時に人は思い込みの感情で動く
暗い雰囲気。たるんだ空気。その中に響く泣き声。見た事がある景色だ。
人間の睡眠にはレム睡眠とノンレム睡眠というものがあると、本で読んだ。夢はどちらの状況においても発生するが、比較的頭に残りやすいのがレム睡眠時のものらしい。
どういう原理なのかは分からないが、今までの記憶や行動を整理するためのものだと自分は考えている。
基本的に朝起きると覚えていないので意味があるかは分からないけれど。
そんな知識を頭の中にしまっていたためかは分からないが、自分が見ている今の景色はすぐに夢だと判断出来た。
ただ傍観して本を持っている自分。
机に暴言を書かれて泣きべそをかいている生徒が左前にいる。でも自分には何も出来ない。
やったところで無意味だ。当時の感情と何一つ変わらない考えをまだ持っている自分。結局なんにも変わっていない。悔しいとかそんな気持ちは芽生えないが、暗い雰囲気のその非現実は僕には変えられないと気づいている。
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朝5時、うるさく鳴り響く目覚ましを寝起きの頭で探して止める。
昨夜はゲームをやりこんでいて12時睡眠だったから5時間睡眠だ。
あまり意識はしていないが、比較的短い睡眠時間でも至って健康なのでショートスリーパーなのかもしれない。
頭の中にはまだ鮮明にさっき見た夢の残像が残っている。
悪夢、とまでは行かないが決して良い夢ではないということに変わりはない。
布団を片付け、顔を洗ってコーヒーを淹れる。
いつもと変わらない朝のルーティン。
でもどうやら今日はそうも行かないらしい。
スマホの着信音が部屋に響く。
80%ぐらいの気持ちで茜からだと思っていたのだが、着信相手は他でもない読谷絵里だった。
よくよく考えてみると能天気な茜がこんな早起きする訳も無いか。
断る理由も特になかったので電話に出る。
「もしもし。」
「あ、おはようございます清原くん。こんな朝早くにすみません。」
寝起きなのかは分からないが、声が妙にくすぐったい。
「まあいつもこの時間だから大丈夫なんだけど、どうしたの?」
そう聞いてコーヒーを1口すする。もちろんブラックですよ。砂糖なしの。
「こんな朝早くに言うことでも無いと思うのですが、少し相談がありまして...」
「出来ることなら手伝うよ。」
「ありがとうございます。じゃあちょっと見せた方が早いかと思うのでビデオ通話にしますね。」
ちょっと待って、と言おうとしたがもう手遅れのようだ。画面の先には、ねまき姿の絵里が映っている。
眼鏡はつけておらず初めて外している所を見たのだが、茜に負けず劣らずの整った顔つきをしている。
「ああ!すみません..、えっとこの絵を見て欲しくて..」
自分の姿がだらしなかったと思ったのだろうか、謝罪して内カメから切り替える。
すると、そこには1つの景色が描かれていた。
思わず唾を飲み込む。それぐらい綺麗な絵。
どこで書いたのかは分からないが、夕日とそれに照らされている街の姿が描かれている。
絵に関しては素人だが、細部までこだわっている事が読み取れる作品だ。
「これ、、絵里が書いたのか?すごいな。」
率直な感想を述べる。自分が感動したことには正直でありたい。
「ありがとうございます。まだまだですけどね。」
「それで、、相談ってのは??」
絵を見せられただけで本題には入っていない。
だが、恐らく関連していることなのは間違いないと思う。
「あ、すみません。単刀直入に言いますと、私の絵のプロデューサーになって頂きたいのです!」
「プロデューサー?」
「はい。私、小さい時から絵を描くことが大好きでして、高校生になった今もこうやって描き続けているんです。」
「そうなのか。で、その絵は誰かに上げたりしてるのか?」
「いえ、清原くんが初めてですよ?」
そういってフフフと笑う絵里。心が読めん。
「絵を描くことは大好きだったんですけど、特別見てほしい!とかは無くて。でも、今清原くんに見せて思ったんです。もっとたくさんの人に見てもらいたいって。」
自分の世界を広げていくのに大好きな事を使えるって素晴らしいことだと思う。
例えばゲーマーとか漫画家とかは自分が好きなものでお金を稼いでいる。楽な仕事では無いことは百も承知だが、好きな事で働くのは決して悪いことじゃない。
「具体的に僕はどんな事をすればいいのかな?」
「私が、清原くんにプロデューサーを頼んだ理由は2つあってですね。1つは私が先端技術に疎いからです!」
「それ胸をはって言うことなのか?」
「そうですよね、すみません。」
いわゆる深夜テンション?という奴なのかいつもの絵里とは少し違うものを感じる。でも読書とかしてるイメージだから流行についていけない姿が容易に想像できたりしてしまう。
「今、私が悩んでる姿想像してましたね?」
「なんで分かるんだよ。」
やっぱり、と言って笑う絵里。最近の人は人の心を、読むのが得意らしいな。
「もう1つは読書などに親しみを持った人にして欲しかったからです。」
「と言うと?」
「最初は茜ちゃんでも良いかなって思ってたんですけど、やっぱりこういうのにしっかりと興味を持ってくれている人の方がいいと思ったんです。まあでも茜ちゃんはそんなイメージ付きませんけどね。」
「それはそうだな。」
頭の中で茜がひどい!と喚いている。扉を閉めておこう。
「じゃあ具体的に何をすればいいんだ?」
少し悩んでから絵里が言う。
「そうですね、私に絵のお題を出して貰って、それをインターネットに上げていただきたいです。出来れば期限とかもつけて欲しいですね、私、こういうの延ばしちゃうタイプなので。」
「なるほど、つまりイラスト投稿用のアカウントを作って絵里の絵をあげればいいんだな?
ちなみになんだが、1枚どれくらいでできるんだ?」
んーと数秒止まってから答える。
「下書きからペン入れ終わるまでだったら精度をあげるなら2週間ぐらいですかね?」
「了解、じゃあ1枚2週間で間の休憩を3日。来んな感じでどうだ?」
「いいですね!やっぱり清原くんに任せて正解でした!」
「それはどうも。とりあえずこんな感じかな?」
「はい!ありがとうございました。言った内容結構多かったですけど大丈夫ですか?」
「最初からメモを取ってる。問題ない。」
書いてあるメモを見せる。結構ぎっしりだ。自分が用意周到なタイプで良かったと思った。
「流石ですね!あ、そろそろ時間なので切りますね。」
時刻を見ると既に6時半だ。結構話していたらしい。
「そうだな。じゃあ。」
「あ、清原くん。」
「なんだ?」
「パジャマ、可愛いですね...」
「ん?ああ、ありが..」
「それじゃあまた学校で!」
恥ずかしそうにしながら切り際にそんな事を言ってきた、余程恥ずかしかったのかありがとの一言も言えなかったな。
まあ確かにこの歳にしては可愛い?のかもしれないシマシマのパジャマだ。
鏡を見ると何故だか少し顔が赤い自分がいる。
そういえば淹れてたなぐらいの感覚で、冷めてしまったコーヒーを全部飲んで、学校へ行く準備をする。
2日目が始まる。気持ちいいほどの快晴だ。
そんな君たちと出会えたから。 みゐ @Yassu1216
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