双星王の孤独

虚数遺伝子

プロローグ

0.愛されし君主

「我が民、いや、世界の民よ! 私の声を聞くがよい!」


 華やかな壇に立ち、高らかに演説する男がいた。

 王冠を被りローブを羽織った男は、君主の気概を世界に示す。

 彼の声に耳を傾けるように、何万の民が集まり、更に場内の様子は空中に浮かぶ半透明なスクリーンを通じて、全世界に放送される。


「私の名はチャルリオス・ヒルズ・ド・ワネール、主神アルマが規定した王、ド・ワネールの末裔である」と彼は唯一無二の赤い瞳を光らせる。「本日、私はここで、世界の民、そして天上の主神に告げる」


 ‶神〟への言葉といえども王、チャルリオスは怖じない。むしろ勢いがついたように更に声を上げて、宣言する。


「ワネール帝国はこれより、神に禁忌とされてきた‶宇宙開発〟のプロジェクトコードを起動する、と……!」




 宇宙には数えきれない星がある。人類を越える文明が存在しないと、誰が断言できる?


 惑星――未定義観測不可

 双子星の居住可能区域ハビタブルゾーンにあるこの惑星では、人類に似た姿をした生命体が、人類を超越した文明が静かに発展している――。




 ――宇宙開発の演説から五年後、チャルリオス王は崩御した現在。


 ビルと思われる高い建物が、連星がよく見える大地に建つ。中には他と比べて幅が広く、都市から隔離された建物――王宮がある。


 この王宮の主は今、謁見の間にて賓客との面会をしている。


「お目にかかれて光栄です、陛下」


 使節のような男は玉座の前に片膝だけ跪いた。


「この度は前回の貿易の件と、王女殿下からの細やかな贈り物を献上したく参りました」

「ご苦労」と王の声は威厳があるものの幼いものだ。「遥々我が国まで来訪すること、そして王女殿下のご厚意、心から感謝する。貿易の件は先月、貴国が送ってきた資料データを読んだ。だがまだ疑念がある。こちらで、王女殿下と連絡を取ると伝えよ」

「はあ。ご一考、感謝いたします」


 一礼をして、男は退出した。

 謁見の間が一気に静かになり、王は一人になった。彼は溜め息を吐き、玉座を立って、顔を見せた。その容貌は驚くほどに若く、十五の少年のものだ。


 彼の名はウィリアンサ・マリエヌ・ド・ワネール――またはウィルと愛称を付けられた、チャルリオスの後継者である。


 艶のある髪に王冠を戴き、強く赤い瞳を持ち、深紅色のマントを纏う。


「お見事でございます。陛下」


 少年王は声に振り返る。


「なんだ、見てたのか、ヴェル」


 ウィルの側近の男、ヴェルは彼に少し腰を屈めて一礼をする。


「もちろんでございます。ウィル様の教育係として、全てを見届かねばならぬゆえ」

「……ふん」と鼻を鳴らしたウィルに疑う余地がない――執事兼教育係であるヴェルは、王子時代からの付き合いで信頼も厚い。「今日の面会は、これで終わりだな?」

「ええ。ですがまだ公務がございます」

「わかっている」


 ウィルは少し顔を顰めた。

 今にも王冠を取って、衣装を投げ捨てたい。だけど許されない。全ては亡き父王、チャルリオスの形見で、国を背負う象徴だ。

 だが、十五の彼にはあまりにも重かった。


 ウィルは赤い瞳に、手を伸ばす。誰もが彼に期待していた。望んでいた。

 誰もいない王宮で、彼しか背負えないもの。


 ――これは愛されている独りの王が、葛藤し成長する物語。

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双星王の孤独 虚数遺伝子 @huuhubuki

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