第8話

 ソーライはその場に座り込んで、扉の取っ手に手をかける。金属特有の冷たさがひやりと手のひらに伝わった。

(これは……)

 扉を持ち上げると、そこには水面があった。

「その扉の場所がおそらくVT166だ。我もようは分からんが、その地点が熱暴走を止められるのだろう?」

 端末の座標を確認してみれば、彼女の言うとおり、探していた場所はまさにここを示している。

「……知ってるじゃねえか」

「熱には水が一番だろう」

 なるほどね、と納得したところでナルハが室内に駆け込んでくる。

「ばば様! みなを避難させたぞ!」

「よし、じゃあばーさんも避難するんだ」

「ばば様、こっちだ」

 ソーライの言葉に、駆け寄ってきたナルハがすぐさま彼女の手を引く。タイムリミットまであと二分弱。老人の足でも逃げるには十分な時間だ。

 彼女たちが外に向かって歩き出したのを確認すると、ソーライは早速、胸のポケットから冷却チップを取り出した。

 そのとき。

 ガシャンッ、と重い金属音が室内に響き渡った。

「えっ?」

 一瞬、何が起こったのか分からなかった。

 大きな音と同時に、いきなりソーライの目の前を何かが横切ったようで……咄嗟に目をつぶってしまったが、瞼を持ち上げた次の瞬間には、ソーライは檻の中に閉じ込められていた。

 そう。頭上から降ってきたのだ。

「ソーライ!」

 入口付近でナルハは大声を上げた。それから駆け寄ってこようとする。

「来るな! 早くばあさんを連れて外に逃げるんだ!」

「で、でも! ……そうだ、ばば様! あれを解除する装置はどこだ!」

「すまぬ、ナルハ。あれは私にも分からぬ」

 この仕掛けは昨日今日作られたものではなく、はるか昔から設置されていたのだろう。なにせこの場所は星を殺しかねない重要なツボなのだ。何もない方が不思議と言ってもいい、罠をこしらえた先人たちの考えは正しい。

 申し訳なさそうな視線を向けるばば様に、ソーライは明るく笑った。

「俺は大丈夫だから」

 早く建物から出るようにソーライは二人を促した。被害は少ない方がいい。

 さて。

 どういう仕組みで落ちてきたのか分からないが、鉄格子はおそらくこの冷却チップに反応したのだろう。扉に手をかけたり、中を覗き込んでいたときには何もなかったのだ。

 檻に手をかけて揺さぶってみるが、これはどうにも動きそうにない。外に出られるような扉もなければ、当然、鍵穴もない。

 ソーライの額から汗が流れ落ちた。

「……汗?」

 冷や汗ではない。そもそもこの建物内は涼しかったはずだ。それに、外気温に順応する自分が、汗を流すなどおかしい。

 どうやら身体が適応しなくなってきているようだ、と手元の端末を見ると、外気はいつの間にか五十度を超えている。

「もう⁈」

 急激な温度変化にソーライは声を上げた。

 中を見渡すと、なるほど、部屋の隅から火の手が上がっている。確か、星間輸送管理局を出発するときにも、先ほどシャトルで再確認をしたときにも、家屋が炎上するとかなんとかシュラーが言っていたのを思い出した。

 熱暴走、いよいよ最終段階に突入というわけだ。

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