第3話 ナイショ
あれから朝起きた俺は、今日の仕事に出たんだ。けど今日進めれるのは2時まで。
それからは、俺たちの仕事はできなくなる。
仕方ないから、俺は現場を離れた。
時間がぽっかり、空いちまった。
クルマ「ブロロロロロ」
気が付くと、クルマの助手席にタヌキがいる。シートの先っぽにチョコンと腰掛けて、脚をプラプラ、させている。
タヌキ(チョコンと座る(脚プラプラ
いつの間に?
考えても無駄か。
このまま帰るのもなんだかシャクだ。仕方無ぇ、駅前にでも行くか。
俺は国道から外れ、駅の方に向かった。
クルマ「ブロロロロロ」
駅前から少し離れた小道の左右には、クルマがびっしり停まっている。俺のクルマもその中の1台になる。
ドア(バタン フアアアア 俺は伸びをした。運転は肩が凝るからな。
タヌキ(フアアアア
タヌキも伸びをした。お前は運転してないだろ。あれ?タヌキの服が替わっている?
男(ジィーーー
タヌキの服が昨日までの変な黒い下着じゃねぇ。
あんな格好で出歩いていたら、駐在さんにピピーーと笛を鳴らされて、扇情的すぎるって叱られるってのがわかったのか?いや、
親の顔が見たい、かもな。(ププッ
なにかこう、黒一色のワンピイス?
膝下までの、ワンピイス?なんか布が足りないな、 肩のとこが紐だけで袖が無いぞこれ。
白い首と肩に目が行く。
ゴクリ)
男(目を伏せる
あれ?タヌキの尻から奇妙な尻尾が生えている。それは、黒くて細くて長い、先っぽにはトランプのスペエドみたいな形の何かが付いている。(尻尾ピョコーン
男(タヌキに尻尾、あったかな?まあいいか。)
そんな男をタヌキ(悪魔)の赤い瞳が見つめている。
その瞳が何を映していたのか、この男が知るすべは無い。
男は歩き出す。(スタスタ
タヌキも隣を歩き出す。(テキテク
男(キョロキョロ
駅前、クルマの通りが多い。
俺のみたいなクルマやトラックだけでなく、自家用の乗用車も多く見かける。
乗用車を持てる奴も増えてきたのか。
あたりを見回せば、様変わりしたもんだ。
いつのまにか、建物が増えてきていた。
ひーふーみーいつむー やめだ!(男は、新しいビルが何階建てかを数えるのをやめた。
男(高いビルを見上げる。
そのビルの屋上には、大きな看板に 「 朝日山 」高い酒の名前だ。
男はつぶやく。(俺も毎日、ポン酒が飲めるようになりてーなー )ポソ
タヌキ(ジィーーー
駅のロータリイには、
タクシーが列を作って客を待っていた。
タクシーの窓から生えている手にはタバコが挟まっている。
男も煙を吐き出す(スパーー
男とタヌキはプラプラと歩き続けた。
男のタバコが燃え尽きる
男「…」 ポイ捨て 踏み踏み
男「…」(シュポッ … スパーー
5本目だ。
男は つぶやくように言葉を吐き出す
「駅前の中古車屋、あそこにもじきにビルが立つかもなー」
駅前の大通りから一本入った繁華街
金貸しの看板が並ぶ(男の眉間にしわが寄る
その時、
ふと、小さな看板が目に入る。
喫茶エジプト 〔営業中〕
男の目が細められる。
まだあったのか。相変わらず訳わからねぇ名前だな。
ガキの頃、親父と来たことのある店だ。
吸い寄せられるように、男はそのドアに手をかけた。
ドア(チリンチリーン
ドアを開けると、タバコの煙が出迎える。
「いらっしゃいませ」
俺とタヌキは、窓際の席に腰掛ける。
2人掛けの席だ。俺にしか見えないタヌキが座る席は空席に見えるんだろうか?
給仕が注文を聞きに来るまでゆっくり待つことにする。
音楽(チャーラー チャララ ラララ ラーラー)
店のステレオから流れる ??? 俺がガキの頃には無かったな。
けどよ、このテーブル、あの頃のままだ。
心地いい曲だ。 クラシックか?
俺なんかには、何の曲かなんざ…
タヌキ「…秋のささやき 第一楽章」(ポソ
俺は目を丸くしての前のタヌキを見た。
こいつ、タヌキなのに物を知ってんだな。
タヌキ(プイッ
女の子「ご注文はお決まりですか?」ニコッ
男(ビクッ (ジッ
やっぱりな、タヌキの方を一瞥もしねぇ。
一つだよな。俺しかいねぇんだから、注文は一品だ。
男「…ボソボソッ(小声)を…一つ。」
給仕の女の子「?」男の声が小さくて聞き取れない。
男「…」ソッ メニューの紙を指差し
男がコーラフロートなんて言えるかよ、俺はメニューのコーラフロートの文字を指差した。
給仕の女の子「はいっ!コーラフロートお一つですね!」(元気な声
男「」
タヌキ(プッ
男「」この化け狸(ムカッ
タヌキ「フフフ…」
男「ハハハ」
周りの客(シッ…あんまり見ちゃダメよ。)
俺はそんなことは露知らず、テーブルの上のに置いてある何やら丸いものを見ていた。名前は知らない。
これは、喫茶店のテーブルにある、星座占いの紙が出るやつだ。
男「…」百円か…コーヒー220円なのに。これだけは、どんなにねだっても親父が一度も回させてくれなかったっけ。はははは
今でもちょっと気が引けちまう。(笑顔
タヌキが笑ったような気がした。
さっきの女の子だ。若いのにアルバイトか、偉いな。
コトッ(テーブルにコーラフロートが置かれる。
給仕の女の子「ご注文はこちらでよろしかったでぴゅか?」(噛
男「ありがとう。」(かわいいな
目の前には、大の男に似つかわしくない 背の高いコップの、コーラフロート
グラスの水滴が主張する
−−−−−−−− あたし、冷たいのよ −−−−−−−−
ゴクリ)
さっそく、いただこう。 いただきます。
甘い香りがする
細くて長いスプーンで、少しのコーラとアイスの溶けたとこをすくう。
パクッ(ん~~~
ん???
何だ?
デカい
コーラフロートがデカい、倍はある。
丸い星座占いのやつもデカい
テーブルが高い?
俺の手が、小さい?
これ、何なんだ?
声「母さんにはナイショだぞ。」
親父!? ガバッ(顔を上げる
あれ?
タヌキだ、タヌキがいる。
オレの手も、コーラフロートも元の大きさだ。
目を丸くする俺を、
タヌキの赤い瞳が俺を見つめていた。
その、ピンクの唇が、かすかに、かがやいているようだ。
( そうだ、この喫茶店に来た時、親父は決まって 「母さんには、ナイショだぞ。」 って言うんだった。
ガキの俺にとって、親父と来る喫茶店のコーラフロートは、何よりの楽しみだった。 )
― 親父の顔を、思い出す―
喫茶店の隅の席、大の男が独り、
鼻をすすって
コーラフロートを
飲んでいた。
つづく
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