第10話

<ソーライ!>

 突如、持っていた端末から聞き馴染んだ声が飛び込んできた。

「えっ」

 かと思えば、突然目の前の檻が音を立てて取り除かれる。というのも、ものすごい勢いで小型シャトルが突っ込んできたからだ。

 それと同時に、足元の装置がより一層強い光を放つ。

 巻き起こる爆風と、足元からいきり立つように競り上がる冷気。

 崩れ落ちてくる天井と、舞い踊る火の粉。

 遠くで聞こえるナルハたちの悲鳴。

 建物が燃える焦げくさい匂いと、シャトルをまとうかすかなオイルの匂い。

 鼻の奥をツンと刺激する冷ややかな空気。

 舞い上がった火の粉は次の瞬間には氷に覆われ、地面へと落下する。

 氷と炎。真逆のものが入り乱れる。

 周囲は一気に混沌へと変貌した。

 視覚、聴覚、触覚、嗅覚の情報が入り乱れる中で、ソーライの脳は必要な情報を抽出するかのように、シャトルの足が目の前に降りてくるのをはっきりと捉えた。それが不思議にもスローモーションで再生される。

 掴まれ、と。

 シャトルを操縦している者の意図さえ汲み取れた。

 ソーライは咄嗟にその足へしがみつく。

 それと同時にシャトルは急上昇した。

 途端にゆるやかな世界軸は解除され、周囲の喧騒が耳に戻ってくる。

 バリバリと氷の走る音がした。マイナスの世界が広がる雪山で聴いたことがある、湖が氷結する音に似ている。

 上空で旋回するそこから見下ろすと、V T166地点を中心として円状に地面が白く広がっていくのが見えた。バキバキと音を立てているのは、炎上している建物を氷が覆い始めている証拠だ。

 おそらく中心の白い部分は凍っているのだろう。ほんの数秒前までソーライが座り込んでいた場所だ。

 その冷却チップの副作用は建物の火災を瞬時に呑み込み、黒く焼けこげた朱色の柱も、崩れ落ちた天井も、ものの数秒で立派な氷塊にしてしまった。

 暴走していた熱が、空気が冷やされていく。

(さすが、神格化して守ってきただけはあるな)

 今が『熱暴走』という天災下でなかったら、シュラーが言っていたように氷河期さえも作り出してしまうだろう。

 シャトルの足にぶら下がったまま上からその光景を眺めていたソーライだったが、ふと視界の端に入った人影に目を疑った。

(ばあさん⁈)

 ばば様がVT166に向かってゆるゆると歩き出している。五十メートル避難していろと言ったのに。このままでは、正面から襲ってくる氷の勢いに呑まれてしまうかもしれない。

(もしかして……俺を助けようとしている、とか?)

 ソーライは思い当たった。

 彼女は歩みを止めない。

 その足取りは、この地を長いあいだ守ってきた信念を表すようだった。

「ばあさん!」

 俺はここだ、と声を上げてみたが彼女には聞こえていないようだった。それもそうだ、今この瞬間も周囲の建物が大きな音を立てて氷の塊に変わっているのだから。

「くそっ」

 ソーライはシャトルの足から手を離して飛び降りた。

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