第3話
榊恋と花咲可憐の師弟コンビが巻き起こしたバズは、所属事務所のメンバーにも大きな波紋を広げていた。
事務所の共有Discordチャンネル。ムードメーカーの先輩VTuber、桜庭咲(サク)が、心配そうにメッセージを打ち込んでいる。
サク:ねぇねぇ、可憐ちゃん最近、チロルチョコが星の輝きとか言ってるけど大丈夫かなあ?😥 マコトさん(橘マネ)の胃が本当にやばいらしいッスよ…。
ミヤビ:椿院雅でございます。花咲様の純粋さが、かえって榊先輩の退廃的な哲学を際立たせております。切り抜きは大変見事でございますが、あのまま進むと、花咲様のご実家から苦情が来かねません。
ナギ:水無月凪ッス! サク先輩! 可憐ちゃんとこの前、カフェで会ったッスけど、お茶菓子に**「おつまみ用イカの燻製」**をリクエストして、店員さんを困らせてたッス! これも師匠の教えッスかね?(笑)
そんな中、クールで淡々とした先輩、**月影透(つきかげ・とおる)**が、一言だけ発言した。
トオル:榊恋の配信は見ていないが、数字は嘘をつかない。彼女の純粋さが、榊恋というフィルターを通して、視聴者に「本物の人間臭さ」を届けた。それだけだ。だが、この熱量は長くは続かない。
月影透は、バズの本質を見抜いていた。それは「底辺」が魅力的だったのではなく、「底辺を崇めるお嬢様」というコントラストが、視聴者の感情を極限まで揺さぶったからだ。
橘真琴は、この月影の意見を飲み込み、榊恋に新たな指示を出した。
『いいか、榊! もう一度言う。このまま可憐の金銭感覚が崩壊したら、お前の評価も下がる。次は**「底辺でも守れる健康生活」**みたいな、クリーンな方向のレッスンをやれ!』
「底辺のくせに健康? 矛盾してんだろ、マコト」
『矛盾上等! やれ! 具体的には、料理だ。安くて美味い、まともな料理を教えてやってくれ!』
2. レッスン5:底辺の自炊術
渋々、木屑は橘の指示を受け入れた。配信タイトルは『【クリーン配信?】師匠、お嬢様に底辺でも作れる簡単レシピを教えるッス!』。
「レッスン5だ、お嬢様。今日のテーマは、底辺の食卓を支える『守護神』について教える」
『守護神ッスか! まるで英雄の物語ッスね!』
可憐はいつにも増して目を輝かせている。
「英雄じゃねぇ。食材だ。これを見ろ」
木屑は、コンビニで買ってきた、一袋30円の**「もやし」**のパッケージを、可憐のアバターの横に配置した。
「このもやしだ。価格、栄養価、調理の容易さ。全てにおいて完璧。底辺の三種の神器の一つだ」
『おお…! この透明な袋の中に、30円という驚異的なコストパフォーマンスが詰まっているッスね!』
「そう、その驚きが大事だ。今日はこのもやしを使った、究極の底辺料理を教える。名付けて、『もやしの塩炒め』だ」
木屑は、実際の調理プロセスを画面で見せながら(もちろん、アバターは汚れないように手を振っているだけだが)、最小限の調味料で炒める様子を解説した。
「油をひいて、もやしをぶち込む。塩と胡椒。終わりだ。以上」
『師匠、まさか、たったこれだけの工程で、人間が生きていく上で必要な全てが賄えるなんて……』
可憐は、感動と哲学的な思索に打ちひしがれている様子だ。
3. 資本主義への反逆
可憐のリアクションは、木屑の予想を遥かに超えていた。
『師匠! これは、料理ではありませんッス! これは**「資本主義社会への静かなる反逆」**の象徴ッス!』
「は?」
木屑は、手に持ったもやしの塩炒め(現実の彼はレトルト食品を食べている)を落としそうになった。
『考えてくださいッス! 私達、お嬢様は、高級な食材や複雑な調理工程に、多大なコストを払うッス。しかし、このもやしは、30円という価格で私達の命を繋ぐ! これこそ、貧しさの中で見いだされた究極のエレガンスッス!』
可憐は、もやしを一粒ずつ摘むような優雅な仕草を見せながら、熱弁を振るう。その言葉遣いは丁寧なのに、内容は完全にもやし哲学だ。
「エレガンスじゃねぇよ、ただの貧乏飯だよ」
『違いますッス! このもやしを愛し、もやしで満足する精神こそが、**物質的な豊かさに依存しない「真の自由」**ッス! 師匠、ありがとうございます! 私、また一つ、ダーティーな哲学を学んだッス!』
コメント欄は、またもや大爆笑の嵐だった。
[コメント]
もやし炒めで哲学始めるなwww
もやしがエレガンスとか、もう可憐の頭の中は師匠に侵食されてる
貧乏飯が哲学になるとか、もやし界の革命だろ
マコトマネの「クリーン路線」完全に失敗で草
結果、橘の企てた「クリーンなレッスン」は、可憐の純粋さというフィルターを通し、**「もやしは資本主義への反逆」**という新たな切り抜き名言を生み出し、再びバズるという皮肉な結末を迎えた。
この配信の数日後、日本一のVTuber、白雪凛の優雅な雑談配信で、彼女はふと、優雅な紅茶を飲みながら呟いた。
「世の中には、贅を尽くした料理もあれば、30円の食材にも命を繋ぐ尊厳がある。どちらも、その人生においては等しく価値がある、ということなのかもしれませんね」
この一言が、再び切り抜き師たちの格好の餌食となり、師弟コンビのバズをさらに高める結果となったのだった。
【もやし】30円は資本主義への反逆wwwお嬢様VTuber、底辺哲学を究める【もやしエレガンス】
1 :名無しのにじマス:20XX/08/03(水) 14:05:12 ID:MoyashiRevo
最新の師弟配信見たか?
マネージャーが「クリーンな配信しろ!」って言った結果、師匠(榊恋)が弟子(花咲可憐)に教えたのが、もやしの塩炒め。
可憐ちゃんの感想。
「これは資本主義社会への静かなる反逆ッス!」
「30円という価格で私達の命を繋ぐ!これこそ、貧しさの中で見いだされた究極のエレガンスッス!」
もやし炒めで哲学悟るなwww
もう可憐ちゃん、本物のお嬢様じゃなくて**「底辺哲学お嬢様」**ってカテゴリだろ。
切り抜きもう50万再生いってるぞ。
2 :名無しのにじマス:20XX/08/03(水) 14:06:58 ID:GoriraRoku
橘マネ、顔面蒼白どころじゃないだろ。クリーン路線がなんで「資本主義への反逆」になるんだよ。もやし炒めからこんな名言出るとか予想できるわけないだろwww
3 :名無しのにじマス:20XX/08/03(水) 14:08:01 ID:GattenDaze
いや、可憐ちゃんの言ってること、わからなくもないんだよな。毎日高級食材食ってる人間からしたら、もやしのコスパと存在意義って、ある種の極北の美に見えるのかもしれない。
4 :名無しのにじマス:20XX/08:09:15 ID:Fukuzatuu
3
お前まで哲学すんなwww
でも、その哲学を素直に受け入れる可憐ちゃんの純粋さあってのバズなんだよなぁ。師匠も今回は酒ヤニ自粛してたの偉い。
5 :名無しのにじマス:20XX/08:10:33 ID:KikuzuLife
榊恋、もやし炒めを「底辺の三種の神器の一つ」って言ってたけど、あと二つは何だよ。安物ウイスキーとタバコか?
6 :名無しのにじマス:20XX/08/11:02 ID:ToruCool
5
多分、「カップ麺(PB商品)」と「ストロング系チューハイ」だろ。
7 :名無しのにじマス:20XX/08:11:45 ID:RinSama
てか、白雪凛のツイート見たか?
「30円の食材にも命を繋ぐ尊厳がある」って。
8 :名無しのにじマス:20XX/08:12:39 ID:OujyoKare
7
うわあああ! 日本一のVTuberが師弟コンビのバズを公式に認めたぞ!!
これが頂点からのエールか…品格の化身が「もやし哲学」を肯定するとか、世界線がバグってるだろ。
9 :名無しのにじマス:20XX/08/13:10 ID:AkarusaHyo
白雪凛って、絶対裏でこの師弟配信見てるだろw 冷ややかなフリして、一番エンタメとして評価してる説あるぞ。
10 :名無しのにじマス:20XX/08/14:00 ID:Yamerokare
可憐ちゃんが「もやし哲学」をマスターした結果、今度は「スーパーで30円のもやしを見つけることに喜びを感じるッス!」とか言い出して、プライベートでの行動がおかしくなってるらしいぞ。マネージャーが悲鳴上げてる。
11 :名無しのにじマス:20XX/08/14:55 ID:KuzuShinpai
師匠は師匠で、もやし炒め作ってる時に一瞬「タバコ吸いてぇ」って顔してたのが、逆に「人情味」として切り抜かれてるの草。クズだけど、弟子の前では我慢する師匠の鑑。
12 :名無しのにじマス:20XX/08:15:30 ID:PachiShisan
でも、前回パチ哲学でバズったんだろ?そろそろ師匠のパチ負債問題とか、ヤニの健康問題が表面化してくるターンじゃないか?バズの代償はデカいぞ。
13 :名無しのにじマス:20XX/08:16:12 ID:MiyabiSei
12
うちの椿院雅先輩とか、古風な和装キャラなのに、最近「もやしの静謐な佇まい」とか言い始めてるからな。事務所全体が榊恋の底辺哲学に染まりつつある。橘マネは本当に頑張れ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます