第6話

逆さの街路に、不自然な足音が響く。

天井側の通りを“落ちるように”歩く影が、複数同時に動き出していた。

レオンは剣を構えながら、ミラを背後に庇う。

「来るぞ……!」

ミラも両手を胸元で組み、バックアップコードの光を展開した。

「解析します――反転塔の巡回兵……《シャドウ・ワーカー》です。重力軸を無視して移動する、半自律型の防衛体……!」

その瞬間、黒いシルエットが天井から跳び降りた。

しかし彼らには“落下”の概念がない。

突如として目の前に出現するような軌道で迫ってくる。

「速ぇ……!」

レオンが反射的に跳び退くと、先ほどまで立っていた場所を、

鋭い影の爪が切り裂いた。

続けざまに三体のシャドウ・ワーカーが重なるように迫る。

上下が反転したまま、壁も、空も関係なく縦横無尽に跳ねる。

ミラが叫ぶ。

「レオン、二時方向! 重力軸が歪んでます!」

「助かる!」

レオンはミラの声を頼りに一歩踏み込み、剣を振り上げる。

「――《フレア・スラッシュ》!」

逆さの空間に炎が軌跡を描き、

落下方向とは逆に、炎が“上へ”噴き上がった。

シャドウ・ワーカーがその炎に掠られ、影の体を揺らがせる。

ミラの声が重なる。

「その個体、コアが露出しています! 右肩です!」

「任せろ!」

レオンが駆け抜け、露出した赤いコアを拳で砕く。

一体が霧散した。

しかし残る敵が一斉に動き、ミラへ一直線に迫った。

「ミラァッ!」

レオンが叫ぶより早く、ミラの身体がわずかに透ける。

彼女の周囲に出力過多の光が弾けた。

「――《位相障壁(フェイズ・シールド)》!」

敵の爪がミラに届く前に、空間が歪み、攻撃が跳ね返された。

だが、その直後。

ミラは胸を押さえ、膝をつく。

「うっ……同期エラー……!」

「ミラ、無理すんな!」

レオンが駆け寄るが、敵の影がすぐ背後に迫る。

レオンは腰を捻り、背後へ拳を叩き込んだ。

炎が爆ぜ、影を吹き飛ばす。

戻ってミラを抱き起こす。

「……ミラ、大丈夫か?」

ミラはうっすら笑い、かすかに頷いた。

「はい……ですが……私……」

その時、ミラの瞳に奇妙な光が宿った。

白い街の風景が、一瞬だけ“重なって”見えた。

今の反転都市とは違う、正しい重力の街だ。

レオンは気づかぬまま、ミラの肩を支え続ける。

「……見えた……。これは……記憶……? それとも……原初層……?」

ミラは小さく囁いた。

「レオン……この塔……私は……かつて……」

しかし言葉はそこで途切れた。

街の奥から、新たな振動が響いたからだ。

ゴォォォォォッ……!

反転した建物の隙間から、巨大な歪みが姿を現す。

まるで都市そのものから切り取られたような、巨大な影の塊。

ミラが息を呑む。

「……反応……異常。あれは……反転塔の中枢守護体(センチネル)」

レオンは剣を構え直し、炎をまといながら呟く。

「よし。

 ミラの記憶に繋がるってんなら……なおさら突破する価値があるな」

ミラはそっとレオンの手首を握った。

「……お願いします。あの奥に……私の“欠けた核データ”があります」

炎が塔の歪んだ影を照らし、

二人は巨大なセンチネルの前へと進み出た。

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