第2話お店ゲット

 乗合馬車で160日というのは、実は大した事が無いんだ。距離的には。色んな所に寄り道して、160日でゴールであるレイトーン村まで行くだけなんだ。終点がそこってだけで、寄り道は沢山する。寄り道しなければ、60日くらいで到着したはずだ。それだと商売にならないので、こうして寄り道をしていく訳なんだけどな。


 ただ、最後の町から3日もかかるなんて思わなかった。村でも1日止まるからな。最後の方は客が少ないんじゃないかと思っていたんだけど、寧ろ最後の方が多かったんだよな。話をしてみたところ、皆は冒険者らしい。どうもレイトーン村で狩りをするために来ているらしかった。ただ、儲からないとは嘆いていたが。肉くらいしか売れないらしいし。


 俺が錬金術師で、レイトーン村に行くって言ったら、皆が喜んでいた。これでまともに補給が出来るって。討伐部位しか持っていけない日々から解消されるって。……そんなに喜ばれると、こっちも嬉しくなってくる。色々と素材はあるだろう。景気よく買ってあげるのがお礼って訳だな。最悪は師匠に押し付ければ良いんだし。


 そんな訳で、レイトーン村に着いた。……何というか、結構しっかりした村だな。もうちょっと錆びれているのかと思ったがそうでもない。しっかりと建物も建っているし、冒険者曰く、宿屋もあるらしいからな。何というか、予想と違った。けど……。


 柵が無いのはなんでなんだろう? 普通は柵で囲うよな? 不用心すぎる。人外魔境がそこにあるって言うのに、畑は守られていないし、家だってそうだ。……何か理由があるんだろうか。


 とまあ、気にしていても仕方がないので、村長の家まで来た。乗合馬車の人が、村長の家で泊っていくというので、案内してもらった訳だ。乗合馬車の人は、毎回村長や町長の家に泊めて貰っていた。俺? 俺は馬車の上で寝てたよ。それが普通だって話だったからさ。寝込みを襲うなんてことはまず無いらしい。女性だったり、男の娘だったりすると危ないらしいが、俺はちゃんとした男だからな。……男らしいかどうかと言われたら、線が細いから、微妙としか言えないんだけど。でも、細マッチョではあるから。筋肉は最低限付いているから。


「すみません。錬金術師として派遣されてきました。ここに錬金術師の家があると聞いているんですが、何処にあるのか知りませんか?」


「ほう? 錬金術師? ああ、あの爺さんの後釜か。漸く決まったのか。辺境に来てくれる錬金術師なんて少ないからなあ。よく来てくれた。歓迎するよ。書類はこっちに置いておくとして、案内するからついてきてくれ」


「解りました」


 そうやって後をついていくことに。村のもっと奥に、妙に綺麗な家が建っていた。……保存の魔法陣がまだ効いているんだな。庭は大変な事になっているけど。それよりも、さっきから見えるものがあるんだ。その辺に草や茸が生えているんだけど、普通に高級素材なんだが? 闇属性でもかなりお高い素材だ。そんなのが村の中に自生している。採取しても良いんだろうか?


「ここだ。中の家具は悪くなるからって、皆で分けたが、錬金術に使うっていう道具は残してある。というか、売れないからな。どうやって扱って良いものなのかも解らないし」


「まあ、そうでしょうね。家の鍵はありますか?」


「これだ。中は綺麗なままだ。そのまま使っても問題ないんじゃないか?」


「そうですね。簡単に掃除だけはするつもりですけど、そのまま使えるとは思いますよ。ただ、お店を開くのは10日ほど待って欲しいかなとは思いますが。冒険者さんたちにもそう伝えてください。何分、準備する事が沢山あるので」


「そうでしょうな。では、よろしくお願いしますぞ」


 さて、まずは中に入って、最重要課題を熟さないといけない。それが、家の管理魔石の補充だ。保存の魔法陣が機能していることから、まだ大丈夫なんだろうけど、魔石に魔力を補充する事は必須だ。これは日課と言っても過言ではない。万が一にも魔石の中身が空になったら困るんだ。でも、150年も放置してあって、この状態なんだから、かなり質の良い魔石を使っているんだろうな。


 探すこと10分。階段下に隠された魔石を見て、驚愕した。……聖属性の魔石だと? 魔石は素材と同じ入手難易度なんだけど、聖属性の魔石は、実は時属性の魔石よりも珍しい。何で入手難易度と珍しさが違うのかというと、聖属性の魔物の多くが、聖獣扱いされていて、討伐が不可だったりするんだよな。だから、時属性の魔石よりも貴重品である。しかも、こんな大きな魔石。……隠すわけだ。錬金術師なら、大体何処に隠しているのか解るけど、普通の人は解らない。この大きさの聖属性の魔石なら、そうだな、町1つくらいは買えるんじゃないか? それだけ昔は、ここが重要拠点だったと言う事だと思う。まさかこんな魔石を見れるとは。


 魔石にありったけの魔力を補充して、色んな部屋を見て回った。錬金釜も最高級品が置いてある。ガラス瓶製造機も置いてあるし、洗浄機もある。なんなら鍛冶をするための炉もある。大学校に置いてあった施設よりも、かなり良いものが揃っている印象だ。


「しかも、全部家の管理魔石に繋がってる。これを設計した人は、ここが150年も放置されているなんて思わないだろうな。普通はそんな事はしないし」


 こんな施設を放置しておくのは損失でしかない。大学校よりも金がかかっているだろうに。後継者が居ないって状況は寂しいよな。こんなに良い店なのに。よりにもよって、俺の師匠に目を付けられるとはな。まあ、流石にこんな貴重品は持っていかないとは思うし、何よりもこれだけの聖属性の魔石を持っているとなったら、半分くらいは犯罪者扱いされるからな。


「……」


 いや、改めて考えると、師匠は半分くらいは犯罪者っぽいな。勿論、いい意味でな。まあ、そんな訳で、錬金術に関しては、これ以上ないだろうって設備が揃っている。これならどんな依頼でも熟せるだろう。……俺の技量がついて来れば、だけどな。まあ、これでも主席なんだし、大丈夫だとは思うけど。出来なければ、師匠に泣きつけば、最悪は何とかなる。……そんな事はかっこ悪いし、何よりも師匠を頼ると碌でもないことに巻き込まれるかもしれないので、止めた方が良いとは思うんだけどな。どんな見返りを求められるのか、戦々恐々としないといけない。


 ただ、家具は言われていた通り、全くない。食器すらも無い。まあ、俺が料理をする訳ではないし。3食外食になると思う。宿屋の食堂は、一般開放されているとは思うんだよな。持ち帰りも出来る筈だ。まあ、その為には、タッパーというか、大きめの皿が必要になるんだけど、こういう時に役に立つものがある。それが保存瓶だ。


 この錬金術店にもあったけど、保存瓶というのがある。保存瓶を作る魔道具はかなり貴重なんだ。時属性の魔石を使わなければならないからな。それだけの貴重品を使っているのが、保存瓶製造機。大体、どの錬金術店にも備わっているはず。それだけの数を揃えるのは大変だとは思うが、絶対に必要なものだからな。保存瓶が無ければ、素材の劣化はかなりの速度なんだよ。それを防止するのが保存瓶。錬金術師は勿論だが、冒険者にも必須のものだ。……問題点は嵩張るって事なんだけどな。1日の探索なら問題にはならないんだけど、2日以上の探索をしようと思えば、絶対に必要になってくるものなんだよ。


 そのくらいには素材は劣化する。まあ、劣化しにくい素材もあるけど、そんなものは稀だ。大抵のものは3日くらいで半分の価値になる。その日のうちに処理をするならまだしも、3日も放置していたら、大変な事になるんだよ。錬金術店としては、そんな素材はまともに買えない。まあ、その為の見極めとかが必要になってくるんだけど、こればかりは慣れだからな。慣れないといけない事なんだ。知らないからって済ませていい問題ではない。


 そんな訳で、保存瓶は便利ですよと。料理を保存するにも便利だ。大量に料理を買っておこうね。マジックバッグに入れておけば、何時でも食べられるし。宿屋には通い詰めになるとは思う。まずは料理の種類が何種類か欲しいからな。同じものを毎日はちょっと辛い。


 と言う事で、宿屋にやってきた。料理を買いに来たぞ。沢山売ってくださいな。


「すみません。食事を売ってください。あるだけ全部ください」


「あるだけって……。まあ、別に良いけどね。私としては売れてくれた方が嬉しいしさ」


「あ、この瓶に詰めるだけ詰めてください。沢山あるので、全部は買えると思います」


「……ああ、この瓶ね。丁度良かった。幾つかくれないかしら? 割ってしまってもう駄目になっているものも多くあるのよ。これを買うには、それなりに費用がかかるんでしょう? 食事と交換でどうかしら?」


「いえ? これはそんなに費用はかかりませんよ? 保存瓶は銅貨1枚、100ケッタですから」


「あら? そうなの? でも、雑貨屋で買うと、500ケッタはするわよ?」


「雑貨屋で買うと、そうなるでしょうね。そもそも割れる可能性がある物を、町から運んでこないといけない訳ですし。ここから乗合馬車で3日はかかりますからね。順調に行っても、2日はかかります。往復で5日程度の時間がかかる訳ですから、雑貨屋で買おうと思えば、それは高くなりますよ。今後は錬金術店で買えるようになるので、お安くできます」


「それは良いわね。じゃあ30個ほど貰えるかしら? でも、そうなると、雑貨屋はどうなるのかしら?」


「後で雑貨屋の在庫はこっちで抱えますよ。今まで錬金術師が居なかった弊害ですからね。これからは別の雑貨を扱う事になるんじゃないですかね?」


「そうなのね。それじゃあ、ポーションなんかも安く手に入るのかしら?」


「そうなりますね。まあ、お店を開くまで、10日ほどは欲しいですけど」


「10日後なら直ぐじゃない。是非とも使わせてもらうわね」


「はい。冒険者の人にも、そうやって宣伝をお願いします。冒険者の人たちにとっては、稼ぎに直結するので」


「そうね。宿屋にもお金を落としてもらわないといけないから、雑貨屋でお酒でも仕入れようかしら? 冒険者にはお酒よね」


「そうですね。それが良いと思います」


 俺がお酒を作れると言う事は黙っておく。面倒な事になるかもしれないから。出来るだけ黙っている方が良いとは思う。師匠に輸出するだけにしておいた方が良いだろうな。雑貨屋も稼ぎ頭が欲しいだろうし。酒に関しては、保存瓶よりも運びやすいだろうから、歓迎されると思うけどな。


 料理を沢山詰めて貰って、代金を支払って、家に帰る。雑貨屋から色々と買い込むのは開店してからだ。それまでは冒険者たちには、雑貨屋でポーションなんかを買ってもらわないといけない。今、在庫を空にする訳にはいかないからな。全ては開店してからである。


 で、家に帰ってきてからする事と言えば、庭の手入れだ。玄関はちゃんと見えるようにしておかないといけない。……ただ、ここには、素材が沢山あるんだよな。雑草みたいに生えているけど、これは暗闇草だ。これを保存瓶にいっぱいにすると、普通に銀貨2枚、2万ケッタもする高級品である。そしてこっちは暗黒茸。夕闇苔もあるし、闇属性の素材が大量にある。これは素晴らしい。裏庭もまだ見ていないけど、そっちも素材の山なんだろうな。勿体ないので、全部採取である。採取は慣れている。……でも、これって、良いんだろうか。村のあちこちに素材が転がっているって事になるんだけど。これは欲しい素材だからな。特に、暗闇草なんて、闇属性のポーションを作るのに欠かせないというか、かなり欲しい素材というか。簡単な怪我なら、これだけで治るくらいには価値があるものなんだよな。……この村の雑草を攫うだけで、金貨が見えてくると思うぞ。100万ケッタ。普通に大金である。こんなに雑草感覚で生えていていいんだろうか。


 そう言う事で玄関先を綺麗にして、その日は終わった。久々にお風呂に入れる。錬金術師の基本なんだけど、体は清潔にしないといけない。だから、お風呂は基本である。お風呂がない錬金術店はあり得ないというくらいには、お風呂は必須の場所なんだ。汚れた体でポーションなんか作れないんだよ。こまめな人は、1日に5回はお風呂に入るという。特に解体をしたら、即お風呂だ。血まみれで、錬金術なんて出来る訳がないんだからな。当然の事である。


 お風呂から上がって、床で布団を敷いて寝る。ベッドが欲しいかな。何時までも床で寝る訳にはいかないし。明日、散策がてら、職人の所に行ってみるか。材料があれば、俺でも作れるんだけど、流石に職人が居るのに、自分で作るってのはな。自分で作るのは最終手段だ。プロが居るんだから、プロに作って貰えばいいのである。


「でも、明かりなんかは死んでなくて良かったな。明かりも管理魔石から供給されているみたいだし、本当に便利な家だよな。師匠も良い場所を選んでくれたようで何よりだ」


 私欲なのはそうだけどな。でも、良い物件と巡り合えたのはそうだ。まだ、錬金術店を開店していないけど、まあ、それなりに利益にはなるんじゃないかな。多分だけど。まあ、始めは出て行く金の方が多いとは思うけどな。


「明日からも、開店準備をしないとな。色々と見て回りたい所でもあるし、裏庭が綺麗になったら、森の中に探索にいかないと。どんなものが買い取れるのか、確認しに行かないといけないからな」


 職人の所に行って、ある程度裏庭の手入れをしたら、森に入って調査だ。調査は重要だからな。念には念をと言う事で、3日ほど予定している。色んな素材が取れると良いけどな。


 そんな訳で次の日。職人の家にやってきている。


「すみません。錬金術師なんですけど」


「錬金術師? ああ、て事はあの家か。そういや家具は全部持ってきたんだったな。何が必要なんだ?」


「ベッドと本棚ですね。その他は、追々ですか」


「ベッドと本棚だな? 今から測りに行ってもいいか?」


「お願いします。何日後くらいに出来ますか?」


「測るので1日、搬入と組み立てで1日だ。ベッド自体は組み立てれば良いようにしてあるからな。まあ、需要なんてそうそう変わらんって事なんだよ」


「ああ、なるほど。そう言う事ですか。それなら早くて助かります。こっちです」


 そんな訳で、案内して、測っている間に、早速裏庭の手入れだ。……ここも貴重素材の山だ。裏庭の柵は、まあまあ丈夫に作ってあるな。ちょっとぼろいかもしれないけど、この位は許容範囲だ。という訳で、素材の山をどんどんと保存瓶の中に仕舞っていく。大切に大切に使うからな。必要以上に採取しても腐らないんだから、どんどんと採取してしまえばいい。後で売って金に出来るからな。町中にお金が落ちている状態なんだ。拾わない方がおかしい。これだけの素材の山を切り崩すのは大変だ。でも、お金になるんだから、しっかりと回収しなければならない。


「エルフのお兄ちゃん、何をしているの?」


 なんか来たんだが? 10歳くらいの人間の女の子だな。何の用なんだろうか?

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