第3話

 そうして今に至る。

 シュラーたちが操縦する宇宙船がヴィアーサ圏内に到着したとき、熱暴走はすでに始まっていた。「ステージ二だ」とシュラーは言っていた。

「ちなみにステージ一だとどんな状況?」

 ソーライが質問すると、

「国家非常事態宣言が発令され、国民は強制的に惑星外へ避難することになる。熱暴走が収束するまで星外のシャトルで待機をするのが第一段階だ」

 シュラーは淡々と説明した。

「二段階目は?」

「通常ならば星を見捨てて別の星に移ることになる」

「じゃあ今のヴィアーサは……」

 ソーライは宇宙船の窓から見える他のシャトルたちを眺めた。ヴィアーサを囲むように無数の宇宙船が浮いている。彼らは熱暴走が収まることを祈っているのだろうが、このままの状態だと自分たちの星が滅んでいく様を眺めることになる。

「これは……もう……」

 手遅れかもな、とシュラーは苦虫を噛み潰すように小さく呟いた。宇宙船のモニターには、星外に出たとされる人々の名前がつらつらと表示されている。

「シュラー」

「どうした」

「星外存在率が九十から上がらないんだけど」

 ソーライは再び窓の外を見た。惑星の外に出ようとするシャトルの影はもう見えない。しかし脱出率が百にならないのはどういうことだ。

「十パーセントの人が、なんらかの理由で惑星内に残っているということか」

「自分の身体が燃え尽きるかもしれないのに?」

「……」

 理由は分からない。

「シュラー、現状でこの星を救える可能性は?」

「……三十パーセントくらいか」

「なんだ。それだけあれば十分だな」

「ソーライ⁈」

 シュラーは勢いよくソーライの方を振り返った。無理もない、生きるか死ぬかで言えば、運命の針はもう後者に傾いている。

 しかしソーライはニッと笑った。

「俺は生存率一パーセント以下の状況を生き抜いてきた男だぜ。任せとけって」

「それは単純にお前の体質と状況が噛み合っていただけだろう!」

「今だってそうだよ」

 ソーライはサトーラ軍の間諜かんちょうだった。軍に所属している間に特殊な訓練を受け、人体に影響を及ぼす危険な気温下でも生存できるように訓練されている。絶対零度に近い超低温から、火山の火口付近に至る高温帯まで、数日は生存できる能力を備えているのだ。

 だから熱暴走を起こしているヴィアーサにはうってつけ。それに、シュラーの機転で救ってもらったこの命、いつでも捧げられると思っている。

 そしてそれは今だ。

 なぜなら、もしソーライが行くと言い出さなければ、きっとシュラー本人が回避装置を設置しに行くと言い出しているに決まっているからだ。

「私ではダメかしら」

 ユーリヤが立候補する。しかしシュラーは首を横に振った。

「君が船外に出ることはまだ許可されていない」

「じゃあ決まりだ」

 ソーライはすっと立ち上がる。

「ソーライ!」

 名前を呼ばれて、彼は軽く手を上げた。

「すぐに戻るから大丈夫だ」

「お前はどうしてそう、いつも無茶な選択をする」

 そういうシュラーだって、とソーライは心中こっそり苦笑いをこぼすのだ。

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