第16話:最後の対決

 玉座の間の床に浮かび上がった巨大な魔法陣が、城全体を揺るがすほどの魔力を放ち始めた。城の壁が軋み、天井からパラパラと埃が落ちてくる。


「これは……王城に封印されていた、古代の破壊魔法だ! こんなものを発動させたら、城そのものが崩壊してしまう!」


 駆けつけたエリザールが、絶望的な声を上げた。

 オルテガは、狂気的な笑みを浮かべていた。


「その通り! 私の復讐は、王族を殺すだけでは終わらん! この偽りの繁栄の象徴であるエクリア王城そのものを、歴史から消し去ってやる!」


 アーロイが剣を抜き、オルテガに斬りかかろうとする。


「待て、アーロイ!」


 優馬がそれを制した。


「全員、落ち着いて聞いてください!」


 優馬は、この絶体絶命の状況下で、なおも冷静さを失っていなかった。彼は、集まった重臣たち、そしてオルテガの部下たちに向かって、朗々と語り始めた。彼の最後の推理ショーが、崩壊寸前の王城を舞台に、今、幕を開けた。


「皆さん、まだ何が起きているのか理解できていないでしょう。なぜ、あの温厚なオルテガ宰相が、このような凶行に及んだのか。全ての始まりは、数十年前に、この城の地下で起きた一つの殺人事件でした」


 優馬は、オルテガの悲しい出自と、復讐に至るまでの経緯を、論理的に、そして誰にでも分かるように説明していく。


「だが、オルテガ。あなたは、一つだけ大きな勘違いをしている」


 優馬は、まっすぐにオルテガを見据えた。


「なんだと?」


「あなたの父、アデルを殺したのは、リリアナ様のお父上、つまり、あなたが殺した国王陛下ではない!」


「……何? 馬鹿なことを言うな!」


 オルテガが激昂する。

 優馬は構わず続けた。


「国王陛下は、即位されてから王家の負の歴史を断ち切ろうと尽力されていた。その過程で、地下に隠されていたアデルの遺体を発見し、真相を知ったのです。彼は、先代の王……つまり、あなたのお父上を殺した真犯人たちの罪を暴き、あなたの名誉を回復しようとしていた。だからこそ、あなたは危険分子として、真犯人たちに消されたんだ!」


「真犯人だと? それは誰だ!」


「まだ分からないのですか? 国王の死、そして第二王子アルフォンスの死によって、最も利益を得るのは誰か。そして、先代から続く王家の闇を隠し続けたいと思っている古い権力者とは誰か!」


 優馬の言葉は、その場にいる全ての者に、ある可能性を気づかせた。オルテガは、復讐のために長年尽くしてきたつもりが、実は、父を殺した真の黒幕たちの手のひらの上で踊らされていたに過ぎなかったのだ。

 追い詰められたオルテガは、自らの信じてきたものが崩れ去っていくのを感じ、絶叫した。


「黙れ、黙れ、黙れ! 今更、そんな戯言を信じるものか!」


 彼は、魔法陣の中央に立ち、最後の魔力を注ぎ込もうとする。城の崩壊が、いよいよ始まろうとしていた。

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