第7話:王家の秘密と古文書
リリアナが見つけ出した古文書は、エクリア王国の初代国王の時代から、ごく一部の王族のみに受け継がれてきたという極秘の年代記だった。その内容は、公に語られる輝かしい歴史とは全く異なる、血で血を洗う権力闘争の記録だった。
「これは……」
優馬は、古いインクで書かれた文字をリリアナと共に食い入るように読んだ。そこには、王位を巡って兄弟が殺し合い、親族が毒を盛り、無実の者が罪を着せられて処刑されてきた、生々しい歴史が綴られていた。
「王家に伝わる『呪い』とは、超自然的な現象などではなかった。それは、過去の王位継承争いで無念の死を遂げた者たちの怨念……というより、その子孫や関係者たちが、復讐のために代々引き起こしてきた暗殺や陰謀の総称だったんだ」
優馬の言葉に、リリアナは唇を噛み締めた。自分の祖先たちが犯してきた罪の重さに、彼女は打ちのめされていた。
「父上は、この歴史を知っていたのでしょうか……」
「おそらく。宮廷魔術師のエリザールも、何か知っている素振りでした。国王陛下は、この負の連鎖を断ち切ろうとしていたのかもしれない。そして、それを快く思わない誰かに殺された……」
今回の連続殺人は、現代に蘇った過去の亡霊による復讐劇。事件の構図が、ようやくはっきりと見えてきた。
古文書を読み進めていくと、ある一族に関する記述に二人は突き当たった。数世代前、王位継承争いに敗れ、反逆者の汚名を着せられて処刑された王弟の一族。公式記録では、その血筋は根絶やしにされたと記されている。
しかし、この極秘文書には、こう記されていた。
『……その妻と幼き子は、憐れんだ一人の騎士の手により、城外へと逃されたという。彼らがどこへ向かったのか、その後の消息を知る者はいない……』
「もしかして、犯人はその一族の末裔……?」
リリアナが震える声で言った。もしそうだとしたら、その憎しみは数世代にわたって受け継がれてきたことになる。それは、想像を絶するほど深く、昏い執念だ。
「可能性は高い」
優馬は頷いた。そして、彼は古文書の最後の方に、奇妙な記述があるのを見つけた。それは、直接的な文章ではなく、詩のようにも見える、不可解な言葉の羅列だった。
『玉座より陽の沈む地を見通し、王が歩みし二十の階。偽りの壁に手を触れよ。星の導きが、深き闇に眠る真実の道を示すだろう』
「これは……暗号だ」
優馬は直感した。これは、ただの記録ではない。この王城に隠された、何かを示すためのメッセージだ。
「玉座より陽の沈む地……つまり西側。二十の階……。偽りの壁……」
優馬はリリアナと共に、暗号の解読に取り掛かった。玉座の間に行き、そこから西の方角を眺める。王が歩みし二十の階とは、おそらく階段のことだろう。二人は暗号が示す場所を特定するため、王城の古い設計図と古文書の記述を照らし合わせ始めた。
過去の怨念、復讐者、そして城に隠された秘密。事件の全てのピースが、この暗号の先で一つに繋がる。優馬はそう確信していた。
犯人は、ただ復讐を遂げるだけでなく、王家に隠された全ての秘密を暴き、その権威を根底から覆そうとしているのかもしれない。謎を解き明かすことは、犯人の計画の核心に触れることと同義だった。危険な賭けだ。しかし、もはや引き返すことはできなかった。
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