第2話くねくね

くねくねと踊るたかし君を見て松井は半笑いを浮かべていた。あまりにも不謹慎なので肘で小突いた。

「ご両親はなんと言ってるんですか?」

俺が施設長に聞くと

「どうしていいか分からないと言った感じですね。たかし君のお爺さんは山の神様のところに返すしかないと言っておられるようですが。」

その後ご家族と面会することになった。


ご家族は3人たかしくんのご両親とその母方の祖父と言った感じだ。

「たかしはもうあのままなんですか!」

お母さんが憔悴した顔で叫ぶ

「母さん落ち着いて。。」

たかし君のお父さんがお母さんを宥める。

「なんで!そんなにあなたは平然としてられるの!薄情者!」

お母さんが叫ぶ

「ここで俺らが騒いでもたかしは元にもどらんだろ!」

夫婦喧嘩に発展しそうなその時

「やめんか!みっともない!たかしについては俺が決める。お前達には悪いがあれは山に還す。もうどうにもならんそうだろう?」

たかし君お爺さんが俺たちを見ながらそう言った。

「ご家族の方はお辛いでしょうが、お爺様の言う通りどうにもなりません。このままですと栄養失調でなくなるか、ベットに固定して胃瘻で生きながらえるかの二択になります。」

「山に返して神様の所へ行ってもらうのが1番かと表向きは事故死ということになります。」


ご両親は泣いていた。お爺さんも意気消沈しながらも「わかった」と呟いた。


話し合いの後お爺さんが俺達に語ってくれた話がある。

「俺が子供の頃はああいう子が数年に1人は出ていたんだ。だからよく晴れた夏の日は遠くを見るなと言われていた。昔はああなった子は寺でひと月置いておいて山に返していたんだ。近頃は全く見なくなったし油断していたよ。」

俺はその話を聞いてあいつの正体について聞いた。

「あれは昔知恵遅れで生まれて来た子を案山子の代わりに田んぼに置いていたんだ。棒に括り付けてな。それを振りほどこうとする動きそれがようするに名前の由来になったくねくねだ。それを見た山の神様が怒ってなそういう力を与えて集落に放ったとも言われている。」

山の神が怒る?人里の出来事など山の神には関係ないのでは無いだろうか。そんな疑問を抱きつつ明日たかし君を山に返すこととなった。

ワンボックスタイプのワゴン車に俺と松井後部座席に固定した車椅子のたかしくん隣にお爺さん、その後ろに地元の住職と5人で元集落へと向かった。

「たかしすまんなじいちゃん何も出来なんだ。山の神様のところでな平和に暮らせよ。」

たかし君にお爺さんが声をかける。たかし君は相変わらずニタニタと笑って焦点の合ってないない目で虚空を見つめていた。

「こういった話は先代や昔からの檀家さんから聞いていましたが私自身見るのは始めてで信じられません。」

住職は戸惑いを隠せないでいた。

「ここ数十年何も無かったんだかな、この子は運がなかった。」

お爺さんはそう言って黙った。


田んぼの真ん中の道をワンボックスタイプのワゴンで進む。ドライバーの俺以外皆俯いている。遠くにくねくねがいる可能性があるからだ。俺も前方のみを注視して田んぼにはなるべく目をやらないようにしていた。しかし、

「いるな、視界の端になんかいる。」

「皆さん絶対に外を見ないでください。」

俺は皆に忠告しつつ山の入口に到着した。


山の入口に車を停めて全員外に出た。

たかし君に対して住職がお経を唱える。

「たかし君が極楽にいけるように仏の世界で平和に暮らせるように祈るお経です。皆さんも信仰は各々あるでしょうが今はたかし君の旅立ちが平穏無事になるよう祈ってください。」

そういうと皆で合唱した。

そうしてたかし君の拘束を外してやるとたかし君は「ウヒャヒャヒャ!!」と叫びながら山の上へ向かっていった。俺たちが山の上に視界を移すと鹿らしき獣がいた。しかし鹿ではない人のようなニタニタした笑みを浮かべていたからである。俺たちがそれを見て硬直しているとお爺さんがボソッと呟いた。

「たかしだけじゃあ可哀想だな。爺ちゃんも着いてってやるからな。」

そう言って田んぼの方を振り返り懐から双眼鏡を取り出した。

「おい!馬鹿なことはやめろ爺さん!」

松井が止めるも遅かった。

「ミエタ……。ウヒャヒャヒャ!ミエタ!タカシ!ウヒャヒャ!」

お爺さんは奇声を上げながらたかし君と一緒に山の上へ向かっていった。

住職は驚きながらも額に冷や汗をかきながら念仏を唱えた。

「おい、山に返すっていうけどよ発狂させて山に誘導させるのが目的なんじゃねぇのか。」

松井がそういった。

「山の神が障害児の霊を変質させてくねくねにしたしかし風習は廃れてくねくねは減少したが近年のネットミーム汚染で復活したってことか。」

山の神もとい山の化け物は相変わらずニタニタしている。2人が化け物の前にたどり着くと舐め回すようにみてお爺さんの喉笛に噛み付いた。お爺さんはくねくねと動きながら喰われていた。

「おい、レンコン持ってきたか。。」

松井が俺に聞く

「祈祷済み銀弾38スペシャルが30発」

俺たちはニューナンブに弾を込めて階段を駆け上った。

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