第2話 ドラゴンを引きずろう
怪力すぎて加減できずに困っている。
そう語った女竜人のマックスは、自分の100倍はあろうかというクジラみたいなサイズのドラゴンを、片手で掴んで引きずっている。
「それ、普通に重いわよね?」
「まあ、そこそこ?
エノキには無理かもしれないな」
「あら、言うじゃない。
ちょっと試していいかしら?」
この榎というアバターも、かなり怪力だ。
レベルはカンスト。攻撃能力がメイスでの打撃しかないので、ステータスはSTRにかなり振っている。
「どうぞ」
「どれどれ……よっ、と……あら、たしかにそこそこ重いわね」
小学生のときの、夏休み前の最終日に、学校に置きっぱなしにしていた荷物を全部つめこんだランドセル。体感あんな感じの重さね。
ただし実際の重さは、たぶん数十トン。ゾウの数倍も大きいんだから当然ね。
これを「そこそこ重い」で引きずれるマックスの怪力やべーわね。
まあ、アタシも負けてないと分かって安心したわ。
「うっそ……人間がパワーで竜人族の私と互角……?
えっ……じゃあ……エノキは、どのぐらいの範囲を探知できるのだ?」
マックスがなんか焦った感じで聞いてきた。
「測ったことがないから分からないわ。
でも……そうね……500mぐらいが限界かしら」
今も数秒ごとに繰り返し発動しつづけるディテクトエビル。
アタシは遠くを見ながら答えた。
ディテクトエビルの探知範囲はもっと広いようだ。
けれどアタシの視力の問題で、あまり遠くのものは見えない。いえ、正確に言うと見分けられない。
シルエットが強調表示されるという形式である以上、遠すぎると「ただの点」に見えてしまうわ。人型のシルエットだと分かるのは、500mぐらいまでね。
「そ、そうか……ならば探知は私に任せるがいい。
私なら半径5kmは探知できるからな」
マックスがなんかホッとしている。
なるほどね。
アタシが何でも出来てしまうと、マックスはただアタシに寄生しているだけのヒモ女になってしまうものね。男勝りな態度になるほど「ナメられてたまるか!」って生きてきたであろうマックスには、それは受け入れられない生き方でしょうね。
歓迎するわ。
アタシだって、おんぶにだっこの相棒なんて嫌だもの。人間は自立してこそ……いえ、自立しようという意思があってこそ、よね。
「アタシの10倍も広いじゃあないの。
なんでそんなに? とにかく、それなら頼りにするわよ」
マックスが適当に狩ってきて、アタシのところへ持ってきてくれれば、アタシは回復魔法だけ使って稼げるわね。
まあ、それだとアタシが自立してないみたいに見えるから嫌だけど。
冒険者パーティーだもの。アタシは加工業者じゃあないのよ。
けど、引退後はどこかでそういう商売をするのもいいかもしれないわね。
「任せろ。
竜人の知覚能力は鋭いんだ。ドラゴン譲りだからな」
「ドラゴン譲り?」
「竜人族はドラゴンの因子を持っている。
しかし本物には及ばない。
本物のドラゴンの知覚能力は、国ひとつ丸ごと覆い尽くすほどだ」
「半端ないわね……」
どこかの国の守護神みたいになっているドラゴンも居るのかしら。
それって、この世界では自律型の核兵器みたいなものよね。
てことは、どの国も……?
抑止力……相互確証破壊……うっ、頭が……。
魔法があるファンタジー世界なのに、夢がないわ……。
もっとファンタジーを楽しみましょう。
「ドラゴンといえば財宝を集めて守ってるイメージだけど、実際どうなのかしら?」
「その通りだぞ。オスのドラゴンが、メスのドラゴンにアピールするために財宝を集めるのだ。まあ、集めるだけで何かに使うわけではないみたいだがな。
ちなみに、今回仕留めたこのドラゴンはメスだ。巣を作ってアピールしているオスのところを渡り歩いて、気に入った相手を探しているところだった」
まるでニワシドリね。
「その財宝を狙って冒険者がドラゴンの巣に挑戦することもある。まあ、たいていは巣の中が魔物だらけで、財宝までたどり着けずに引き返すことになるんだが……夢のある話だよな。
竜人族も金銀財宝には目がない。私も本当はたくさん稼いで財宝まみれになって暮らしたいんだ。けど、いつも素材をボロボロにしてしまうから……エノキ! 頼りにしてるぞ!」
「任せなさい。
けど、どうしてドラゴンの巣に突入しないの? あんたなら倒せるでしょう?」
「倒すのは……まあ……」
「何よ? 歯切れが悪いわね」
「いやぁ……その……」
「話してごらんなさいな。笑ってあげるから」
「笑うな! ……くそっ……。
巣が崩落するだろうから、生き埋めになるのが怖いのだ」
「あー……それは洒落にならないわね」
数十トンのドラゴンを片手で引きずるパワーがあっても、生き埋めになった場合には山ひとつ丸ごとが相手になってしまう。
富士山の重さは、およそ2.9兆トンと推定されている。もっと小さい山でも、文字通り桁が違う。さすがに無理だ。
「それで『外』にいる連中を狩るわけね。
アタシも屋内や地下では気をつけないといけないわね。
まあ、アタシとあんたが協力すれば、屋外限定でもいろいろ狩れるでしょ。
頼りにしてるわよ、相棒」
「うむ!
まずは街へ行って、冒険者ギルドに登録だな」
ちょうど遠くに街が見えてきた。
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