カイ 過去編

 カイが静かに足を止めた。

「……ここ、似てるな。」

 焚き火の揺れ方、風の匂い。どこかで見た景色。

 —まだカイが幼かった頃。

 村の近くの森で、ひとり隠れるように剣を振っていた。

 誰にも褒められなくて、誰にも期待されなくて。

 ただ「強くならなきゃ」って思いだけが残っていた。

 その時だった。

 背後から現れた影が、折れそうな木の剣をそっと拾い上げた。

 「強くなりたいのか?」

 低い声。

 でも、不思議と怖くなかった。

 その人は剣を構え、

 「なら……守りたいものを決めろ」

 そう言って、火の粉だけが舞うような軽い動きで、カイの視界から消えた。

 気づけば木の剣は真っ二つ。

 でも、カイの胸の奥には、

 “強さの意味” の最初の火が宿っていた。

 その焚き火の記憶が、今ふっとよみがえったのだ。

 「……俺が守りたいもの、か。」

 カイの握る拳に、弱い炎がともるようだった。

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