第5話

 小型シャトルごと集落に突っ込むのはいただけないだろうと思い、ソーライは村の外の空き地に着陸した。

 胸元のチップを確認すると、端末を手にシャトルのタラップを降りる。

 むせかえるような熱が足元から競り上がってきて、ソーライは思わず顔をしかめた。しかし彼の体細胞はすぐさま外気温に適応し始める。

 しかし己の身体が熱に耐えうるからといって悠長にしてはいられない。ソーライは一歩踏み出した。

 そのとき。

「何者だ!」

「うわっ」

 突然、目の前に何かが飛び出してきた。ソーライは思わず後ろに転びそうになる。

 それからようやく飛び出してきたものを確認して、改めて驚いた。

「女の子⁈」

 ソーライの目の前には、十五歳くらいだろうか、少女が両手を目一杯広げて立ちはだかっていた。

 シュラーのいる宇宙船のモニターに映っていた十パーセント。その中の一人が彼女というわけだ。

余所よそ者め。この地に足を踏み入れるな」

 彼女はそう言いながらこちらを睨んでくる。ソーライは声を荒らげた。

「そんな場合じゃないだろ⁈ なんでまだこんなところにいるんだ、お前のほかにもいるのか? 避難勧告は?」

「そんなもの、どこぞの知らぬ誰かが勝手に言っているだけだ。我ら『地の民』はここを離れるわけにはいかぬ。だのに、なぜこの地から離れねばならぬ、なぜこの星を捨てねばならぬ。我々はめいを全うするためにこの地を守り続ける!」

 どうやら彼女にはただならぬ信念があるようだ。しかも「我々」と言っている。この集落には、彼女のほかにも星外に逃げなかった十パーセントの民が存在しているようだ。

 しかしここで立ち往生するわけにはいかない。制限時間は刻々と迫っている。

 ソーライはひとつ、深呼吸をした。

「お前の気持ちは分かった。俺はソーライ。熱暴走を鎮めにきたんだ」

「ねつぼうそう? なんだそれは。この状況はそんな名ではない、リフティフ神の怒りだ」

 訳のわからない神が出てきた。

 しかし天変地異が神に例えられるのはよくあることだ。ソーライは話を合わせた。

「ふうん。じゃあリフティフ神はなんで怒ってるんだ?」

「神の御心みこころなど知らぬ。我々はただひたすら祈りを届けるのみだ」

「そう。俺は知ってるけど」

「ほ、本当か⁈」

 少女の目に光が宿った。急に高い塀が取り払われたように、少女は前のめりに覗き込んでくる。

「ああ。この怒りはなかなか収まらないだろ?」

「そうなのだ。いくら祈りを捧げたところで、供物を捧げたところで全く鎮まらぬ。むしろ日ごと秒ごと強さを増していく。もうどうすればいいか……」

「それは、神がお前たちに怒ってるわけじゃないからだよ」

「じゃあ何に怒っている」

 ソーライはすっと天を指差した。

「空だよ」

「空?」

 少女は今や赤くゆらめく空を見上げた。

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