第5話 貯蔵庫が荒らされる
真夜中,,,
水香が窓から飛翔して,上空百メートルほどの高度に舞い上がった。そこには,大結界があった。その外側は海水だ。水香は,紫色の球を自分の周囲に展開して,大結界に接触させて,瞬時に大結界を通過した。その後,海水の中を浮上した。1kmほど浮上して,やっと海水面に辿り着いた。
水香「やっと海水面だわ。念話連絡するのも容易じゃないわね」
水香は周囲を見渡した。月明かりがあって,ある程度の明るさがあった。5時の方向に島が見えた。実験島の妖ナマコ島だ。
水香「なるほど。大陸の巨乳美少女は,あの妖ナマコ島に転送されるってわけね」
水香は,妖力の羽を使って,空中に舞い上がって,そこで超遠距離念話を行った。
すでに前回,念話連絡に成功した相手・ビルカだった。
水香『ビルカ,2名の巨乳美少女のアレンジは出来たの?』
ビルカ『女王さま。大丈夫です。アレンジは終了しています。例の噴水の場所に,いつ行けばいいのですか?』
水香『2日後のxy時よ』
ビルカ『了解で~す。でも,巨乳美少女たちは,海底都市で何をするのですか?』
水香『ただ,母乳を出すだけの仕事よ。それ以外は,殿方の対応をするかもね。だって,妊娠しないと母乳が出ないしね』
ビルカ『ふ~ん。とにかくアレンジしておきますね~』
水香『じゃ,お願い』
超遠距離念話を終了した後,水香は実験島のダンジョンのある場所に降りた。そこから,地下10層に移動して,星影が行った手印を切って秘密の扉を開けた。そこの部屋から結界を抜けて妖ヒトデ城の海底都市に戻ろうとした。だが,真夜中のため,視界が確保できない。
水香は,このまま実験島で数日待って,大陸からどんな巨乳美少女がくるのかをまってもいいかもしれないと思った。だが,海底都市にいる魃鬼に念話してもまったく通じない。海水が邪魔しているようだ。まあ,放置しておこう。
水香は族長の家に行って,適当に理由をつけて,そこで数日過ごすことにした。
・・・
大陸から転送する日時が来た。ユズハは,水香の命を受けて,転送される場所がダンジョンの地下3層の広間だと思って,1時間ほど前から,その場所で待っていた。
ユズハが暇そうに待っていると,悪霊曼荼羅界の管理人セイリスが水香に念話連絡があった。
セイリス『女王さま。今,ちょっとよろしいでしょうか?』
水香『今,暇だからいいわよ』
セイリス『大変言いにくいのですが,悪霊曼荼羅界での解析や研究開発などで,かなりのエネルギーを使ってしまいました。このまま供給がない状況が続きますと,1ヶ月もしないうちに,資源が枯渇してしまいます』
水香『うそ! わたしのおっぱい,まだ充分に重たいし,濃縮を何度もしてきたのよ』
セイリス『今は,女王さまの肉体がないのですよ。この明鏡玉だけですよ。エネルギーがなくなるのも道理かと』
水香『・・・』
そんな時,そこに星影と星羽がやってきた。
星影「あれ? ユズハさま? 妖ヒトデ城にいないと思ったら,こんなところに来ていたのですか? ここで何をしているのですか?」
ユズハ「ここで,大陸から巨乳美少女が転送されるのでしょう?」
星影と星羽はお互い顔を見合わせた。
星影「ここじゃないですよ。地上の祭壇ですよ。それに,祭司さまに,召喚の儀式をしてもらわないといけないですし」
ユズハ「あら?そうなの?」
星影「それに,濃獣石10個ほどが必要になります。これです」
星羽が背負っているリュックをユズハに見せた。明鏡玉内にいる水香はユズハに念話して質問させた。
ユズハ「濃獣石って,もともとが凡界の妖宝島で取れるものでしょう? どうして海底にあるの?」
星影「別の海底都市で採掘されて濃縮精製されます。その凡界云々についての関連性まではよく知りません」
ユズハ「ふ~ん。まあいいわ。その濃獣石,ちょっと見せてくれる?」
星影「え? まあ,別にいいですけど?」
星羽が背負っているリュックを降ろして,1個の濃獣石をユズハに渡した。濃獣石は高濃度の気力の塊といってもいい。ならば,低濃度の気力の塊を接触させれば,自ずと気力が移動するのではないか?
水香は,ちょっと試したいことがあるといって,ユズハの肉体を支配した。
水香は,気力で濃獣石と同じ大きさの気玉を構築して,濃獣石に接触させた。
ズズズーーー!
水香の予想は当たった。濃獣石の気力が気玉に吸収されるように移動して,両者の気力が同じ濃度になった。つまり,濃獣石が5割りほど奪われたことになる。
水香はニヤッとした。まあ,これくらい奪っても問題ないでしょう。星影や星羽は,濃獣石から気力が奪われた事実を感知することができなかった。だって,水香は,彼らに背を向けてその行為を行ったからだ。
水香「はい,濃獣石を返すわ」
星羽「あっ,はいはい」
星羽はわけが分からずに,その濃獣石をリュックに戻した。
水香はセイリスに聞いてみた。
水香『どう? かなりパワーを奪ったんじゃない?』
セイリスは,喜んだ声で答えた。
セイリス『はい! これなら,なんとか1ヶ月ほどのパワーがあります。なので,ギリギリ2ヵ月間は維持できます!』
水香『2ヵ月か,,,まあいいわ。その間に,またエネルギーを奪ってあげるわ』
セイリス『はい,よろしくお願いします!』
そんな念話をしながら,水香は星影たちと一緒にダンジョンから出て,祭壇のある広間に来た。祭司が美人秘書2名を連れてすでに待機していた。
星羽が持参した濃獣石10個を祭司に渡した。祭司は,1段目の祭壇の周囲に4個の濃獣石を配置させ,2段目と3段目の祭壇に3個ずつの濃獣石を配置させた。
星影は時計を見てから祭司に言った。
星影「約束の時間まで,あと10分ほどです」
祭司「了解した」
祭司は,1段目の祭壇を発動させた。そのパワーを2段目に加えて,2段目も発動させた。
ブォーーン!
その音に,付近を通過している住民たちが祭壇の方を振り向いて,駆け寄ってきた。
「何事なの?」
「祭司さまがいるので,何かを送るのか,召喚でもするのか?」
「さぁ? とにかく見に行こう」
「そうしよう,そうしよう」
どんどんと付近の住民たちが集まってきた。
星影「祭司,時間となりました。よろしくお願いします」
祭司は軽く頷いて,2段目のパワーを3段目の祭壇に加えて,召喚陣法を発動させた。
ボボボボーーー!!
そのパワーは,本来,濃獣石10個を使うよりも何倍もの高出力だった。そのためなのか,1個の濃獣石のパワーが半分しかないにも関わらず,正常に陣法が作動した。
ファーー!ファーー!
そこに2名ではなく,1名の巨乳美少女が出現した。彼女はビルカだった。
ともかくも,まがりなりにも召喚は成功したようだ。
星影は水香を睨んだ。
星影「ユズハさま? これって,どういうことですか? 2名の約束だったじゃないですか。どうして1名だけなんですか?」
そんなこと言われても,水香だって分からない。
水香は,おどおどとしているビルカに念話した。
水香『ビルカ,わたしよ。水香よ。どうしてビルカひとりなの? 2名じゃなかったの?』
ビルカは念話の発信源が,外見『ユズハ』の姿をした小女からだと分かったので喜んだ。
ビルカ『女王さまですね? 気づきませんでした。 実は予定していた2名の巨乳美少女が,急に臆病になってキャンセルしたんです。それで,已むなくわたしだけでもと思って,噴水のところに来たんですよ。褒めてくださいよ~』
水香『・・・』
そんな念話をしているとき,祭司が来た。
祭司「ユズハさん。族長に伝えてください。わたしの秘書に任期が数日後に切れます。代わりに秘書を忘れないようにとお伝えください。あっ,そうそう,優秀な秘書なら,2名でなくても1名だけでもいいですよ」
水香「あっ,はい。分かりました」
その後,祭司は星影から謝礼を受けとって,秘書を連れて去っていった。
野次馬たちも,1名の美少女が召喚された事実に,特に驚くこともなく,哀愁の念を感じて,その場を去った。この後の彼女の運命が容易に予想されるからだ。
ビルカは,ユズハの姿をしたのが水香だと知って,祭壇から降りて水香のところに来た。
ビルカは念話で話しかけた。
ビルカ『女王さま。わたしは,何をすればいいのですか?』
水香『・・・,ちょっと待っててちょうだい。まずは,族長に会いにいくわよ』
水香はすぐに返事をせずに,星影たちとビルカを連れて,族長のところに移動した。
その道すがら,水香はビルカに海洋族の常識を伝えた。また,気力を使って,泡力を展開する手印の切り方もイメージ念話で伝えた。
その後,水香はビルカに聞いた。
水香『ビルカは,大陸に戻らなくていいの?』
ビルカ『女王さまのいない大陸って,おもしろくないです。1年間くらい,失踪しても問題ないですよ~」
水香『まあ,そうだわね。じゃあ,大きな目標を与えるわ』
そう言って,水香が一番心配している件を伝えた。
水香『ビルカは,妖ヒトデ城の泡力中等学院に入学してちょうだい。飛び級で進級して,海底王都の泡力高等学院に入学するのよ。そこで優秀な成績をとるの。そして皇太子の妃になるのが役目よ』
ビルカ『はあ? なんでそんなことするのですか?』
水香『わたしが喰っちゃ寝食っちゃ寝するためよ。皇太子の妃になったら,わたしと入れ替わるのよ』
ビルカ『・・・』
ビルカは溜息をついた。
ビルカ『その時,女王さまは,何をしているのですか?』
水香『まだ分かんないけど,母乳を提供する性奴隷になっているかもね~』
ビルカ『・・・』
ビルカはガックリした。水香は大事なことを伝えた。
水香『ビルカ。よく聞いてちょうだい。皇太子の妃って,処女が条件よ。もし,ビルカを犯すような連中がいれば,全員,皆殺しして死体を消滅させなさい。ビルカの裸を見る連中も同罪よ。皆,死刑よ。うそでもいいから,ビルカは,今から処女になるのよ! 分かった?』
ビルカ『・・・』
族長の家についた。ユズハの体を憑依した水香は,族長にビルカを紹介した。
水香「お父様。彼女は,ビルカっていいます。大陸から召喚されました。母乳を出す役目を千草姫から与えられる予定です」
族長「ほう,なかなかの巨乳だな。おっと失礼。あまりにも立派な胸なので」
ビルカ「いえ,大丈夫です。母乳を出すのは得意で~す」
族長「え? 妊娠しているのか?」
ビルカ「えへへ,ちょっと得意体質なもんで,,,」
ここで,水香が祭司から頼まれたことを思い出した。
水香「お父様。司祭から伝言を頼まれたので伝えます。あと数日で祭司の秘書たちの任期が切れるそうです。すぐに代わりの者を手配してくださいとのことです。もし,優秀な秘書なら1名でいいそうです」
族長「もうそんな時期になるのか。しかし,,,もう,代わりの小女はいないぞ。さて,どうしたものか,,,」
族長が悩んでいると,清治という若者が駆け込んで来た。
清治「族長! 大変です!貯蔵庫が荒らされました!」
この言葉に,族長もパニクった。
族長「何? それは本当か?!」
清治「はい! すぐに見に来てください!」
族長「クソ! 祭司の秘書問題が片付かないのに,新しい問題が起きやがって!」
清治と族長が,ほうほうの体で貯蔵庫の方向に移動した。水香は,こんなハプニングが大好きだ。水香は族長の後を追った。ビルカも当然,その跡を追った。星影や星羽もその跡を追った。
その道すがら,清治は族長からビルカが召喚された大陸出身の巨乳小女であることを教えてもらった。だって,ビルカが足早に歩く姿は,まさに,超巨乳が左右上下にボヨンボヨンと激しく動いて,清治はとっても気になっていたからだ。
そんなビルカを見て,清治は族長の耳元でささやいた。
清治「族長,確か,司祭さまの秘書役の任期がもうすぐ来るのでしょう? いっそ,彼女を司祭さまの秘書役にしてしまえばいいんですよ!」
族長「はあ? でも,秘書役は妖ナマコ族でないとダメだし」
清治「族長も頭が硬いですね。彼女を族長の養子として義理の娘にすればいいんですよ。召喚した小女を養女するのって,ごく普通のことでしょう? それに,何もすぐに召喚した小女を妖ヒトデ城に送る必要もないじゃないですか?」
族長は,かなり無理があると思ったものの,最長で1ヶ月くらいなら,その方法で時間が稼げるかもしれないと思った。その間,ゆっくりと祭司の秘書問題を解決していけばいいのではないか?
この清治の提案に,族長はニヤッとした。
族長「そっ,そうだな。うん。そうだ。そうしよう!」
族長は,歩みを遅くして,ビルカのそばに来て話しかけた。
族長「ビルカさんとか言ったな。申し訳ないが,歩きながら,あなたのこと相談させてくれ」
ビルカ「え? 相談? あっ,はい。別にいいですけど?」
族長「実は,ビルカさんの身分についてだ」
ビルカ「え?身分?」
族長「そうだ。あなたは,いずれ,妖ヒトデ城に連れていかれる運命だけど,でも,この島で1ヶ月程度は生活してほしい。海洋族に慣れるという意味もある」
ビルカ「え? でも,わたし,その間,どこに住めばいいの?」
族長「わたしの屋敷を使ってもらって構わん。なんなら,わたしの養女という身分を与えてもいい。それなら,なんか気兼ねなくていいだろう?」
この言葉に,ビルカは水香の顔を見た。水香は軽く頷いた。それは,OKという意味だ。
ビルカ「養女ですか。それって,まったく自分の家にいるような生活していいのですね?」
族長「もちろんだ。だってビルカさんは,わたしの娘なんだから!」
ビルカ「はい! じゃあ,わたし,族長の娘になります!」
族長「そうか,,,それはそれでいいのだが,,,ひとつだけ条件があるんだ」
ビルカ「え? それって,どんな条件なんですか?」
族長「族長の娘になるってことは,族長の娘としての義務を果たしてもらう必要がある」
ビルカ「・・・」
族長「ビルカさん。いや,今後は,呼び捨てにさせてもらう。ビルカ,あなたは,司祭さまの秘書として,暫定的に1ヶ月ほど彼に奉仕してほしい」
ビルカ「・・・」
ビルカは水香に念話した。
ビルカ『女王さま。この提案,受けていいの?』
水香『とりあえず受けなさい。あとでいくらでも修正してあげるわ』
この解答を受けて,ビルカは族長に返事した。
ビルカ「そうですか,,,わたしは,族長の娘として,祭司さまの暫定的な秘書になるのですね?」
族長「そうことだ。理解してくれるかな?」
ビルカ「住むところと食事さえ提供してくれるなら,そんな条件,なんともないです。はい。族長,いや,父上,よろしくお願いします」
ビルカは,歩くのを止めて,その場で族長に深々とお辞儀をした。族長も歩みを止めて,ビルカにお辞儀を返した。それにつられて,この状況を作った清治もビルカにお辞儀をした。
それから間もなくして,彼らは,農産物の貯蔵庫に着いた。そこには,多くの住民が集まっていた。しかも,祭司まで来ていた。
農産物が荒らされた事実は,祭司にとっても他人ごとではない。この実験島の死活に関わる問題だ。冠婚葬祭を司る祭司にとっても,最大の関心事だ。
族長は祭司のところに来て挨拶をした。
族長「これはこれは祭司さま。大変な状況になってしまいました。清治から状況を聞きましたが,犯人は,貯蔵庫のカギをなんなく開けて侵入したようです。個別に面談して尋問していけば,犯人はすぐに分かると思います」
この族長の言葉に,祭司は少し小馬鹿にしたような顔をした。
祭司「ほう?そんな簡単にいきますかな? わたしは,すでに現場を見ましたが,とても簡単に犯人が分かるような状況ではないようです」
族長「え? まさか?」
祭司「まずは,現場を見てからにしてください」
そう言われて,族長は現場を見に行った。清治や族長の娘になったビルカ,ユズハの体を憑依した水香,さらに星影や星羽も現場に向かった。
貯蔵庫のカギの部分は,なにやら青っぽい色の液体が少し残っていた。貯蔵庫の中は,毎月納品する予定の数量別に区分けされていて,被害を受けたのは,来月納品する予定の農産物だった。すでに乾燥処理をして,長期保存が可能な状況にしてあった。その納品する量の半分ほどが食い散らかされていた。
族長は唖然とした。というのも,その食い散らかした後が,とてもヒトがするような行為ではなかったからだ。明らかに,なんらかの小型の蟲が食い散らかした後だった。でも,そうなら,貯蔵庫の全体の農産物に被害が広がっていそうなものだ。でも,被害は,来月納品するものに限られていた。
族長は,被害に遭ったじゃがいもを拾い上げて,まじまじと見た。だが,それを何度見ても原因を解明することなど出来なかった。もし,小型の蟲の仕業なら,一匹くらいは死骸があってもいいようなものだ。でも,まったく死骸がない。
族長は清治に聞いた。
族長「だれか,この付近で小型の蟲を見た者はいないのか?」
清治「わたしも,その可能性が高いと思って,付近の住人に聞いたのですが,まったく心当たりがないとのことした。それに,そもそも小型の蟲がドアのカギを開けることなど出来ません」
族長「確かにそうだ。となると,,,簡単に犯人を見つけるのは出来ないってことか?」
ここで,族長の背後から声がした。それは司祭だった。
司祭「だから言ったじゃないですか。簡単に犯人を見つけることは難しいと」
族長は振り向いて,軽くお辞儀をしてから返事した。
族長「確かにそうですね。これでは,いくら住人から事情聴取をしても,あまり意味がないかもしれません。さて,,,」
族長が思案をしていると,司祭が話を変えた。
司祭「族長。彼女は召喚した女性じゃないですか。どうしてこんなところに?」
族長「あっ,彼女は,ビルカという名前で,わたしの養女になったんです。ビルカ,挨拶しなさい」
ビルカ「わたし,ビルカと言います。よろしくお願いします」
ビルカはペコリと挨拶した。ツインテールのお下げが前後に揺れてビルカの美人顔をさらに引き立たせた。
司祭「召喚した小女を養女に? それって,どういうことですか? でも,まあ,数日くらいなら,そんな身分でこの島で生活してもいいかもしれませんね。
そんなことより,あと,数日でわたしの秘書役がお役目ごめんとなります。代わりの秘書役は見つかりましたか? 2名ですよ。2名!」
族長は,ここは,なんとかビルカ1名でやり過ごすしかない。ここは,正直に言うしかない。
族長「実は,ビルカを祭司さまの臨時の秘書役として考えています。なんとか彼女1人で,1ヶ月間だけもいいので,お願いできないでしょうか?」
祭司「なんと,,,そんな言い訳を考えていたのですか?! 以前にも言いましたが,1名の場合,その秘書役は,すごく優秀であるという条件がつきますよ。ビルカさんは,すごく優秀なのですか?」
族長はビルカの顔を見た。彼はビルカのことなどほとんど知らない。
族長「あの,,,祭司さま。優秀って,いろいろな意味があるのですが,何をもって優秀といえるのでしょうか? ビルカはまだ,見たところ,14歳かそこからですので,泡力も基礎レベルくらいしかないと思いますけど」
祭司「そうですね,,,あっ,そうだ。この貯蔵庫荒らしの犯人を見つけることで,優秀であるという証拠としましょう。どうです? それで?」
族長はビルカを見た。ビルカはなんでわたしが犯人を見つけるという面倒いことをしないといけないのかと,少しふて腐れていると,清治がビルカの耳元で囁いた。
清治「ビルカさん。あなたが優秀かどうかは知りませんが,ここで,もし,犯人を見つけて優秀さを証明できれば,祭司さまから贅沢三昧させてもらえますよ。きっと」
この言葉にビルカの眼が光った。ビルカは清治に返事した。
ビルカ「フフフ,その言葉,ウソではないですね?」
清治「たぶん,間違いないです。なんせ,祭司さまは,妖ヒトデ城でも,城主さまよりも権力があるんです。妖タコ族の王族にも顔が利くんですよ」
ビルカの眼がますます輝いた。ビルカは祭司に向かって言った。
ビルカ「祭司さま。では,わたしが犯人を捕まえたら,贅沢させてもらえますね?」
祭司「もちろんだ。そんな優秀な秘書なら,いくらでも贅沢させてあげよう。どうだね? やる気になったかね?」
この『贅沢』という言葉に,水香も反応した。そこで,ビルカに念話した。
水香『ビルカ! わたしも犯人の逮捕に協力してあげるから,一緒に贅沢するわよ!』
ビルカ『女王さまが手伝ってくれるなら,百人力でーす! じゃあ,一緒に贅沢しましょう!』
ともかくも,贅沢はできそうだ。ならば,ここは全力で犯人捜しをしよう。
ビルカ「分かりました。では,犯人捜しをしましょう」
祭司「それはいいのだが,どうやって探すのかね?」
ビルカ「そうですね,,,まず,犯人がどうやって,この貯蔵庫に入ったかを探ってみましょう」
ビルカは水香を連れて,ドアのところに行って,カギ穴を詳しく診た。はやり青色の液体が少しついていた。ビルカは,その液体を手の指で触った。明らかに妖蟲の体液だ。でも,どうして体液が付いているのか?
ビルカ『女王さま,この液体って,カギを開けるときに怪我をして体液が出たんじゃないですか?』
水香『青色ってことは,妖蟲族かもね』
ビルカ『小型妖蟲なら,絶対にカギを開けることなど無理です。となると,犯人は,ヒト型に近い体をした妖蟲族では?』
水香『そうね。でも,農作物の被害状況を見ると,小型妖蟲みたいよ』
ビルカ『ということは,小型妖蟲族であり,かつヒト型の妖蟲族,,,つまり,分離合体ができる特異体質の妖蟲族?』
水香『そう考えるのが合理的なか? ちょっと周囲の連中のオーラを見てみるわ』
水香は,オーラを診る目に変えて,周囲にいる連中を診ていった。水香はなんとも溜息をついて,オーラを診る眼を解除した。
水香はビルカにオーラで診た結果を伝えた。
ビルカ『なんと,,,』
ビルカは族長に言った。
ビルカ「族長,この場にいる者達で,族長,清治,祭司さま以外の人達を,この貯蔵庫の外で待機してもらうようにお願いできますか?」
族長「え? まあ,それは構わないが」
族長は,ここはビルカの言う通りにした。水香の出番はないと思い,水香も貯蔵庫から出て待機した。しばらくして,貯蔵庫の中には,ビルカたち4名しかいなくなった。
ビルカ「では,次に,わたしたち4名は,それぞれ,10メートルほど離れてください」
族長たちは,意味不明のままその通りにした。ここで族長がビルカに質問した。
族長「こんなことしてどうするんだ? 犯人捜しをするんじゃなかったのか?」
ビルカ「今から,犯人捜しをします」
ビルカは,床に落ちていた小石を拾った。それと同時に,伝承戦闘服を自分の体に纏った。
その直後,ビルカは大きい声で天井を指さして叫んだ。
ビルカ「あれを見て!!」
その声に,族長,祭司,清治の3名が一斉に天井を見た。その刹那,ビルカが強化された腕力で,清治の腹部目がけて小石を放った。
ズボッ!(清治の腹部を貫通した音)
ダーン!(背後の壁を貫いた音)
その小石は,清治の腹部を貫通した。さらに,その小石は背後の壁さえも貫いて穴を開けてしまった。彼の腹部から赤い血は流れなかった。その代わり青い血が少し流れた。また,小石でつらぬかれた部分に,小さな妖蟲が集合した姿が見られた。
視線を天井から清治に移した族長と祭司はビックリした。
族長「お前,,,清治ではないのか?!」
祭司「まさか,,,こんなことが??」
清治は,もはや言い逃れ出来なかった。
清治「まさか,こんなに簡単に見破られるとは思ってもみなかった。清治の擬態も声音も完璧だった。ビルカ,どうして分かった?」
ビルカ「簡単なことよ。犯人は妖蟲族よ。しかも,分離合体ができる特異能力者だってね。カギについた青色の液体,あれは無理やり指を入れて,怪我することを承知でカギをこじ開けたのでしょう。それに,こんな島に来るってことは,長距離の飛行能力を持つ者よ」
ここで,祭司が叫んだ。
祭司「まさか,お前。妖ワタリバッタ族の長(おさ)か? 長(おさ)なら,分離合体が自由自在だと聞いたことがある」
清治は何度か溜息をついた。
清治「まさか,こんなに早く身元がバレるとは思わなかった。少なくとも1週間ほどは時間がかかると思ったのだがな。おい,ビルカ! おれの正体,どうやって見破った?」
ビルカ「そんなこと教えてあげる義理はないわ」
清治「そうか。まあいい。おれは,戦闘力はさほど強くない。身元がバレてはこの場を去るのみだ。サラバだ」
清治はそう言って,体を無数の小型妖ワタリバッタに分離し出した。この時,族長が慌てて叫んだ!
族長「待てー! まだ聞きたいことがある!」
分離した体がまた集合した。その際,空いた腹部はすっかり塞がってしまった。
清治「まだ用事があるのか?」
族長「本物の清治はどうしたんだ?」
清治「もう2週間ほど前になる。雨と風の強い日だった。おれは,風に乗ってどこかの陸地を探していたら,たまたま一艘の船を発見した。その船は,マストが折れてオールも流されて漂流しているようだった。その船には,息も絶え絶えの青年がいた。彼が清治だった。おれを見ると,彼は一言言った。『おれは,清治というもので,妖ナマコ島の住人だ。おれの家族の面倒を見てくれ』と。
その言葉を残して彼は死亡した。彼の体は,すでに腐敗が走っていた。船内の食べ残しを見ると,魚のフグが多数あった。調理に失敗してフグ毒に当たったようだ。あれは強力だからな。それから,おれは,なんとか船にある資料を見て,妖ナマコ島のある方角を確定して,飛んで来た。それからしばらくの間,清治に化けてなんととか過ごしてきた。だが,どうしても小型妖ワタリバッタたちに食事を取らせる必要があった。それで,已むなくここを襲ったってわけだ」
族長「なんと,,,清治はフグ毒で死んでしまったのか?」
清治は再び溜息をついた。
清治「じゃあな。清治の家族によろしく伝えてくれ。では,本当におさらばだ」
清治は,再び無数の小型妖ワタリバッタに分離して,ビルカが開けた壁の穴を通過して,貯蔵庫から飛び出していった。
貯蔵庫内の水香たち3名は,しばらく沈黙が走った。その沈黙を破ったのは祭司だった。
祭司「ビルカさん。いや,今から,あなたは,わたしの秘書だ。ビルカと呼び捨てにする。ビルカ,帰るぞ」
ビルカ「祭司さま。実は,犯人を見つけたのは,女王,,,いや,ユズハさまです。ユズハさまも一緒にしばらく贅沢させてくれますか?」
祭司「はあ? ユズハ?」
ここで族長も叫んだ。
族長「ユズハが犯人を見つけただと? 信じられん!」
ビルカ「なんか,たまたま分かったそうです。後で,本人に詳しく聞いてください」
ここで,祭司は族長に言った。
祭司「族長,では,ビルカさんと,ユズハさんも,一緒に連れていっていいですか? なに,そんなに時間はとらせません」
そう言われてはしょうがない。
族長「分かった。星影さんや星羽さんには,しばらくの間,我が家で待ってもらうことにしよう」
祭司「ありがとうございます」
ビルカは族長に軽くお辞儀をいしてから,ユズハを憑依した水香を連れて,祭司の後に従った。
族長はこの歳になって,涙が込み上げた。腹心と思っていた清治がいなくなり,折角出来た養女を手放す羽目になった。また,折角,顔を見せた実の娘ユズハも,祭司に取られてしまった。
族長「はぁ~,もう,妖ナマコ族に輝かしい未来など決してないのだろうな~」
族長は涙を袖で拭いて,星影と星羽に我が家で待機してもらう旨を伝えて,その場を去った。
ーーー
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