第14話:過去の亡霊

 礼拝堂の祭壇の裏、ほの暗い松明の光に照らし出されたのは、無残に打ち捨てられた一体の白骨死体だった。豪華な衣服を身に着けていた痕跡があるが、長い年月を経て布は腐り落ち、骨だけが静かに横たわっている。


「これは……」


 リリアナが息をのむ。その遺体の傍らに、鈍い銀色の光を放つものが落ちているのを優馬は見つけた。拾い上げてみると、それは一つのペンダントだった。表面には精巧な紋様が刻まれている。


「この紋章は……」


 優馬が古文書で見た記憶と一致した。数世代前に反逆者として処刑され、血筋が途絶えたはずの王弟の一族に伝わる紋章だ。


「では、この遺体は、古文書にあったという、生き延びた一族の末裔……?」


 アーロイが訝しげにつぶやく。だが、優馬は首を横に振った。


「いや、おかしい。古文書の記述が正しければ、その人物が生きていたのは数十年も前のことのはず。だが、この骨の状態はそこまで古くない。死後、せいぜい15年から20年といったところだ」


 優馬の前世の知識が、骨の状態からおおよその死亡時期を割り出した。

 その時、ペンダントをじっと見つめていたリリアナが、はっとしたように顔を上げた。


「……思い出した。このペンダント、私、見たことがあります。幼い頃、父の側近だった、ある貴族が身に着けていました。彼の名は、アデル。オルテガ宰相と同じように、物静かで、博識な人でした」


 リリアナは、記憶の糸をたどるように語り始めた。


「でもある日、彼は突然、城から姿を消したのです。父は『病で故郷に帰った』とだけ……。そして、それから間もなくして、今のオルテガ宰相がその後任として城にやってきたのです」


 全てのピースが、一つの形に組み上がっていく。

 処刑された王弟の一族は、密かに生き延びていた。アデルと名乗っていたその側近こそが、その末裔だったのだ。彼は、過去の怨恨を水に流し、王家に仕えることで和解の道を探っていた。

 しかし、何者かがそれを良しとせず、彼を殺害し、この地下迷宮に遺体を隠した。


「……オルテガ宰相は、アデルが姿を消した直後に城に来た。そして、今回の犯行に及んだ。まさか……」


 優馬の脳裏に、最悪の仮説が浮かび上がる。


「オルテガは、このアデルの……息子、あるいは弟。彼は、王家との和解を望んだ父(あるいは兄)が、先代の国王たちに裏切られて殺されたと信じている。そして、その復讐のために身分を偽り、長年かけて宰相にまでのし上がり、この計画を実行したんだ」


 今回の連続殺人は、数十年前に起こった、この地下礼拝堂での殺人事件の復讐。過去の亡霊が現代に蘇り、王家に牙を剥いていたのだ。

 全ての事件が一本の線で繋がり、物語は、ついに隠されていた核心へとその姿を現した。

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