第2話 カニパン

あるときは戸棚の奥にあった賞味期限切れのそうめんをゆで、またあるときは小麦粉を水でといて焼き、マーガリンをちょっと塗って食べた。家に食べ物がなんにも見つからなかった日は、外に出て空き瓶を探した。当時は拾った空き瓶でも酒屋に持っていけばビール瓶10円、コーラの瓶でも10円もらえたため、近所の河原や野原などに落ちている瓶を探してなんとか2本拾えれば20円もらって、カニパンを買って3人で食べた。今思えば酒屋のおばさんが気を利かせて拾ってきた瓶でも見て見ぬふりをしてくれたのだろう。


自動販売機のおつりの取り忘れを漁り、自動販売機の下を這いつくばって探る。そんな食い物も金も無く、頼れるものも誰もいない休日が苦痛で学校に行けば給食が食べられると思い 毎週月曜日が待ち遠しかった。


小学校時代は「勇気、努力、友情」などその頃、立ち読みしていた少年漫画のキャッチコピーみたいなキラキラした希望や夢に、実際に足りていない切実な目標としての愛情、金、食物を足して、その6つの希望のうちの、なにひとつとしてうまくいかず、なにひとつとして楽には手に入らなかった。あの頃を思い出すたびに無力感、そして大人に対する普遍的な嫌悪感、世の中の不公平感に襲われ、思考のすべてが暗くなる。


小学校高学年になるころ、日本は高度経済成長期となり景気がよくなっていた。家の近所の川を渡った先のなにもない原っぱに、大規模な宅地造成が始まり、豪華な一軒家が建つようになると、小学校には転校生が毎年のようにやってきた。


転校生たちは皆、川向こうの新興住宅地に一軒家を建てた、裕福で幸せそうな家庭を持っており、学校のクラスの中でも、底辺オンボロアパートで生活するこちら側の人間たちと川を挟んで一軒家に住んでいる裕福家庭とで、持てるものと持たざるもののコントラストが残酷に、そして明確に刻まれていた。

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