第7話 姿を選ぶ恋のこと
恋のはじめに、
まず姿かたちを自由に選びて逢ふ世の中、
いとあやしく、またをかし。
顔をなめらかに見せる術、
肌のしみ・くまなど消し去りて、
目を大きく、鼻を高く見せる技、
昔ならば白粉(おしろい)や匂ひ袋の力を借りて
わづかに整へたるを、
今は指先ひとつにて、
いかようにも造りなほせると聞けば、
化粧の道も、いよいよ現(うつつ)から離れゆくものと見ゆ。
仮の世界にて恋人と逢ふときは、
それぞれ好みに合わせてアバターをまとひ、
獣の耳つけたる者も、
翼のはへたる者も、
思ひ思ひの姿にて「初対面」をとげるとか。
実の身にてはとうてい許されぬ打掛や髪色を
気兼ねなく楽しめるは、
装ひ好きの心には、まことにうれしきことなり。
されど、
かやうにして深く語らひあひて後、
いざ現の姿にて会はむとするとき、
その勇気のいること、並々ならず。
相手を欺く心づもりなくとも、
「なんじの見てきた私は、どこまでが真ぞ」と
自らに問はざるをえぬ。
昔より、恋といふもの、
歌にて心を飾り、
文にて思ひを盛り上げて送りあひしほど、
そもそも誇張なきものとは言ひがたし。
ただ、
その誇張が紙と声のうちに収まるうちは、
どこか可愛らしくて済みたりしが、
姿かたちそのものを自在に変へられる世には、
「どこまでを礼儀、どこからを偽り」と定める筋目が、
ますます難しくなりにけり。
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