計に……ね?


「そういうことだな。

 伯爵に睨まれるのも面倒だし、騎士団が警備しているから、勝手にギルドへ売るわけにもいかない。

 支部長補佐め、ある意味で面倒なことをしてくれたものだ」


「まあ、儲けが多くなるはずだから、期待して待ちましょう。

 それじゃあ、待っている間に別のことをしましょうよ。稼げそうな仕事とか無いかしら?」


「そうだな……」


「あの――」


 マックスが思い出すような仕草で考え始めると、受付嬢が遠慮がちに声をかけてきた。


「マックスさんはAランク。これは冒険者ランクの一番上です。

 一方、エノキさんはFランク。これは冒険者ランクの一番下です」


「ランクは実績で変動するんだったわよね? 登録したばかりで実績がないんだから、過去にどんな栄光があろうとアタシがFランクなのは当然――

 ……ああ、アタシがマックスに寄生してるように見えるわけね?」


 受付嬢は申し訳なさそうに頷いた。


「いいのよ。トラブルが起きる前に警告してくれるなんて、あなた優秀だわ」


 にっこり笑うと、受付嬢は照れくさそうにした。

 それじゃあ、せっかくの助言を活用しましょうか。


「じゃあマックス、別行動しましょう。

 アタシが単独でどれだけの成果を出せるか見せつけてやれば、文句は出ないでしょ? あ、でも、いい感じの獲物がいそうな場所だけ教えてもらえるかしら? 土地勘がないのよね」


「そうだな。

 草原からこっちへ来た道は分かるか? 草原の反対側に行くといい。山があって、そこに今日しとめたメスドラゴンの『訪問先』があるはずだ」


「オスドラゴンの巣ね?」


 暴れすぎて崩落からの生き埋め、ってのが心配でマックスは手を出さない。

 アタシもうまく加減できるといいけど……ああ、いえ、別の方法があるわね。


「うむ。私と違って、エノキなら何とかするだろう。

 その間に、私は別方向の護衛依頼でも……他の冒険者と合同のやつがいいかな」


「そうね。目撃者って大事だもの。

 アタシも誰かといっしょに挑戦するべきだけど……ちょうどいい人がいるかしら?」


「そればかりは行ってみなければ分からないな」


「まあそうね。用意して連れて行くんじゃあ、口裏を合わせたと思われちゃうもの。

 それじゃあ、とりあえず行ってくるわ」


 食事代も宿代もないし、消耗品の購入資金さえないから、すぐ出発ね。

 お腹がへる前に、動けるだけ動くわよ。

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