第7話錬金術店を始めます
店に帰ってきて、まず初めに取り掛かるのは、マジックバッグの作成だ。売れ筋商品という訳にはいかないが、信用が出来る人になら売っても良いと思っている。まあ、マジックバッグって1つ白金貨30枚から、30億ケッタからなんだよな。まず売れない。でも、作っておいた方が良いんだよ。これがあるだけで、冒険者の稼ぎが100倍にはなるんだからな。
そんな訳で、まずは迷いスライムの核を、3つ反転させてしまう。そうする事で、空間属性の素材へと変化させる。勿体ないとは思うが、それが一番いい方法だからな。空間属性の素材を探すよりも、迷いスライムが確定で居ることが解っているので、そうした方が安いんだ。俺が討伐すれば、原価はタダである。それだけの稼ぎになるんだ。作らないなんて選択肢はない。まあ、売れないとは思うけどな。それでも、死蔵しておくだけでも価値があるんだよ。
そんな訳で、迷いスライムの核を反転させた。そして、1つずつ錬金釜に入れて、魔石に変換する。……これもかなり勿体ないんだけどな。普通は素材を素材のまま使った方がお得なんだ。魔石にするという行為は、50%くらいの素材の良さを無駄にしていると言われる。でも、マジックバッグに必要なのは、魔石なのだ。汎用品にすることによって、マジックバッグというものを普及させたまであるからな。だから、勿体ないけど、魔石にしてしまう。
だが、ただの魔石にしてしまうのは勿体ない。ここで師匠直伝の秘術を使う。闇属性の素材を大量に投入する。種類は何でも良い。ここで重要なのは、素材を放り込むと言う事だけだからだ。その素材から、闇属性の要素を抽出して、闇の真核を作ってしまう。闇の真核は、ポーションの強化に使えるので、取っておく方が良い。だけど、闇の真核を作るには、膨大な闇属性の素材が必要で、その他の魔力は無駄になりがちなんだよな。しかし、師匠の秘術によって、残りの魔力を迷いスライムの核に流し込む。そうする事で、対象の魔石を大きくすることが出来る。……なんて出鱈目な事を知っているんだって思うぞ。普通は出来ない。錬金釜の中で、2つの物を同時に作るなんて行為は出来ないはずなんだよ。それなのに、秘術を使うと、2つの作業が出来てしまう。何でそんな事を知っているんだって思うんだが、規格外の師匠の事を考えても無駄なんだ。出来るんだから出来ると言う事にしておいた方が良い。そう言う事で、闇の真核と、空間属性の大きな魔石が手に入った。出鱈目な秘術だよ。まあ、秘術なんてものは、大抵が出鱈目なんだろうけどな。
そんな感じで、時属性の魔石を3つ、空間属性の魔石を3つ、闇の真核を6つ作った。闇の真核は、この後作るポーションに必須の素材だからな。あるだけでも有難い。とりあえず、保険として持っておきたいポーションがあるんだ。闇の真核とダークスライムの核、それに森で採取した闇属性の高級素材で作れる。まあ、それは後回しだ。まずはマジックバッグを3つとも作ってしまう。
魔石に魔法陣を刻む。これも中々難しくて、言葉では表し切れないんだけど、魔力で魔石に道筋をつけるんだ。そこに魔力が循環して、魔石が魔法を発動する。これの補助に、エルダートレントの葉っぱを使う。エルダートレントの葉っぱを錬金釜で良い感じに加工して、魔力の通り道になりやすい性質を加える。まあ、補助的な役割だから、無くても問題ないんだけど、あった方が俺としてはやりやすい。エルダートレントの素材は、魔法に関して適性があるので、こう言う事にも使えるんだよな。そんな訳で、魔石に空間拡張、重量軽減、時間停止の魔法陣を刻み込んでいく。慎重に、かつ丁寧に。これで失敗したら泣けるので、かなり慎重に。邪魔されない程度にお客が来てくれると良いなとは思いつつ、今だけは呼び出されたくないなと思いつつ。
そんな感じで6つの魔石に魔法陣を刻んだ。それで、今度は魔石を鞄に取り付けて、錬金釜に再度投入。今度は魔石の魔法陣を、鞄に馴染ませるんだ。グルグル回しつつ、魔法陣が鞄全体に広がる様にしていく。そうする事で、マジックバッグが完成するんだけど、ここで一工夫。無属性の魔石をジャラジャラと投入する。これによって、普通よりも空間が拡張される事になるんだ。まあ、その代わり、探知魔法なんかで見つかりやすくなるってデメリットがあるんだけど、マジックバッグを盗難する気が無ければ、そんな事はしないので、基本的にはデメリットにはなり得ないんだけどな。でも、この工夫も、師匠が自分で考えたとか言っていたので、一般的ではないのかもしれない。そもそも、空間拡張の魔法陣も大きく書いてあるし、そこまで入れるものに気を使わないでも良いとは思うんだけどな。必要以上の容量がある訳なんだし。
そんな感じで、マジックバッグを3つ程作った。基本的には、冒険者に向けた商品である。商人には売らない方針で。師匠も言っていたけど、そもそも商人はマジックバッグを既に持っていることが多いので、そんな所でダブらせるよりも、冒険者に使ってもらった方が有意義であると話していた。それは確かにその通りだし、冒険者の採取能力が高くなれば、最終的に嬉しいのは錬金術師である。市場に流れる素材の量が増えるんだからな。冒険者に使ってもらった方が良いだろう。ただ、それだけの資金力がある冒険者が居るのかって話にもなるんだけどな。居ないのであれば、仕方がないけど、死蔵するしかない。買えるだけの冒険者が現れるまで、待つしかないとは思うんだよな。……儲けたかったら、商人に売るんだけど、お金は既に一生分は稼いでいるんだよな。だから、そこまでお金に拘っている訳ではないんだよな。錬金術師として、生活がしていければ、それで良いんだよ。そこに大層な理由があるとかでは無いんだよな。
さて、そんな感じでマジックバッグを作り終えたんだけど、保険のポーションも作ってしまうとするか。闇の真核とダークスライムの核、それと闇属性の高級素材を使って、大怪我をした時に使うポーションを作っていく。流石に腕や足が欠損した場合のポーションは作れない。腕を生やすポーションは流石に無理だ。闇属性の高級素材は足りているんだけど、それ以外が足りない。欠損まで治す薬は、聖属性のポーションになる。そこに光属性の高級素材なんかを使って作るんだけど、俺は死属性と闇属性でも作れるからな。だから、ここで活動する事はメリットしか無いんだけど。……理由が理由だからな。素直には喜べない。
まあ、それでも、ダークフルポーションで多少の血肉は回復する。腕があればくっ付くし、抉れた程度なら埋まる。瀕死の状態からでも何とかなるだけのポーションは作れるんだ。……そんな事にはなってくれるなとは思うけどな。死んだらポーションの効き目も無いんだから。死なない様にしてくれとは思うよな。普通に活動していて、死なない程度で稼げって言うのは、難しいのかもしれないけどな。冒険者って、危険な所にも行くから、冒険者なんだしさ。危険を冒さない冒険者なんて居ないんだよな。大抵は死地に飛び込んでいって、大金をせしめてくるのが冒険者だ。そういう感じなんだよ。冒険者に危険な事をするなってのは、死ねっていうのと同じなんだよ。
そう言う事で、ダークフルポーションが完成。ついでに、造血ポーションも作っておく。ダークフルポーションで、ある程度の血肉は回復すると言っても、ある程度だ。直ぐに使えれば良いんだけど、そもそもそういう状況になく、ボロボロで帰ってくる可能性があるからな。この場で治療をするとなると、血が足りない可能性がある。そう言うときのために、造血ポーションも必要だ。血を失い過ぎた人なんかに役に立つんだけど、妊婦さんとかにも有効だ。貧血になりやすいって言うからな。そう言うときにも、造血ポーションは活躍する。副作用として、お腹が減るんだけどな。だから、常飲すると、太りやすくなる。まあ、常飲する様な馬鹿は居ないとは思うけどな。妊婦に効くのだって、1回で十分なんだし。それだけ毎日毎日、血を流し続けないといけない職業ってなんなんだよとは思わなくもない。常飲するはずが無いものだからな。常飲したら、多分だけど鼻血が止まらなくなるんじゃないか? 鼻血程度で済めばいいけど。
後は、ダークハイポーションとか、ダークメガポーションとか、ダークギガポーションを作っておけば、色んな事に対処できるとは思う。治療は慣れと思い切りが大切なんだ。迷う暇があれば、上位のポーションを使った方が良い。だけど、ダークフルポーションは高いからなあ。白金貨5枚が相場だ。因みに、ダークポーションは銅貨2枚。ダークハイポーションは銀貨2枚。ダークメガポーションは銀貨60枚。ダークギガポーションは金貨40枚になる。それだけの大金を払えるのか。それが問題だ。まあ、払えなくても搬入されたら使うけどな。最終的に支払う覚悟があれば、の話ではある。金額で揉める様なら見捨てる。それが錬金術師としての覚悟だ。批判は受け入れる。非難されることもあるだろう。だが、無償でポーションを使う事は出来ない。それなりの覚悟を背負ってもらう。たとえ奴隷に落ちようとも、払ってやるという気概が無ければ、達成は困難なんだから。
まあ、そんな機会が訪れない方が良いんだけどな。ただ、何時でもそのくらいの覚悟はしておいた方が良い。冒険者というのは、危険を冒すものだからだ。時には、死にそうな思いで帰ってくる事もあるだろう。それを助けることは可能だ。一命をとりとめることは可能だ。そこからが問題だ。心が折れてしまっては、冒険者を続けることは出来ない。ましてや、借金を返すことなんて出来ない。借金奴隷に落ちるのが精々だ。それでも、冒険者としては使い物にならないんだから、飼い主も現れないだろう。奴隷に飼い主が付かなければ、待っているのは悲惨な最後だ。餓死。これが借金奴隷の最後の結末である。売れると思われる内は、何とかしてくれるとは思うが、売れなければ、死ぬのが奴隷の世界だ。奴隷を買うのであれば、覚悟は必要である。一生面倒を見ていく覚悟がな。
そんな感じで、錬金術を終えた後は、調査で狩った魔物の解体をしていた。ダイヤウルフやネガルドウルフの皮を、アースマッドの溶解液で鞣したり、解体した肉を宿屋に売りに行こうかなと考えたり、心臓を保存瓶に入れてニヤニヤしたりしていた。完全に変人に見えるが、錬金術師なんて皆変人だからな。まともな人間がやれる仕事じゃない。何処かしら神経が壊れていないと難しい。だからある程度の素質が求められるんだ。魔力が多くとも、常識人では厳しいんだ。俺も常識人だとは自分を思っていない。そもそも転生者だ。何処か壊れていてもおかしくない。普通ではあり得ない経験をしているんだから、錬金術師に向いているなんてこともあり得るくらいだ。
「あのー、サンルーグさん。ちょっと来てくれますか?」
「あれ? エレナちゃん、解らないことがあったかい?」
「はい。とりあえず来てくれれば」
そう呼ばれて、お店の方へ。……解体で血まみれだけど、まあいいか。呼ばれて出て行かない訳にはいかないし、冒険者なら、このくらいでビビらないだろう。
「店主さんを連れてきましたよ」
「おう。話の分かる奴を連れて来てくれたか。この嬢ちゃんがこれは買い取れないって言うからな。そんな訳がないって事で話していたんだ」
「ん? ……ああ、そう言う事か。買い取れない訳ではないが、査定に時間がかかるのと、安く買い叩かなければならない可能性がある。それでも良いなら買い取るが?」
「……何故そうなるのか、理由を聞いてもいいか? 俺たちが獣人だからってのは無しだ」
「保存瓶に入っていないからだ。素材というのは、基本的に保存瓶で保管するものだ。そうじゃないと素材としての属性や効力がどんどんと抜け落ちていく。だから、査定には時間がかかるし、時間が経っているのであれば、安くなる。そう言う事だ。冒険者ギルドではその事を教えてくれないのか? 普通は冒険者ギルドで教えて貰えるはずだが……」
「何? ……そんな事は聞かされたことがないぞ?」
「なら冒険者ギルドの怠慢だな。それか、先輩冒険者が教えるだろうと思っていたのか。それとも、錬金術師が教えるだろうと思っていたのか。いずれにしても、何処かで教えて貰えるはずだったわけだ。冒険者として、早い内にそれらの事を教わるはずだ。だから、今まで知らないって事を認識していなかった可能性もあるな。わざと保存瓶に保管せずに換金しようとする輩は居ない訳ではない。まあ、普通は価値を下げてまで売ろうとは思わないんだがな」
「クソ! 獣人だからってそこまでされるのか! 俺らがどうなろうが知ったことではないってか!」
「獣人差別があるのは知っているが、冒険者までなのか? 冒険者としては、獣人はかなり強い部類に入るとは思うんだが」
獣人は差別されている。何でなのかは知らん。俺自身は、獣人は獣人だろう? ってしか思っていない。よくある種族だし、珍しいものでも何でもない。そもそも種族差別なんて馬鹿がやることだからな。何の利益にもならないんだし。因みに、国立錬金術師大学校では、普通に獣人も居る。差別はされていない。特別扱いもされていないが。ただ、差別意識がある錬金術師が居るのは確かだ。まあ、そんな奴は碌でもない奴というのが、相場が決まっているが。見た目で判断する事ほど、馬鹿らしいことはないからな。そんな事で差別をしても、何にもならないし。
「エレナちゃんは獣人族って何も思わないのか?」
「何で思う必要があるんですか?」
「いや、その答えで十分だ。彼女に獣人を差別する意識はない。これでとりあえずの答えにはなっただろうか?」
「ああ、十分だ。お前たちは差別をしている訳ではないと言う事なんだな。……査定を頼む」
「因みに聞いてもいいか? 冒険者ランクはどの位だ?」
「Cランクだ。主に討伐をしていた。ここに錬金術師の店が出来ると聞いて、採取でも金が稼げると思ったんだ。獣人族は、何処でも差別される。金は幾らでも持っているに越したことはない」
「……なるほど。メインは討伐か。それで今まで知らなかったんだな。保存瓶は錬金術師の店で買う事が出来る。1つ銅貨1枚だ。それと、必須のポーションだが、ここにあるのはダークポーションだ。効果は基本的には同じだが、それは銅貨2枚で売っている」
「何? 俺が仕入れたポーションは銅貨5枚だったぞ?」
「それは錬金術師の店で買ったのか?」
「そうだ。ここから一番近い町、テッケルンで買った」
「……その錬金術師の店は使わない方が良いな。別の錬金術店を探した方が良い。そうすれば、差別の意識が無ければ、銅貨2枚で買えるはずだ」
「解った。……店を吟味しなかった、俺の責任でもある。忠告、感謝する」
その程度で感謝されてもな。優秀な冒険者は歓迎しているんだ。
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