第6話 別れの夜
第6話 別れの夜
クルマ「ブロロロロ… プスン」(キンキン
俺達は家に着いた。
鍵(ガチャガチャ
玄関(ガラガラガラ
男「ただいま!」
(シーン)
妻はいないんだったな。
タヌキ(ズカズカ
男(こいつが家に入るのは初めてだな。まあいいか)
タヌキ キョロキョロ)「やっぱり、 内風呂は無いのね。残念。一緒に入って、あげられないわ。」
男「」沈黙
男(ガサゴソ 紙パック(トクトク
ガス台(ボッ やかん(ゴツ
男は、焼酎のお湯割りを作る支度をした。今日は瓦斯(ガス)を使っても咎められない。
男(ニコニコ やかん(トクトク
安い焼酎のお湯割り、ツンッ 鼻をつくアルコールの匂い
安い酒でも、男にとっては大切な楽しみだった。
男「」 気の利いたツマミなんてものは無い。
男「!」(ピーン 男は 台所からひとつまみの塩を、摘まんで持ってきた。
その塩を、小さな醤油皿に、乗せる。慎重に。
この男、塩を、焼酎のツマミにする気のようだ。そう、男は 上級者…
できれば、なりたくない上級者だった。
タヌキは、それを、ちょっと嫌そうな顔で、見ている。(困惑
そう、そんな上級者の飲み方は、シロートには見せられない。
男(焼酎ゴクリ→塩 プハーー →焼酎
当然、そんな飲み方をしたら、コップ一杯なんて一瞬だった。
男「…悪魔の囁きが聞こえる…」( ユー、飲んじゃいなヨー、ワイフもいないっ、バレない、チャンスじゃんー)
タヌキ「わたしじゃ、ないわよ?」
男「プハーー 金輪際 金輪際 こっんりんざーーい」(陽気
焼酎(トクトク
男は楽しげに、何度も使えるお願いと謝罪の呪文を変な歌にする。
男「プハーー」
(男が椅子に座ってテーブルについているすぐ横、テーブルに腰掛けるタヌキを見る。
お行儀が悪い…が…男もいい加減気付いている。
こいつは自分にしか見えない。あと、本当に重さを伴って存在しているわけじゃない。
だから、テーブルに座るのも、セーフだった。)
男(近い。いい香りがする。 ツンッとするアルコールの刺激臭、それが、混ざり合う。)
男はタヌキの顔を 見上げる
男「タヌキ、お前は一体なんなんだ?」(ヒック
男のすぐ隣、テーブルに腰掛けるタヌキ。
タヌキ「わたしはタヌキ、百年を生きたタヌキは人を化かすようになるの。ちなみに雌よ、キンタマは…どうかしら? 」(嘘)
タヌキの両手が、黒のワンピイスの裾をつまむ、
それを、少し、捲り上げ…スススス
白い太ももが現れ…このまま進めば…
「ほら」(ガバッ
男(ビクッ
タヌキ ピタッ「フフフ…ウソよ。」
男(プイッ
男の顔は赤い、酒のせい?それとも?
男(焼酎ゴクゴク
うぃ~~ ヒック(ゴクゴク
タヌキは続ける(足プラプラ
タヌキがどんなに足をプラプラさせても、座っているテーブルは 微動だにしない。
タヌキ(天井を眺める
「わたしは悪魔、迷い出たモノ、寄る辺のないモノ…」
悪魔、このピンクの髪の、小さな角にヘンテコな尻尾、赤い瞳に白い肌…(目を伏せる
つぶやくように、言葉を発する。
「わたしは、気付いたらそこにいたの。
真っ暗なところ。
何も憶えていない、何も考えられない、何も知らない。ただ、いたの。
けど、ものすごく、お腹が減ってたわ。
見渡せば、周りにはキラキラ光る何かが沢山… わたしは、それらの中に、立っていたの。
ジュル) 食べたい
わたしは四つん這い、辺り一面に散らばる、キラキラ光る何かを鷲掴み、必死に口に詰め込んでいた。
タヌキ(あーん 小さな口を開ける。)
それらは、飲み込む度に、声がしたのかもしれない。
ムシャムシャ(俺が支えなきゃ!)
バリバリ(私が死んだらこの子は?)
ムシャムシャ(俺が死んだら誰が家族を…)
ガツガツ(まだ、まだ、まだワシが必要なんじゃ)
ガツガツ(…
ガツガツ(…
それらは、ここに流れ着いた心のカケラ。浮かばれない魂のカケラたちだったのかも。
あそこはきっと、献身の果てに力尽きた心の無念がカケラとなって、流れ着く、ところだったのよ。
無我夢中で、食べて食べて(喰らって喰らって)
気が付いたら、おなかいっぱいになってたの。
ーーーーーー 空っぽの器、悪魔。それは、喰らった心の ようになる ーーーーーー
そしたら、
涙が溢れてきたの。(ポロポロ
ポロポロ ポロポロ ポロポロポロポロ…あああああ!!!! あああああ!!!!
わたしは、泣き叫んだ。
どれほど泣き叫んでいたのかは、わからない。
そんな涙も枯れた頃、
気が付いたら、わたしの手は この、白くて小さな手に、なっていた。(手の平を見つめる
こうなる前の姿は、憶えていない。
それが、はじまり。
そう、真っ暗だったけど、きっとあそこは絶対
河原よ。
人の心が流れ着く どこでもない 河原
ーーーーーー 類い希なるやさしい悪魔の誕生 だった。それは、行き場を失ったやさしさを抱えたまま、理(ことわり)に背き、現世に、迷い出る。 ーーーーーー
男(コックリ コックリ
飲み過ぎの男は、さっきからもう、へべれけだった。
悪魔「あらあら、もう おねむ? かわいい子…けど、フフフ…つよいこね。だって、あなたはもう…」
数多の魂を喰らい
理(ことわり)に背き
迷い出た悪魔にとって
大の男など、
あかちゃんと、さほど変わりもしない。
…ねぇーーーんねぇーーーんーーー…
(不意に…悪魔の、艶めく唇から…ゆっくりと)
…ころぉりぃやぁーーーー おこぉろりぃーーやぁーーーぁあ…
…ぼぉーーーぉーーーやぁーーーよいぃこぉだぁーーーー…
(消え入るような、歌が…子守歌が、滴(したた)る。)
…ねんねしぃなーーーーーぁ…
(染み渡る。)
これは、かつて悪魔が喰らった心の、魂の断片…その一つが、いつかの我が子に聞かせた歌だったのかもしれない。
悪魔の白い手が、布団に伸びる。 スカッ)スカッ)が、悪魔の手は布団に触れることはできない。
悪魔「…わたしは本当に、何も出来なのね。」
こんなところで寝かせたら、お風邪をひかせちゃうかもしれないわ。
フフフ…悪魔がお風邪の心配なんて、おかしいわね。
悪魔は、男を見つめる。(目を細める
「フフフ…わたし、頭に、葉っぱを、乗せようかしら。」(ニコッ
フッ)悪魔は、霧散した。
ーーーーーーーーーー翌朝ーーーーーーーーーー
小鳥(チュンチュン
ガチャガチャ 玄関(ガラガラガラ
ただいまー
妻「あなた!あなた! こんなとこで寝て…」
男「んーーー」(ムニャア
男(あれ?何かが違う)目パチッ キョロキョロ
男(何かが昨日までとは…ぁ、タヌキ、タヌキはどうした?)
男は確信する。 タヌキは、もう、現れない。
男(ポロポロ
チョコーン プイッ ジーーー ドキッ タヌキとの思い出が溢れる。
台所の妻「あなた!焼酎、まだあんなにあったのに!全部飲んだのね!」(ドタドタ
男(ポロポロ ヒックヒック ウウウウ ポロポロ
妻(怒りすぎたかしら…)
妻「もう、怒ってないわよ。 ヨシヨシ」
つづく
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