第16話

 赤陽層の中心——巨大な“紅核”が、地鳴りのような脈動を放った。

 赤い光が層全体に走り、溶岩のように熱を帯びた大地がさらにうねる。

 レオンが剣を構え直し、汗を拭う暇もなく叫ぶ。

「来るぞ、二人とも!!」

 紅核の表面が裂け、黒い霧が噴き出す。

 その霧は瞬く間に形を変え、一体の巨大な影へと凝縮していく。

 ——侵蝕災紅核獣コアビースト

 天井を焦がさんばかりの咆哮が響き、衝撃波が三人を押し返した。

「ッ……これが赤陽層の侵蝕災かよ……!」

 ミラが目を細め、シールドを張りながら地面に踏ん張る。

 カイは武器を構えたまま奥歯を噛みしめた。

 巨大な黒影を見つめながら、小さく呟く。

「……あの剣士なら、こんな時、迷わず斬り込んでたな」

 その一瞬の迷いを消すように、レオンがカイの肩を叩いた。

「カイ。お前がいるから俺たちは前に進めるんだ。迷うな。ここを抜けるぞ!」

 カイは驚いてレオンを見返し、そして……笑った。

「ああ。行こう、レオン、ミラ!」

 紅核獣が二度目の咆哮を上げる。

 熱風が吹き荒れ、赤陽層の空気がさらに揺れる。

 三人は同時に地面を蹴った。

 赤陽層の浄化を懸けた、

 最初で最大の攻撃が始まった——。

 レオン、ミラ、カイの三方向からの同時攻撃は、

 紅核獣の黒い外殻へ深く刻まれた。

 ズガァンッ!!

 赤陽層全体がさらに揺れる。

 だが紅核獣は怯むどころか、むしろ狂暴さを増していく。

「チッ、こいつ……まだ本気じゃねぇな!」

 レオンが剣を構え直すと、

 紅核獣の体内から赤黒い光が走り、影の触手が一斉に襲いかかってきた。

「レオン、危ない!」

 ミラが瞬時に防壁を展開。

 だが防ぎきれなかった一本がレオンへ迫る——

 その瞬間、鋭い閃光が横から走った。

「……させない!!」

 カイの槍が紅核獣の触手をまとめて貫いた。

 一撃の威力とは思えないほど、影が霧散していく。

「助かった、カイ!」

「礼はあとでいい! まだ来るぞ!!」

 紅核獣が形を変え始める。

 影が空間を呑み込み、赤陽層の天井へと伸びていく。

 ミラが息を呑んだ。

「……まずい。この層そのものを崩落させて巻き込むつもり!」

「そんな真似されたら——全員死ぬぞ!」

 熱風と影が混じる暴風の中、

 レオンは紅核獣の中心を睨みつけた。

「ミラ! 紅核の核位置を確定できるか!?あれを破壊すれば層の暴走を止められる!」

 ミラは目を閉じ、魔力を集中させる。

 赤陽層の脈動と侵蝕の波の中……ひとつだけ異様に“白い点”を感じ取る。

「……見えた! 紅核獣の胸部、中心から少し右!」

「よし——カイ!!」

「わかってる!」

 二人は同時に走り出し、

 紅核獣が落盤を引き起こす中、崩れゆく地面を跳躍した。

 そして——

「ミラ、今だぁああああ!!」

 ミラの魔力射線が一直線に紅核獣の胸を貫く。

 その一瞬、影が揺らぎ、赤い光が露出した。

「撃ち抜くッ!!」

 レオンの剣が、全力の光を帯びて振り下ろされる。

 ——轟音。

 赤陽層の天井が崩れかけた瞬間、

 紅核獣の核心が粉砕された。

 光が爆発し、影が霧散し……

 赤陽層は静かに、確かに、息を吹き返していく。

「……やった、のか?」

 カイが荒い息のまま呟く。

 ミラも膝をつきながら微笑んだ。

「ええ……赤陽層は浄化された。これで崩壊しない」

 レオンは剣を肩に担ぎ、二人の方へ歩きながら小さく笑った。

「よし……赤陽層突破だ。次は、“第五層”の入口へ向かうぞ」

 その言葉に、ミラが違和感を覚えたように振り向いた。

「……レオン。第五層って、どんな場所なの?」

 レオンはしばらく黙り——そして言った。

「“侵蝕災が生まれた場所”らしい」

 三人の背筋が同時に冷えた。

 赤陽層の戦いは終わった。

 だがその先は、もっと深い闇が待っている。

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