半炒飯に謝罪します

春海水亭

炒飯

 

 結論から言えば、このエッセイを読んでいるあなた達は半炒飯に土下座して詫びなければならない。勿論、私も一緒だ。

 しかし、いきなり詫びろと言われても納得できないのは人間感情として当然のことである。そのために、あなた達が半炒飯に対して行ってきた不当な扱いについて説明する必要があるだろう。

 なお、これを読んでいるあなた達のためにあえて、半炒飯という言葉を使うが、御炒飯におかれましてはあくまでも貴方様がおかれている立場の説明ということでご容赦願いたい。

 

 さて、半炒飯とはいわゆる中華料理店やラーメン屋のセットメニューに登場するもの、あるいは他に半炒飯が登場するような店があるのならば、それを想像していただきたい。

 半炒飯と聞いて、あなた達はこう思ったはずである。

 いや、半炒飯はセットメニュー界の屈指の有能存在。御炒飯の名は日本中、ないしは世界中に轟いている。それが不当に扱われているということはありえない、と。

 実際、私もその日が訪れるまでは半炒飯が置かれた不当な扱いに考えを巡らせることもなく、ただぼんやりと半炒飯よ永遠なれ、と思っていた。

 そんなある日、私は夕食として中華料理店でラーメンのセットを注文した。ラーメンに半炒飯と餃子、デザートに杏仁豆腐までついてくるという大変に豪華なセットである。目の前に並んだ素晴らしい夕食を見て私はふと思ってしまった。


 小ぶりな皿にこんもりと盛られた炒飯。冷静に考えると、これ多くないか?

 勿論、半炒飯――というか提供されるメニューの量は店によるものである。私が注文した店の半炒飯がたまたま多かったという可能性もあるし、ラーメンと比べれば半炒飯の量は控えめで、確かに相対的には半と呼ばれるような存在ではある。


 だが、どうも半炒飯という存在は半という名前のために過小評価されているだけで、量が多いとまでは言わないが茶碗一杯分、つまりは普段の食事の中で食べているご飯の量はありそうに思える。

 勿論、私の気のせい、半炒飯に対する判官びいき(半チャーびいきと呼ぶべきか)であるが、仮に私の推測が正しかった場合――むしろ日常の食事において、適切な量が供された半炒飯がそのポテンシャルを不当に評価されて、半と名付けられていることになる。


 この推論を推し進めていった場合、店で供される単品の炒飯も問題である。


 普段の食事と比較すれば、明らかに米が多すぎるというのに、さも私こそが基準値でございというツラをして、無冠の炒飯を名乗っている。いや、名乗らされている。これは大変に良くない。

 私は半炒飯を抱きしめて、泣いて詫びることはしなかった。中華料理店だし、炒飯を抱きしめると服がべとつくので。ただ、内心で抱きしめて泣いて詫びるような思いだった。


 おお。半炒飯よ。今までの炒飯生の中でどれほどの屈辱を味わってきたことだろう。どれほど窮屈な思いをしてきたことだろう。本来ならば君こそが炒飯であるというのに、そのポテンシャルを半という窮屈な小皿に押し込められて、十分に自己主張することが出来なかっただろう。本当は自分こそが炒飯であると叫びたかっただろう。眠れぬ日もあっただろう。

 そして、炒飯よ。君もそうだ。君の階級を考えればむしろ、倍炒飯こそが正しい戦場だったはずだ。それを名ばかりの無駄な減量を強いられ、本来のポテンシャルでお客と戦うことも出来ずに、常炒飯の戦場で戦ってきた、哀れな炒飯よ。


 私は炒飯の無念を代弁するかのように店主の背をじっと見つめた。調理中だったので気づかれなかった。ピッチャーのお茶が無くなっていたのも気づかれなかった。


 しかし、半炒飯に半炒飯たれと、炒飯に炒飯たれと本来よりも低い階級に押し込めていたのは我々消費者の問題も大きい。

 今こそ、我々は正しい認識――つまり、半炒飯にはしっかりと炒飯の量があり、炒飯には倍炒飯ぐらいのポテンシャルがある。と受け止め、不当に差別してきた半炒飯に謝罪するべきではないだろうか。

 

 君は半なんかじゃない。君は立派な炒飯だ。そして炒飯は倍炒飯だ。

 その言葉に救われる炒飯はきっといるはずだ。

 そして、炒飯に謝罪した今こそ、炒飯と新たな関係を構築する時が来たのだ。


 そう、炒飯セットのように。




【追記】

 なんか上手いこと言ってやったみたいなオチが思いつかなかったので、謝罪します。

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