第4話まずは東側の森から

 エレナちゃんを雇ったが、まずはやらないといけない事をやらないとな。まあ、とりあえず、エレナちゃんは店の掃除からやって貰おうか。雑貨屋さんで昨日の内に買っておいた箒で店の掃除だ。基本的には、保存の魔法陣のお陰で綺麗なんだけど、多少の誇りはあるからな。雑巾もあるし、バケツもある。掃除するには問題ないだろう。


「そんな訳で、今日から朝ご飯を食べたら、ここに来て店番ね。晩御飯を食べる時間になったら、帰っても良いから。お昼ご飯は、宿屋で買って来るか、自分の家に帰って食べるか。どっちでも良いけど、宿屋で食べるなら教えてね。先にお金を渡しておくから」


「あの、お昼も食べるんですか?」


「……え? そこから? ここの村って、お昼ご飯は食べないの?」


「食べないよ?」


 マジか。地味にカルチャーショックである。生まれたのは王都近辺の町で、国立錬金術師大学校に通っていた頃は王都に居たから、普通にお昼ご飯を食べていたんだけど、辺境の村では、お昼ご飯は無しなのか。地味に来るな。込み上げてくるものがある。お昼ご飯も楽しみの1つだ。というか、冒険者は食べているんじゃないかな。宿屋でお弁当を貰っていくんじゃなかろうか。食事は楽しみの1つだ。娯楽の1つだ。食事が1日に2食だけって、辛いんじゃないか?


「まあ、食べたくなったら、宿屋に行ってくれ。食べられるからさ。冒険者なんかは食べていると思うし、宿屋の人も食べてるとは思う。食べていない人たちばかりでは無いはずだよ。……詳しい事は知らないけど」


「うーん。あたしは要らないかな。そんなにお腹空かないし」


「そうか……。まあ、いいや。そんな感じで、夜遅くに帰ってくると思うから、晩御飯の時間になったら帰って良いからね。それまでは店番。まあ、売るものは何もないんだけど」


「お! いたいた! 錬金術師の兄ちゃん、保存瓶を売ってくれ! 今日も素材集めをするんだ!」


「……あー。そう言えば、昨日教えたから、今日もやるか。よし、それじゃあエレナちゃんの仕事だ。保存瓶は1つ銅貨1枚。それで皆に売るんだ。出来るかな?」


「うん。解った」


「それと、帰ってきたら、ポーションも売ること。ポーションはこっちに置いておくから、子供たちに売ってあげてね。冒険者の人には、まだ売らないでほしい。補充が出来ないから、まだ雑貨屋で買ってくれって言っておいて欲しいんだ」


「解った。それで、ポーションは幾らで売れば良いの?」


「ポーションは1つ銅貨2枚だ。それなら今日の成果で十分支払えるはずだから」


「えっと?」


「ああ、買い取りの方法も教えておかないといけないか。とりあえず、村にある3種類の素材を買い取ってくれれば良いかな。それで値段なんだけど――」


 そんな感じで値段の付け方を教えておく。大体の相場だとは思うけどな。王都付近なら、もっと高く買い取ってくれるんだろうけど、ここでは貴重な素材って訳ではないし。場所によって価格が違うって事もあるんだよ。だから輸送で儲けようとする人が出てくる訳で。商人なんかは、結構錬金術の素材を扱ったりしているんだ。強欲な商人も居るんだけど、そういうのはどうでもいいかな。基本的に、誠実に接していれば良いとは思う。まあ、馬鹿みたいな値段になっていたら、買い取ることはしないけどな。


「えっと、これ以上高く買えって言われた場合はどうしたらいいですか?」


「無理して買う必要はないから、そういうのは別の場所で売って貰うように。それでも話を聞かない人は、お店の魔法陣が吹き飛ばしてくれるから心配しなくても安全だよ。おまえらも、店の中で喧嘩するんじゃないぞ。絶対にするんじゃないぞ。喧嘩するなら外でやれ。そうじゃないと、店に殺されかけるからな」


「お、おう。……なんだ? この店ってそんなにやべえの?」


「おう、やばいぞ。マジで死ぬかもしれないから止めておくんだぞ。じゃれ合いも止めた方が賢明だ。まあ、悪意が無ければ大丈夫だとは思うけど、魔法陣を見た限りでは、暴力はかなりのカウンターが飛んでくる。魔力が続く限り飛んでくるから、基本的には止めておけよ」


「気い付ける。それじゃあ、保存瓶を売ってくれ!」


「エレナちゃん、お願いね。良い感じの時間になったら、買い取って貰って、ちゃんと家まで帰るんだぞ。遅くなって怒られても知らないからな」


「おう! ささ、早く保存瓶をくれよ!」


「銅貨1枚ね。お金は準備しておいて」


「あー、今日は後払いじゃ駄目なのか? 昨日の金は置いてきちまった」


「全く。仕方がないな。ちゃんと後で払うんだぞ?」


「ありがとう! 錬金術師の兄ちゃん!」


 まあ、こんなくらいの金額の貸し借りは別に構わない。借金をする様な事にならなければ問題ないだろう。……悪い奴に騙されて、借金をする羽目にならないと良いけどな。下手すれば、奴隷に叩き落とされるんだから。その辺は気を付けないといけない。悪い商人は直ぐに借金漬けにしようとしてくるって師匠も言ってた。師匠は酒で借金まみれになりそうだけど、錬金術の腕は良いからな。お金も困らないくらいは持っているし。大量にマジックバッグで儲けていたから、まだまだ余裕はあるんだろうさ。俺の懐にも、かなりの金額が入ってきたからな。村1つ分なら余裕で買えるだけの資金はあると思う。町ってなると、難しいとは思うけどな。まあ、この店の魔石で、町1つ分は買えてしまうんだけど。


 そんな訳で、俺は森の中へ。亡者の鉱山都市ベルンケラーには向かわない。普通に歩いて15日。身体強化魔法を使って1時間もかからないくらいか? そんな移動速度が、森の中で出せれば、だけどな。普通に警戒しながら進むんだ。俺でも1日はかかると思う。そもそも森の中の状態を確認していない今なら、普通に15日程度は欲しい。森を熟知して、活動範囲を徐々に増やしていければ、問題なくベルンケラーまで行けるとは思うけど。


「というか、素材の宝庫だな。こんな場所にこんな素材があっても良いんだろうか。地元価格でも、銀貨になるぞ。うぉえ!? うっそだろ!? この素材の群生地があって良いのか!? ここだけで金貨が手に入るじゃねえか!」


 出るわ出るわの大騒ぎだ。こんな素材がこんな近くにあって良いものじゃないだろう。王都なら、ここで採取しただけでも1財産作れるぞ。……まあ、地元価格だろうし、付加価値が付くのは王都だからって可能性は十分にあるんだが。それでも買い取り価格は10分の1だろう。下手したら、白金貨、1億ケッタも狙えるぞ。


 しかもこの近辺はスライムしか出ない。今までダークスライムにしか遭遇していない。ダークスライムは、核が良い感じに闇属性を帯びているから、良い感じの素材になるんだよ。ポーションの価値を2段階くらいは引き上げてくれる良いものだ。……まあ、高級なポーションは幾らあっても良いからな。スライムの核は、非常に脆いので、冒険者が簡単に採取できるとは限らないんだけど。魔法で倒すんだけど、それでも加減をしないといけないからな。討伐報酬は……、討伐部位が残らないから、実績にならないとかじゃないのかね? 良い素材なんだけどな。スライムって。


 魔物とは色々と遭遇している。今は、未開地の東の方に来ているんだけど、ベルンケラーがあるのは北側だ。そっちは最後。とりあえずは調査に3方面で分けた。こういう未開地って、東西が違うだけでも環境が変わっていたり、魔物の分布が違ったりするんだよな。でも、定番のゴブリンは何処にでも出てくる。魔石くらいしか利用価値が無いんだけどな。ただ、魔石も何かと必要なので、取っておくに限るんだけど。魔石は素材と一緒で、どれだけあっても良いものだからな。魔法陣を刻めば、武器にもなるし、魔法が使えない冒険者にはもってこいだったりするんだよ。……若干高いのがネックだけどな。加工費って結構するんだよ。ポンポンと投げられるものじゃないんだよな。それなら、そもそも魔法を覚えた方が良かったりする。


 まあ、魔法が苦手な種族も居るからな。一概には言えないんだけど。まあ、ゴブリンの魔石は採取対象だ。後はコボルトだな。これも比較的何処にでも居る。ゴブリンと違って、毛皮が結構重宝するんだよな。毛が長いから、糸を作ろうと思えば作れる。そこまでしなくても、別の魔物が居れば、お役御免ではあるんだけどな。この場所には居ないみたいだけど。


 それと、こっちは沼地になっているらしく、ダストフロッグが大量に居た。ダストフロッグは、胃袋が素材になる。これが水属性の素材で、結構お世話になるんだ。俺だってフロッグ系統の長靴と手袋をしているからな。これは俺が師匠に作っておけと言われて作った自作だ。伸縮性が高く、耐水性があり、何よりも沼地に因る行動阻害を無力化してくれる。唯一の欠点は、格好が悪いと言う事なんだけどな。伸縮性を意識して、胴長みたいになっているし。沼地で行動するのであれば、絶対に欲しい逸品である。防御力も中々で、噛みつく攻撃にも強く、また斬撃にも強い。爪や牙で攻撃してくる魔物相手には、無双が出来るぞ。良い装備だ。見た目はともかく。見た目はともかくな。まあ、見た目で笑う奴は、そもそも沼地の恐ろしさを知らないんだ。というか、防具関係はかっこいい訳がないので、熟練した冒険者ほど、珍妙な装備をしていることがままある。金属製の鎧を着こんでいる様では、まだまだなんだよ。それは初心者が陥りがちな間違いだ。まあ、金属製の装備の方が良い事もあるけどな。あれも若干土属性を帯びているんだ。土属性の相手をするときは、そこそこの装備になり得る。


 話を戻して、魔物の調査だ。こっち側は沼地なので、それに準じた水属性の魔物が居ると思われる。闇属性の素材があるのはそうなんだけど、こっちには水属性の素材も結構ある。まあ、高級品かって言われると、微妙な所ではあるんだけど。でも、まあまあの素材は手に入れられそうだ。


 それと、沼地を掘り返した洞窟のような場所がいくつもあった。水がなるべく入ってこないように処理されていることから、ここには氷雪コウモリが居ることが解る。牙が水属性を帯びていて、氷系の素材としても使えるんだよ。氷属性は無いんだけどな。水属性は水属性だ。魔石も水属性だし、氷雪コウモリは群れるから、狩り放題って感じだな。まあ、それなりの装備をしていないと、痛い目を見るだろうが。最悪は、体が氷漬けにされてしまう。対処法を知らないと、普通に腕や足を欠損するからな。気を付けた方が良い。


 また、やっぱりというべきか、ダイヤウルフも居た。水属性の狼型の魔物で、牙、毛皮、魔石が水属性の素材として使える。そして、肉が美味しい。ダストフロッグも氷雪コウモリも食べられないが、ダイヤウルフは食べられる。お肉も中々に美味しい。師匠が酒のつまみに欲しいといった事もあったくらいには美味しいぞ。でも、ダイヤウルフが居ると言う事は、その上位種も居る可能性があると言う事である。なので、探した。結構奥まで入ったと思うが、見つけられた。


 それがネガルドウルフ。素材は牙と毛皮、魔石、それと心臓だ。ネガルドウルフの心臓は、水属性が強く、中々に汎用的な素材であるため、ストックは欲しかったんだよな。こうやって、心臓や、他の部位が素材になる魔物も居るんだ。居るんだけど、それだけ強いと言う事である。中々ネガルドウルフを討伐してくれる冒険者は居ないかもしれない。俺? 俺は戦闘訓練も熟しているし、そもそも魔法だって使えるんだから、負けないって。負けたら師匠に殺される。訓練で死ぬ思いをするどころじゃない。魔物に負けるくらいなら死ねって言われる。なので、戦闘訓練は嫌という程受けた。まあ、死んでないので良いんだけどさ。なんだかんだと殺すわけではないとは思う。……多分だけど。


 そんな訳で、ネガルドウルフを何体か倒して、心臓を手に入れた訳なんだけど、珍しいものも手に入ったんだ。


「まさか、ソウルカードが落ちるなんてな……。これだけで白金貨100枚くらいの価値があるんだけど、運が良すぎるだろ。使い勝手はかなりいい。ネガルドウルフのソウルカードなんて、本気でどれだけでも価値を上げられる。まあ、師匠曰く、ソウルカードは自分で使えって言ってたからな。番犬として役立てるか」


 ソウルカード。極稀に、魔物を討伐した際に、魔石がカードになるんだ。それをソウルカードと言って、その魔物を呼び出すことが出来る。俺が手に入れたのは、ネガルドウルフのソウルカードだから、ネガルドウルフを召喚する事が出来る。基本的に、使い手は限られる。ドロップした人が使うなら、まだ言う事を聞くが、それ以外の人が使おうとすると、信頼関係を作るまで、言う事を聞いてくれない。まあ、ソウルカードを操る人を、テイマーって言うんだけどな。ごくごく稀に居るんだ。ソウルカードに選ばれやすい人が。そういう人は、かなりの戦力を持っていると言われている。


 そもそもソウルカードの魔物は、死んでもカードに戻るだけ。カードの中で休養させれば、再召喚が可能になるんだ。なので、ここぞと言うときにという訳でなく、平時からも使える魔物になる。テイマーの人は羨ましいなとは思っていたことがある。ソウルカードを売れば、かなりの金額を手に入れることが出来るからだ。それがたとえゴブリンであったとしてもだな。使い捨てられる戦力というだけで、かなりの価値があるんだよ。


 そんな戦力を手に入れた訳なんだけど、ぶっちゃけ、戦闘で使いたいのかって言われるとな。俺だけでも勝てない敵と戦う時には使うかもしれないけど、俺よりも弱い敵には使わないだろうからな。ただ、それだと俺が手に入れたソウルカードのネガルドウルフが育たない。……ここは使っていった方が良いんだろうな。いざと言うときに使えませんでしたと言う事になっては問題だ。ある程度、出来ることも把握しておかないといけない。


「それじゃあ、ネガルドウルフを凶悪にするためにも、ダイヤウルフを狩らないとな。出来れば、お肉の供給としても嬉しいだろうから、積極的に狩るか。ダイヤウルフのソウルカードも手に入れたい所ではある。ウルフ系統の魔物は、揃えた時が厄介だからな。統率個体が居るのと居ないのとでは、魔物としての格が変わるし」


 ウルフ系統の魔物の特徴として、統率個体が居ると、魔物のランクが1段階上がると言われている。基本的には群れないんだけど、群れているウルフはパーティーが全滅しかねない程度には強くなる。だから、積極的にソウルカードを狙っていくんだ。こう言う事は、運なんだ。ソウルカードを得るには、運命的な何かが必要だと言われている。それが、俺とこのネガルドウルフを引き合わせたのであれば、ダイヤウルフも引き寄せることが出来る筈だ。それが狙う理由になる。十分に狙うだけの理由になるんだ。ソウルカードは運命的な出会いだというのだから、ダイヤウルフも何体かは引けるはずだ。この機会を逃す方がおかしいんだよ。

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