裏があってこその表である

何となく気まずい雰囲気のままカラオケの部屋に戻ると丁度終わったところだったのか茜が迎えてくれる。


「おかえりー!何頼んだのー!?」


もちろん茜は今の状況など知る由もないので軽くそんなふうに話しかけて来た。


「いちいちうるさいな。コーヒーだよ、コーヒー。」

「わ、私はアイスティーです。」

「わー2人とも大人だねえー。」


親指と人差し指で顎を挟み、ふむふむといった表情を見せる茜。恐らくこんな性格じゃなくて絵里みたいにおしとやかだったら相当あざとかっただろうな。


「じゃあ、2人とも帰ってきたので歌いまーす!!」


宣言するかのように言ってiPadをポチポチし始め気づけば5曲ぐらい入れていた。すごい。

茜が歌い始めたので相手から話しかけるのも少し憚られるだろうと思い自分から発言する。


「さっきの続き、いいかな?」

「あ、はい。」


わかりましたと言って一旦飲み物をおいた。

だが、緊張しているのか分からないが一向に喋る気配がなく下を向いている。


「大丈夫??」

「え、あ、はい。すみません。」

「ゆっくりで問題ないよ。」

「ありがとうございます。」


誰しもひとつやふたつ喋りたくないことはある。そのことを考慮して待つことにした。

そして茜の2曲目が始まるところで話始めてくれた。


「私は小、中の間施設で暮らしていました。

今はこんな私を見ると言ってくださった方の元で暮らしています。」


緊張しているのか少し間を空けて言う。

まあ無理もない発言だった。


「小学校入学前に、私は親に捨てられたんです。」


無言のままだったので続ける。


「何が気に食わなかったんでしょうか。

どうすれば私は好んで貰えたんでしょうか。

今でも全く分かりません。

愛情を受けることがなかったので人との接し方もよく分かりませんでした。

どうしても人と接してしまうと、嫌われたくないとか、そういった考えが頭に浮かんでしまうんです。

やっぱりおかしいですよね...。」


平気そうに話しているが今にも泣きそうな顔で話してくれている。


「あまり優しい言い方ではないかもしれないんだけど僕にはよく分からないんだ。ごめん。」


いえいえ、と絵里が言う。僕は続ける。


「自分は捨てられている訳でもなければ、絵里と状況は違うけれど友達は作ってなかったから人との接し方もあまりわかってない。

でも、ひとつだけわかることはあるよ。」


1度間を空ける。絵里はこっちを向いて真剣に聞いてくれている。そして聞き返す


「なんですか。」


アイコンタクトではっきりと伝える。


______「間違いなく君は、茜の友達だ。」

そう、別に過去がどうだとかそんなのは関係ない。ただ今どうなっているかが重要だ。

よく『結果を出すにはそれまでの地道な努力が』だとか、『表面に出るまでには裏にたくさんの積み重なりがある』という言葉をよく耳にする。

だけど結局は全部、結果論だ。

努力していなくても結果はでることはある。

人と付き合って来なかったからって人付き合いが下手くそとは限らない。

これからどうして行くかが1番大事だ。


「僕は、君たちの掛け合いを見て、例えは悪いかもしれないけれど、愛読している小説が頭の中に浮かんだよ。

カタコトだったかもしれないし、ぎこちなかったかもしれないけど2人が話している"それ"は明らかに友達のそれだったんだ。

だから施設で過ごしていたとか友達がいなかったとかはどうでもいいんだ。」


結構論理的に語ってしまった。ラノベの影響だろう。僕が言い終わると軽く微笑み絵里が言う。


「なんだか圭さんは不思議な人ですね。」

「どうして?」

「なんというか友達がいない理由も分かった気がします。」

「ひどいな。」


やっぱり論理的に話過ぎたんだろう。勘違いされしまったようだ。

多分、初めて会った時に華奢な一面とぎこちない違和感を感じたのは、接し方が分かっていないことによる表面上の見かけの成り立ちだったということに気付いた。

会話が終わって少し絵里との仲が深まった気がする。丁度茜の5曲目の終盤だったので二人で盛り上げる。


「2人ともいいねー!」

「始まるぞ。」


どうやら絵里の緊張もほぐれたようで次は絵里が歌うようだ。

おしとやか系だと思っていたがこういう所はちゃんとやる系の人だ。

そして絵里の歌が始まる。

_____________________

2人が出ていった頃、、、


「あー驚いた。」


一息ついて声を漏らす。


「いや圭と会うなんて思ってなかった。嬉しいというか、なんというか。」


事実、この女、茜は圭と会ったことがあるとわかっていたようだ。


「圭に気付かれたと思った時は心底焦ったよー。」


やかましい独り言だったが、ほんとに1人の時にしか言わないやつだ。

茜は圭に自分の事を言わない理由がある。

それは、

_______ほぼ生まれ変わったと言っても過言ではないからだ。


圭のことが好きだったからとかそういうのだと思われるが、彼女の場合は違うようだ。

中学校最大体重から40kg減量、わけのわからない美容ともしっかり向き合い、性格や話の話題の振り方。全部変えたんだ。

でも、清原圭に気付かれてしまった。

一旦勘違いというところで区切りがついたのは不幸中の幸いだろうが、これからどうなるかはまだ分からない。


「懐かしいなー。あかりちゃんとみんなで遊んでた時が。」


ソファに腰を下ろしてそんな事を考える。


「高校デビューで全部変えたはずなんだけどなあ。」


自分でも変えよう変えようと思って過ごしてきたこれまで。それを見抜いてくる圭はすごいと思うけど悔しい気持ちもある。

でも少しだけ心が暖かくなった気がする。

幼い時のあの感じ。帰ってきたかのようだと。

_____________________

お久しぶりです!みゐです!ほんと最近寒いですよね。外に出たくないです。

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