第5話:第二の悲劇

 調査が少しずつ進展を見せ始めた矢先、王城を再び震撼させる事件が起きた。第二の悲劇は、白昼堂々、多くの人々の目の前で起こった。


 その日、王城の大食堂では、重臣たちが集まって今後の国政について議論を交わしていた。第一王女であるリリアナが議長を務め、その隣には野心家の第二王子アルフォンス、宰相オルテガ、そして騎士団長アーロイらの姿があった。優馬も、賓客として末席に座ることを許されていた。


 張り詰めた空気の中、議論が続く。国王亡き後の王位継承、近隣諸国への対応、議題は山積みだった。アルフォンスはここぞとばかりに自らの意見を主張し、リリアナやオルテガ宰相と意見を戦わせていた。

 議論が白熱し、喉の渇きを覚えたアルフォンスが、テーブルに置かれていた自身のゴブレットに手を伸ばした。侍女が注いだばかりの水だ。彼はそれを一気に呷った。


 その直後だった。


「ぐっ……う……ぁ……」


 アルフォンスが、突然喉を押さえて苦しみ始めた。彼の顔は見る見るうちに紫色に変色し、椅子から転げ落ちる。ゴブレットが床に落ちて、甲高い音を立てて割れた。


「アルフォンス!」


 リリアナが悲鳴を上げる。騎士たちが駆け寄るが、もはや手の施しようがなかった。アルフォンスは全身を激しく痙攣させ、やがてぴくりとも動かなくなった。


 その場にいた誰もが、何が起きたのか理解できずに凍りついていた。まさに衆人環視。誰かが毒を盛る隙など、どこにもなかったはずだ。水も、料理も、皆と同じものを口にしていた。なぜアルフォンス王子だけが。

 大食堂は、一瞬にしてパニックに陥った。


「呪いだ! やはり王城の呪いだ!」

「次は我々かもしれない!」


 騎士たちの怒号と、侍女たちの悲鳴が交錯する。アーロイ騎士団長が必死に場を収めようとするが、一度広がった恐怖は簡単には収まらない。

 優馬は、その場でただ一人、冷静に状況を観察していた。彼は床に倒れるアルフォンスの亡骸と、飛び散った水、そして砕けたゴブレットの破片に鋭い視線を送る。


「なんて、大胆な犯行だ……」


 密室殺人とは対極。衆人環視という、最も犯行が不可能に見える状況を、犯人はあえて選んだのだ。これは単なる殺人ではない。この王城にいる全ての人間に「呪いは本物だ」と信じ込ませ、恐怖に陥れるための劇場型犯罪だ。

 そして、優馬には分かっていた。これは、自分に対する挑戦状でもある、と。


 自分の推理で密室トリックの可能性を暴き、呪いを否定しようとしたことへの、犯人からの嘲笑。お前の論理など、この魔法の世界では通用しないのだと、そう言われているかのようだった。

 優馬は唇を強く噛みしめた。犠牲者が出てしまったことへの悔しさと、犯人に対する静かな怒りが、彼の心の中で燃え上がっていた。


「面白い。受けて立ってやる」


 恐怖に支配されていく人々の中で、優馬の瞳だけが、犯人への闘志を宿して、冷たく、そして鋭く輝いていた。この謎は、必ず俺が解き明かす。絶対に。

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