第9話初めての取引

 さて、4軒目だ。ここが駄目なら、どうしようもなくなるんだけどな。でも、地元民に使われていると言う事だから、期待は出来るんだよな。……比較的ではあるんだけど。3軒が酷かったからな。相対的にマシってだけの可能性がある。全員屑だった場合は、師匠に素材を卸すか。王都に素材を送り付けることにしよう。そうすれば、少なくとも、冒険者も損をしないし、俺も損しない。けど、まともな錬金術師が近くに居ないというのは厳しい。何か困った時に、気軽に相談できる場所があれば、非常に望ましいんだけどな。


「いらっしゃーい」


「すみません。素材の買い取りをお願いします」


「おお? 珍しいね。ここで売りたいなんて。ちょっと見せてね。うんうん。数も申し分ないし、見たところ夕闇草で間違いない。と言う事は、北の方から来た冒険者かな? これなら銅貨40枚で買い取るけど、どうする?」


「それでお願いします。それと、錬金術師さんに会わせて貰っても良いですか?」


「エレミーに? 別に良いけど……何か仕事?」


 疑問に思われつつも、錬金術師のエレミーさんを呼びに行ってもらった。ここはまともだと思う。少なくとも、買い取りの値段はまともだ。間違ったことは言っていなかったし、ここなら信用できそうな気がする。そんな事を考えていたら、奥から面倒くさそうに錬金術師がやってきた。


「なあに? 仕事の話?」


「仕事に関わってくる話ではありますね」


「……同業者ね。ケイト、お茶を出して。話が長くなりそうだわ」


「あれ? 錬金術師だったんだ?」


「そうよ。一目見て解ったわ。……気が付くように佇まいを直したわよね?」


「同業者ならそれで伝わりますからね」


「へえー。まあいいや、お茶を準備するね」


「中へいらっしゃい。椅子がある方が良いでしょ?」


「まあ、その方が楽ではありますね」


 ちょっと長話になりそうだからな。座って落ち着けるなら有難い。いろいろと話をしないと行けないことがあるとは思う。……そもそもこの町の領主の話からしないといけないんじゃないか? 屑を養っているだけでも、万死に値するんだけど。俺の師匠なら、町の半分は破壊するだろうな。絶対に切れる。間違いない。そして、酒蔵だけは守るんだ。俺には解る。


「さて、同業者がどういう理由でここに来たのかしら?」


「端的に言えば、挨拶ですね。仲良くしたいので」


「へぇ。仲良くね。どういう風にかしら?」


「俺はサンルーグ。レイトーン村にやってきた錬金術師です。……これである程度は伝わりますか?」


「……なるほど。まあ、納得ね。と言う事は、他の3つも回った訳ね。どうだったかしら? 歓迎された?」


「ええ、大歓迎でしたよ。相場よりも安く買い叩かれましたね」


「まあ、そうなるでしょうね? それじゃあボーデンの所でもかしら?」


「自己紹介はしていないので、何軒目ですかね?」


「どういう順番で回ったのかは知らないけど、受付もやっている男の錬金術師よ」


「ああ、あの屑でしたら、俺が買い取る価格と同額を提示しましたよ。夕闇草が保存瓶に入れてあって、それで銅貨20枚です。ここは40枚でした。ついでに、貴族絡みだと思った大馬鹿2か所は、10枚と15枚でしたね」


「ボーデンも師匠が死んでからは愚か者になり下がったわね。そんなに商人からの取り立てが厳しいのかしら?」


「商人からの取り立てですか?」


「ええ、彼は借金をしているのよ。同情する余地は無いわ。ただのギャンブル依存症だもの」


「あ、放置で良い奴ですね。じゃあその内潰れるんじゃないですか?」


「さあね。借金をかたにマシな運営に変わってくれれば良いんだけど。いや、潰れてくれた方が私としては良いんだけどね」


「お茶が入ったよー。はい。高級茶じゃないけどね」


「いえ、ありがとうございます」


「でも、レイトーン村なんて場所に良く来たわね。ここは最辺境よ?」


「まあ、師匠が就職先を決めたので。私欲がかなり入っていますけど」


「あら? なら有望生なのね。成績は良かったんじゃないかしら?」


「有望生ってのはよく知らないんですが、成績は主席ですよ。平民の中では、ですけど」


「主席って、将来有望なんてものじゃないじゃない。成功が約束されているようなものでしょ? 主席なんて、どの錬金術師に師事していたのよ?」


「クエスエーレっていう師匠ですね」


「クエスエーレですって!?」


「あれ? 師匠の事を知っているんですか?」


「知っているも何も、錬金術師なら常識じゃない。3賢の1人よ? 知らなかったの?」


「……知りませんでした。師匠、何も言いませんでしたし」


 3賢ってなんだ? それに師匠が含まれているのか? 自分の事なんて碌に説明したことがない師匠だ。年間1人しか弟子を取らないのも、面倒だからって言っていたくらいである。それが有名人らしい。ただの酒飲みの飲んだくれなんだけどな。まあ、師匠が凄い人だってのは、なんとなく解った。


「まあ、良いわ。無自覚にやらかすような天才が、レイトーン村にやってきたと思えば、私にも利益はあるわ。それにしても、いや、言っても仕方が無いか。……それで? ここには何をしに来たのかしら? 本当に挨拶だけ?」


「挨拶と、素材の受けいれをお願いしたいって感じですね。良い環境にある訳ですよ。それを一番活かしてくれそうな人に売るってのが、筋じゃないですか?」


「そうなるでしょうね。でも、距離があるわよ? その辺はどうするのかしら?」


「それでなんですけど、獣人に偏見というか、差別意識はありますか?」


「無いわよ? 獣人奴隷でも使って運ばせる気なの?」


「いえ、獣人の冒険者に、ここに売る様にって誘導しようと思ってますね。こちらでもある程度は買い取るんですが、必要以上に在庫を抱え込むことになるじゃないですか。俺がここまで来て売るのも良いんですけど、それでも限界がありますよね? なので、冒険者に持って帰って貰えば、それなりの利益になると思うんですよ。現地価格よりも、高く買い取ってくれますよね?」


「……なるほど。悪い話じゃないわね。討伐の合間に採取をやらせて、泊まるならそっちに、帰るならこっちに素材が流れるようにするのね。良い計画ね。と言う事は、保存瓶を使わせるって事でいいのね?」


「勿論ですね。……というかですけど、冒険者ギルドは何をやっているんですか? そんな事も指導していないみたいなんですけど」


「テッケルンはボッテンハイム子爵家の領地であり、領都なのよ。大馬鹿の1人は子爵家の子息で、もう1人は寄子の子息ね。そこが冒険者ギルドと繋がっているのよ。冒険者の質を下げることをしているって自覚が無いのね。嘆かわしい事に」


「ああ、親元が大馬鹿なんですね。ある意味納得しました」


 自分の領地の価値を下げているって感覚が無いんだろうな。これだから馬鹿貴族は。もうちょっとマシな奴を貴族にしろよとは思わなくもない。けど、金と権力を持たせると、勘違いするやつが多いからな。やらせてみないと解らないって事も多くあるんだよ。ボッテンハイム子爵家はミスったな。もう少しまともな奴を当主にした方が良かったとは思う。自分の領地を、自分で無価値にしようとしているんだから世話がない。


「でも、これからは、マシな素材が入ってくるのね。こっちも素材置き場が欲しくなってくるわね。隣の家でも買い上げようかしら?」


「あ、それだったら、このマジックバッグを売りますよ。高いですけど」


「……マジックバッグって貴重なのよ? それなのに、ああ、そうか。クエスエーレが師匠だものね。マジックバッグを持っていても不思議じゃないわね」


「師匠、マジックバッグで荒稼ぎしてましたからね。まあ、これは自作なんですけど」


「そんなに良い素材を選別に貰ったの?」


「いえ、レイトーン村に迷いスライムがいるんですよ。俺のユニークスキルなら、時属性の素材さえあれば、マジックバッグを作れるんですよね。……内緒ですよ?」


「これだから天才がやらかすことは解らないのよね。有難く買わせてもらうわ。白金貨130枚なら即金で出せるわよ?」


「じゃあ、その金額でお願いします。正直、マジックバッグの価値ってよく解らないんですよね。師匠は大金で売りさばいたみたいですけど」


「普通はそうするのよ。でも、有難く買っておくわ」


「ついでにその中の素材もおまけしますので。これから上手くやっていきましょうって事で1つお願いします」


「こちらこそ。何かあったらお互いに頼り合いましょう。こっちは何を提供できるのか、解らない所ではあるけどね」


「それなんですけど、獣人の冒険者の支援ってお願いできませんか? 贔屓しろって訳ではないんですが、冒険に有利な情報とか、欲しい素材とかを教える形で」


「それくらいなら良いわよ? でも、獣人に肩入れするのね?」


「というよりも、獣人たちのネットワークを使いたいんですよ。獣人のネットワークってかなり広範囲なんですよ。なので、素材の取り寄せとかに使えるんじゃないかって思っている訳です。まあ、今すぐに欲しい素材がある訳でも無いんですけど」


「……獣人は横の繋がりが広いものね。確かに、取り寄せたいものがあれば、取り寄せられるかもしれないわ」


「師匠に頼るのは、最後の手段にしたいので、出来るだけ自分で何とかしたいんですよ。なので、獣人たちを通じて、必要な素材を回してもらえないかと。それを維持するためには、獣人たちと仲良くしないといけないですよね?」


「獣人のネットワークを使わせてもらうのだから、当然よね。良いわ。乗りましょう」


「ありがとうございます」


「こちらこそ。良いものをありがとう。多少は楽が出来そうね」


 こちらこそ有難いんだよ。ここの町にまともな錬金術師が居るというだけでも有難い。こっちに着てすぐだからな。横の繋がりが無いんだよ。それを構築していかないといけないってのに、4軒中3軒が使い物にならなくて、どうしようかと思っていたんだからさ。師匠って言う切り札があるんだけど、それを切ったら、大変な要求が飛んでくると思うと、無暗に切れないからな。こういう所で、横の繋がりが出来るのは良い事である。


 あの獣人の客にも、いい知らせが出来るな。まともな錬金術師が居ることが解ったんだし。連携が取れそうな人で良かった。……何とかして、連絡を蜜に取りたいんだけどな。開発してみるか? 電話を。固定電話になるとは思うが、出来ない訳でないと思うんだよ。今後の研究課題にしてみようかなとは思う。エレミーさんは良い人っぽいし。まあ、種族はアルマサニーだけどな。指が7本あったから確定だ。そうなってくると、寿命もそれなりに長い事になる。……年齢は聞いたら駄目だけどな。女性に年齢の話はタブーだ。それくらいの常識は、俺でも持っている。女性に年齢を聞く時は、死を覚悟しなければならない。


「それで? 今日は何処かに泊っていくの?」


「いえ、これから帰ります。行きも1時間くらいで走って来たので、帰りもそのくらいで帰れる筈です。若干登り道なのが気になる程度ですけど」


「走ってって……。冗談では無さそうね。無尽蔵に魔力があるのかしら?」


「まあ、人と比べたら多い方ですよ。師匠よりも多かったので」


「羨ましいわね。それも才能の1つだけど。だからこその主席なんでしょうね」


「そんな訳で、帰ります。また素材が良い感じに貯まってきたら、こっちに卸しに来ますね」


「ええ。歓迎するわ」


 そんな訳で、帰ります。明日には魔法の授業をしなければならない。多少は準備が必要だ。何もなしでは厳しいだろうし、用意はしておかないとな。多分だけど、獣人と相性が良いのは、身体能力強化だ。圧倒的に身体能力が優れている獣人が、更に強化されるんだ。まあ、強い事は確定する。魔力が多ければ多いほど、無双が出来る。少なければ少ないで、要所要所で使って、有利を取れるだろうし、獣人の人はポテンシャルが高いよな。良い事だよ。エルフだと、身体能力はそこまでではないし。強化しても、し切れないことが多くあるからな。それでも、異世界知識でかなりのブーストがかかっているとは思うが。……それを使っても勝てない師匠はなんなんだとは言いたくなるけどな。本当に人なんだろうな? まさか魔物じゃないよな? 疑惑は深まるばかりだ。


 獣人が魔法を会得すれば、冒険者としてはかなりのものになるだろう。それが獣人のネットワークで広がっていく事になる。そうすれば、獣人を見下すことも出来なくなるだろうな。まあ、奴隷に関してはどうしようもないけど。稼いだ同朋が、買い取るって事をするのかもしれないけどな。そうすれば、角は立たないんじゃないだろうか。奴隷商人も利益になるんだから、嫌とは言わないだろうし。


 色々と考えないといけないことが出来るよな。獣人が奴隷から開放されれば、経済がどうなるのかとかも、考えないといけない。奴隷が無限に発生する訳ではないからな。何処からか調達してくるんだろうが、何処にそんな場所があるんだろうな。……案外、王都にあったのかもしれないけど。スラムなんかがあったのかもしれないな。近づこうとは思わなかったし、探そうとも思わなかったからな。もしかしたら、あったのかもしれない。知らないって幸せな事なのかもしれない。けど、今は目をそらすことは出来ないよな。1度関わってしまった訳だし。なんとかしたいとは思う。獣人差別か。無意味な事を考えるよな。何で差別されているのか、いまだによく解っていないからな。人間とは違うのは解る。でも、それって、エルフもドワーフも人間とは違う訳で。獣人だけが何で特別なんだろう。あまり意識したことが無かったからな。今度聞いてみるか。……獣人たち本人に聞くのも、なんか変な感じはするんだけど、聞く相手って、そのくらいしか居ないしな。エレナちゃん? 無理だろ。知らなかったみたいだし。


 そんな事を考えながら走っていたら、レイトーン村に到着していた。まだまだ夕方だ。日が落ち切っていない。往復でもう少し時間がかかるかなとは思っていたんだけどな。案外近い場所にあって良かったとは思う。


「あ、おかえりなさい」


「ただいま、エレナちゃん。何も問題なかったか?」


「はい。冒険者の人たちも優しくて、何も問題ありませんでした。あ、解体して欲しいってダイヤウルフが持ち込まれていました。昨日の獣人のお客さんです」


「そうか。了解。それと、魔法を教えることだけど、子供たちの方も伝わった?」


「はい。是非にって言ってました」


「良かった。それじゃあ、今日はこのくらいで良いよ。明日もよろしくね」


「解りました。お疲れ様です」


「はいお疲れ」


 店はもう少し開けておくけどな。夕ご飯を食べながら店番だ。この時間には帰ってきているとは思うけど。長く森の中に居れば、真っ暗になる。魔法が使えないなら、この暗さは辛いだろうからな。身体能力強化は、視力も上げられる。夜目を利かせることも出来るようになる。身体能力強化は万能な魔法と言ってもいいんだ。それが出来る様になれば、冒険者としても一気に成長する事になると思うんだよな。

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