第6話 顔を見せぬ会ひのこと

顔を見せぬ会ひ、多くなりたる世、いと不思議にして、やや興ざめなり。


遠き国の人とも、

ひとつの画面にあつまりて語らふことは、

昔ならば夢物語にも書きつけがたきわざなれど、

今の世にはこれを「会議」と呼びて、

眠たげな顔のまま参加する者も多し。


ある者は、顔を映さず、

名のほかは黒き四角のみ出して、

声もめったに出さずして会議を終ふ。

そこに人がゐるやらゐないやら、

ただ名ばかり浮かびゐるさま、

簾の奥に誰かいると聞かされつつ、

最後まで物音もせぬ局(つぼね)の前を通るごとく、

いと所在なき心地す。


背景といふものを、

仮の書斎や海辺の夕景に変へて見せる人もあり。

実の部屋は散らかりて見苦しきを隠さむとの心づかひ、

まことに分かるものの、

どこもかしこも同じやうな「それらしい部屋」となりて、

かえって各人の趣(おもむき)も見えずなるは、

少しおかしく、少しさびし。


会議の終りごろ、

「ほかにご意見なければ…」と申す者の声と、

沈黙の数秒とが、

どの集まりにても同じく流るるは、

時代をこえた退屈のかたちともいふべし。


されど、

荒天の日も、病みたる日も、

重き体を起こして御車を待つことなく、

布団の端より顔だけ出して、

どうにか役目を果たしうることを思へば、

これもまた、弱き身を守るための

新しき御簾(みす)とも言はれん。

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