反転の錬金術師

ルケア

第1話旅立ち

「師匠! 無事に卒業出来ました!」


「当たり前だよ馬鹿弟子。私の弟子が卒業できないなんて恥を晒す訳がないだろう?」


「まあ、そうなんですけどね。普通はおめでとうじゃないんですか?」


「おめでたいが、私にとっては普通の事だけどね。毎年1人は必ず弟子を取っているんだからさ」


 いや、まあ、それはそうなんだけど、そうじゃないじゃん? おめでとうくらいは言って欲しい訳で。それはそれは苦労したんだから。頑張って国立錬金術師大学校を、平民の中では首席で卒業したんだし、何かしらあっても良いとは思うんだよね。


 何で平民の中でという括りなのかと言えば、貴族と平民で卒業式が違うからだな。貴族と平民で何かが違う訳ではないんだけど。その辺は国立故、贔屓は無しだ。まあ、無駄に頑張らされたからな。主に俺が。師匠ってかなり出鱈目な人だからな。勿論だが、いい意味でだ。


「それに、就職先は斡旋してやるんだ。こっちこそ感謝してもらいたいね」


「進路で色々と探してましたけど、そんなに良い就職先があるんですか?」


「ああ、ここなら最高だなって場所があったよ。お前の就職先はなんと、レイトーン村だ」


「レイトーン村!? ってどこですか?」


「まあ、知らないだろうね。ここ、王都ガルムジーから、乗合馬車で160日の所にある村だ」


「最辺境じゃないですか……。そんな所に行かされるのは良いんですけど、誰の店に入れて貰うんですか?」


「いや? レイトーン村は長らく、そうだね、150年くらい錬金術師が住んでいないそうだ。店自体はあるらしいけど、錬金術師は他に居ないはずだ」


「え? それじゃあ誰に師事すれば良いんですか?」


「師事も何も、ここで大体の事は教えただろう? 後は実戦あるのみだよ。店の経営から何から何まで。全部やってみせな」


「んな無茶な……。錬金術師が1人も居ないって事は、冒険者なんかも居ない可能性があるんですよ? 本気ですか?」


「いや、冒険者は何人も居るはずだ。そこは、有名な場所があるからね。そこを目当てにしている冒険者が居るとは思う。後は、地元の冒険者くらいだとは思うが」


「あれ? その村って、そんなに有名なんですか?」


「いや? その村自体は、私も調べるまで知らなかった。問題はそこの村から向かえる場所だ。遺跡があるんだよ。まあ、そこから15日くらいは歩くんだが」


「遺跡? 遺跡って、旧古代文明のですか?」


「そうだ。そこには亡者の鉱山都市ベルンケラーがある。良質な死属性の素材が取れる場所だ」


「……師匠? そんなに死属性の素材が取れるんですか?」


「ああそうだ。良い場所だろう?」


「……もしかしなくても、お酒ですか?」


「そうだ。それ以外に何がある?」


「俺の就職先が、師匠の私欲で決められているじゃないですか!?」


「穴場なのは間違いない。というか、お前のユニークスキルが珍し過ぎるのがいけない。錬金術師の候補にも居なかったし、奴隷にも居なかったんだ。これは手放すのは惜しい。だが、成長の妨げになるのはあまりよろしくない。そんな訳で、探した優良物件だ」


 ユニークスキル。誰もが1つは持っている。当然だが、俺も1つ持っている。中には、5つも6つも持っている人がいるらしいが、俺は1つだけだ。ユニークスキルは反転。魔力の許す限り、対象物を反転させる。……それがかなり珍しいユニークスキルの様で、これの使い勝手は、もの凄く良いのだ。それは、俺も解っているし、師匠も解っている。


 それが何でお酒と結びつくのか。こう言ってはなんだが、俺は転生者だ。元々は地球の日本で生きていた。それで、お酒がアルコールだと言う事は知っている。そして、アルコールは、人体に毒だと言う事も、知っている訳だ。それで、毎日飲んだくれている師匠に向かって、酒は飲み過ぎると毒になるんだぞと言ってしまったのが始まりだった。


 師匠は「じゃあ、ポーションを反転させたら酒になるんじゃないか? 毒なんだろう?」と、挑発的に言ってきた。なので、ポーションをお酒に変換するように、反転を使用したら、出来てしまった。そう、反転でポーションが酒になったんだ。


 ここから鬼のような検証が始まった。そもそもポーションと一括りに言っても、かなりの数がある。錬金術大辞典というものがあるんだが、その1巻は全部ポーションで埋め尽くされている。まあ、作り方から効果の方まで載っているので、それなりのページ数は割かれているんだが、ポーションだけでも100種類以上は存在する。なお、普通は10種類も作れたら良いんだけどな。そんなに頻繁に出るポーションじゃないし。そもそも素材が高価すぎて、実質作れないポーションも存在している。


 だが、この師匠、腐っても師匠なんだ。王都で錬金術店を開けているだけでも、超一流に属する訳で。ありとあらゆるポーションを作り、それを俺はひたすら酒にするという事を続けたことがある。そこで、師匠が気に入ったのが、聖属性の素材を使ったポーションだった。


 ただ、問題があった。聖属性の素材は、気軽に手に入らない。何故か。聖属性の素材を入手できる場所を、国と教会が抑えているからだ。特に、教会勢力は規模が大きく、かなりの聖属性素材が取れる場所を霊地として崇めている。そんな訳で、聖属性の素材は、いくら師匠が優秀な人であっても、気軽に入手は出来なかった。


 ……そこで諦めてくれれば、俺も何もしなくて良かったのかもしれない。いや、まあ、やらかしたのは俺なんだけどさ。聖属性の素材を反転すれば、他の属性の素材になるんじゃないか。そう言ってしまった。そして、聖属性の素材を反転してみた結果、死属性の素材に変化した。


 これで繋がっただろう。要するに師匠は、俺に、死属性の素材を手に入れやすい場所に送り込み、そこで聖属性に反転させ、ポーションを作り、更に反転させて、自分の好みの酒を手に入れようとしているのだ。弟子の就職先を決めるのが、師匠の役割だとは言え、明らかに私欲じゃないか。


「でも師匠? 乗合馬車で160日ですよ? そんな所でお酒を作らせようというのは解りましたけど、いくらなんでも遠すぎませんか? 輸送費でいくらかかると思っているんですか?」


「酒の金額を聞くほど、私も馬鹿じゃないよ。酒は飲めれば良いという訳ではないんだ。最高の酒というのは、たとえ1億ケッタ支払っても飲むべきなんだよ」


「いや、酒1つで白金貨1枚はやり過ぎです。それは師匠が馬鹿です」


「心配するな。輸送費で潰れるほど私も馬鹿じゃない。そもそもそんなに待っていられるか」


「いや、じゃあどうするんですか?」


「お前が旅立ってから、160日後に店に着く訳だ。多少の掃除なんかはしないといけないだろうが、優秀な錬金術師が使っていたと聞いている。保存の魔法陣くらいは組み込んでいるはずだ。使っている魔石も大きさにも因るが、150年くらいなら何とかなるだけの魔石は存在する。そもそも魔石を合成できれば、どれだけでも魔石は大きくできる。150年くらい前で、それなりの錬金術師が使っていたのであれば、大きな魔石がついていてもおかしくない」


「いや、それでも輸送には限界がありますよね?」


「大丈夫だ。それも解決できる。暫くしたら、お前の所に私が行く。その時に、その店の魔石と転移の魔法陣を接続する。そうすれば、何時でも王都に荷物を送り届けることが出来るようになる。最悪の場合は、私がそっちに薬を送ることも可能だ。いい話だろう?」


「……師匠? 転移の魔法陣は、王国の秘術だったはずでは?」


「問題はない。法で縛られているのは、軍事的に使う事を禁じているだけだ。私用で使う分には問題ない」


「秘術って言いましたよね!? 何で師匠が知っているんです?」


「そんなものは、見たからに決まっているだろう。それに、見たままでは駄目なんだ。絶えず魔力を供給し続けないと、魔法陣が維持できない。だから、改良して店の魔石と接続するんだ。そうすれば、何時でも使えるようになる。それに、お前の魔力量を忘れたのか? 多い多いと言われてきた私よりも多いんだ。転移の魔法陣くらいは起動させられる。何も問題はない」


「……問題大ありなんだよなあ。何で秘術が漏れてんの? しかも、店の魔石と接続するために、改良までしやがるのか? 酒のために?」


 何とも出鱈目な話だ。ちょっとやそっとで改良できるのであれば、国もとっくにしているはずだ。何の苦労もないかのような物言いだが、国の最先端技術を越えようとしているんだが? それも、100%私欲のために。国立錬金術師大学校で魔法陣の授業は受けてきたが、魔法陣の改良って相当な難易度なんだよな。俺では不可能だ。


「とにかく、輸送に関しては問題ない訳だ。何時でも酒を送ってきてくれ。その代わり、代金は今まで通りに支払うからな」


「……まあ、その代金のお陰で助かったので、何とも言えないんですけどね。こんな事、許されても良いんですか?」


「法的には問題ない。まあ、見つかったら面倒な事にはなるんだろうが」


「ですよねー……」


「そもそもの話だ。お前がレイトーン村に行くのは、国としても有難いはずだ。死属性の素材は、上から数えても4番目には珍しい。それに、その未開地はそもそも闇属性に侵されているはずだ。基本4属性も入手できる。そこで手に入るかどうか解らないのは、空間属性と時属性だ。その2つに関しては、特定の採取地も無いからな。寧ろ定期的に供給できれば、レイトーン村の価値は跳ね上がるぞ」


 属性素材の入手難易度は、時>>>空間>>聖>>死>>光>闇>>火=水=土=風である。時属性が圧倒的に見つからない。……空間属性も見つからないんだけど、空間属性を反転させれば、特属性になる。俺としては、どちらかが手に入れば、両方手に入ったのと同じになるんだよな。


 そして、時属性素材と空間属性素材を使って作り出されるのが、マジックバッグだ。師匠はこれで荒稼ぎをしたのだ。俺の反転を使ったことは言うまでもない。そのお金の一部は、俺の支度金にもなっている。ぶっちゃけ、錬金術師として成功しなくても、一生遊んで暮らせるだけの資金は持っているんだ。平民なのに、並の貴族よりも資金を持っているからな。まあ、それは俺のマジックバッグの中に死蔵されているが。使う気だぞ? そもそも店をやるなら、資金が多いに越したことはないんだから。マジックバッグと酒で、かなり稼がせてもらったんだ。多少の我が儘くらいは聞いてやっても罰は当たらないとは思うんだ。


「お前がレイトーン村で成功すれば、国も潤う。そもそも死属性の素材が滞っているのも、レイトーン村含め、死属性の素材自体がそこまで必要ないからだ。だが、死属性でしか作れないポーションもあるし、死属性でしか作れないものも多くある。特にホムンクルスなんてそうだ。死属性素材が無ければ、ホムンクルスは自壊する。便利に使えるのはおまえも知っているだろう?」


「そりゃあ知ってますよ。誰が師匠の薬草畑を維持していると思っているんですか。ホムンクルスたちですよ? まあ、一部の界隈が、ホムンクルスにも人権がとか言い始めているのは知ってますけど、そもそも強い自我が無いんだから、人権なんて考えても居ないと思うんですよね」


「ああ、馬鹿の話か。ああいうのは、国から金をせしめたいから言っているだけだ。本当に人権を与えてやれとは微塵も思っていないから安心しろ」


「寧ろそれが不安要素なんですが……。まあ、とにかく解りました。行くのは決まっているんですし、覚悟を決めるだけなんですけどね」


「そう言う事だな。お前は平民だ。貴族ではない。故に土地に縛られない。まあ、貴族の弟子を取るなんて虫唾が走る。私ではあり得ないな」


「でしょうね……。とりあえず、レイトーン村で頑張りますよ。選別は何にしてくれるんですか?」


「選別は、金とマジックバッグ、と言いたい所だが、ある程度のポーションは渡しておく。向こうで作れないことは無いと思うが。後はお守り程度の武器だ」


「いえ、それだけ貰えれば十分です。じゃあ、来てくれるのを待ってます」


「時間はかかるとは思うがな。何しろ、仕事が沢山あるからな」


「師匠って結構忙しいんですよね。……こんな飲んだくれなのに」


 そんな訳で、160日の旅が始まる。乗合馬車で160日だから、特急馬車なら60日くらいか? そのくらいの時間を師匠が作る訳がないので、多分走ってくるんだろうな。師匠の足なら、3日かな。俺もついていけるとは思うけど、そもそもレイトーン村の場所を知らない。大人しく馬車で揺られながら行く方が良いだろう。


 しかし、店を持つのか。それは結構大変だぞ。しかも最辺境。戦争の心配はしなくても良いとは言っても、不人気なのには違いがない。そもそも村って時点で人気が無いからな。普通なら町に就職に行く。しかも、師匠の居る場所で修行をするんだ。今回みたいに、いきなり店を持たせるケースなんてそうそう無いんだよ。師匠の事だ、失敗も経験とか思っているんじゃないかな。俺がお金を持っているから出来ることであって、普通の平民には無理だからな? 貴族? 貴族は自分の領地にいかないといけないから、余計に自由が無いんだよ。それでも、錬金術師は国家資格だからな。貴族からも人気なんだぞ。貴族だって死に物狂いで勉強してくる。……まあ、遊び惚けていたら、卒業できないんだから仕方がないんだけどな。それなりの卒業難易度なんだよ。それで平民で主席だぞ? 褒めてくれたって良いと思うんだけどな。


 まあ、転生者であったことがチートだと思わなくもない。勉強とか慣れてるし。伊達に20年間勉強してないって話だ。あ、一応博士号まで取ったから。前職は研究職だ。なので、勉強をするって事は、割と日常だったんだよな。ただ、外国語があまり得意では無かったけど。それなりには出来るんだぞ? 論文を読んだりする程度は。話す方が無理なんだよなあ。机上の勉強は出来たんだが。


 それにこれでも運動部所属ではあったんだ。運動もそこそこ出来る。だからこその国立錬金術師大学校主席なんだけどな。錬金術師を侮ってはいけない。必修に戦闘訓練もあるからな。それなりに戦えないと話にならないんだよ。これでも主席です。剣術はそこそこ出来る。……師匠からは1本も取ったことは無いけど。あの師匠、出鱈目に強すぎるんだ。型に填まらないから余計に質が悪い。そんな師匠相手に模擬戦をしていたんだ。そりゃあ強くもなるさ。


 王都付近には、魔物が居る場所もあるので、そういう所で実地訓練もあったし、戦闘訓練も積んでいるんだよ。授業でやったなあ。解体も慣れたものだ。血しぶきで気絶するなんて事も懐かしい。俺がじゃないぞ。俺はそれどころじゃなく必死だったから、倒れる余裕は無かっただけだ。荒療治で何とかしただけである。


 そんな訳で、錬金術師って色々と出来るんだよ。ある意味何でも屋だからな。何でもできないといけない。苦手な分野も無い事はないけど。それでも何とか克服したからこその主席。貴族とは比べられなかったけどな。それでも、負けているとは思わないんだよ。

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