第11話 にゃん
「キャアアアア!!」
「唯子の声!?」
「言わんこっちゃない!」
悲鳴が聞こえた方に走っていく。フラグであることを予想までしたのに、こんなに綺麗に回収する事なんてあるのか。
「どこ!?」
「ここー! ごめんみんな。助けて欲しい」
一瞬見つけられなかったが、唯子ちゃんは崖から落ちそうになりながら、なんとか木製のガードレールに掴まっている状態だった。
「どうやったらそんな状況になるの! あ、それっ……」
片手で掴まりながら、もう片方の手で子猫を抱えていた。崖から落ちそうになっていた子猫を助けようとしたら体勢を崩して落ちそうになっているということだろうか。
「子猫!? あんた、まずはその子をこっちに寄越しなさい! 両手で掴まらないと危ないわ」
「ありがとー、助かる」
私たち五人の焦りように反して、唯子ちゃんの口調はのんびりしている。自分より焦っている人を見ると落ち着いてしまう現象だろう。
「これ消防に連絡した方が良いっすよね? 到着までどうにかして待てそう!?」
「それまで、唯子待てないかも……ごめん、みんなどっか向いてて! この高さなら受け身取れば死なないと思うけど、重症にはなっちゃう」
「流石にここから落下は危ない。佐藤さん、何かないの!」
全員の視線が先輩に集まるが、渡辺先輩の質問を無視してずっと一点を見つめている。
「おい天雄、ボサっとしてんな。余計なこと考えんなよ」
高橋先輩が背中を叩くと、ようやく思い出したかのように動き出す。
「あ、ごめん。毒使って助けられないかな……。浮かせるために関連する毒って何だろう。僕は痺れ、嘔吐、不整脈が主だし、羽舞は激痛と意識障害、月夜ちゃんは消化器官の障害と幻覚を見せる効果もあるはず。青龍くんは基本的に自分で毒はもってないから……」
それなら唯子ちゃんを助けられないというのか。このまま痛い思いをするのは嫌だ。伊藤くんに解決策を考えろとせびると、渋い顔をしながら頭を抱えている。
「あ、分かった!! 佐藤さんの毒使いましょう。眩暈がするということは平衡感覚が鈍っているってこと。浮遊感にも繋がると思うんす。筋肉とか関節がしっかりしてるなら平衡感覚は鈍らないと思うけど、痺れもあるならそれも怪しい。ダブルで使えばいける!」
「なるほどね。唯子ちゃんを浮かせてこっちに!」
伊藤くんの的確な考察に感嘆の声を上げながら先輩が願った。
「え!? えええ」
先輩の言葉で唯子ちゃんが浮いてこっちに向かってくる。
「いけた!!」
「すげーよ、アオ」
「助かったぁ!! みんなありがと! その子が落ちそうになってるの見つけて先に助けちゃった」
感動的な雰囲気の中で唯子ちゃんが子猫を撫でると、自分が助けてもらったことを自覚しているのか甘えるように体をすり寄せている。
その中で、高橋先輩一人だけは段々と表情が曇っていく。
「お嬢さん、鍵は?」
「……あ」
「まさか、この下に落としたとか言わないよね?」
唯子ちゃんは心当たりがあるのか黙ってしまった。
「そうだ。この子に聞いてみたらいいんじゃないかしら。あたし実は動物と話す能力持ってて……あ!? 前足に引っかかってるわ!」
渡辺先輩が抱きかかえた子猫を目線の高さまで持ち上げると、その前足に鍵が引っかかっているのが分かった。
子猫はミーと小さく鳴いた。茶虎で目が真ん丸な可愛らしい顔をしている。
「天才猫かよ。てか、コイツ怪我してんじゃん。病院連れて行くっすか?」
「そうね。でも病院に行ったとして、このまま放っておくわけにもいかないわ。施設にでも預ける?」
「あの、唯子飼ってもいいかな? この子がいたら一人でもさみしくないし」
おいで、と子猫に向かって手を広げると、嬉しそうに唯子ちゃんに向かって飛び込んだ。
結局サンドイッチを車から取り出して、もう一度展望デッキまで向かう。それぞれ三人ずつ二脚のベンチを使って横に並んだ。
「いいなー、にゃんこ」
猫好きなのか、高橋先輩は膝の上に猫を乗せたまま、食べられそうな具材を分けてあげている。
折角作ってもらったサンドイッチを解体してもいいか、唯子ちゃんに許可を取っていたのはこのためだったのか。
「羽舞は自分の生活もままならないでしょ。部屋に物沢山あるし」
「ミー!」
「にゃんこからも同調されてんの終わってるわ。一人暮らしって三年目にもなると、生活習慣なんてもう荒れ放題だべ」
子猫の肉球を堪能しながら、「ねー」と同意を求めている。すごく嫌そうな顔をされているが見えていないらしい。
「生活習慣は見直した方が良いよ、長生きして欲しいし」
「俺まだ二十一だよ」
「侮ったら駄目っすよ。生活習慣病って結構デカいんですからね。オレは羽舞さんには長生きして欲しい!」
「見直すか」
伊藤くんに説得されて、急速に掌を返している。
「なんか唯子と反応違くない? タカハシのネガティブに伊藤のポジティブが勝ったってコト?」
「羽舞、裏表ない奴に弱いもんな。青龍くん、君ならコイツを倒せるよ」
「倒さないっすよ!?」
全員が食べ終わるのを待ってから、しばらくのんびりして車に戻る。正直、そろそろ帰らないと、さすがに怪しまれてしまう。発信機の位置情報を確認すると、まだ図書館にあった。
「高橋、運転大丈夫? 私車は持ってないけど免許は持ってるから変わろうか?」
運転を変わろうとする渡辺先輩を先輩たちで全力で止めている。
「渡辺さんの運転とか怖いから遠慮しておく、ありがとう。免許持ってるのも本当か分からないし」
「筆記は満点だったのよ。実技は……先生からちょっと褒められたかしら」
「絶対実技の方が大事ですよ、それ」
「それなら、練習しておくわ」
結局、私と伊藤くんの現状を踏まえて、火曜日と木曜日が活動日になった。
それぞれの講義の予定や門限もあるので、完璧に全員が集合できるとは限らないが、それでも嬉しかった。
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