第19話 再戦

「怒涛の快進撃を続けた童女と、この選手! 処刑人。今までどんな相手も一瞬で死に追いやったこの男。オーバーキルで注意されても殺し続ける。その姿は処刑人そのもの!」


 処刑人が現れ、わたしをみてにやりと笑った。


「戦って殺し損ねたの、お前だけなんだよ」


 そんな処刑人の挑発は無視し、気持ちを落ち着かせる。大丈夫。さっきまでの相手よりも強いけど、今のわたしよりはもう強くない。


「わたし、強くなったから」


 そうにこりと笑って見せた。といっても、顔は仮面で隠れているから、見えていないだろうけど。


「は、よく言うぜ。まぁ、ここにいる奴らよりも骨はありそうだな」


 鎌を振り下ろし、待機場所に着いた処刑人の様子を見て、わたしも構える。


「試合開始!」


 身体強化と目眩しをかける。もちろん今まで通りの攻撃をするつもりはない。今までの鍛錬でお兄様と鍛えた技は身体強化と目眩しだけではない。他にもさまざまな魔術、そして身体的なトレーニングを積んだ。


「マーシーいくよ」


「了解! ご主人様!」


 わたしの近くから飛び立ったマーシーが処刑人の斜め後ろに回り込む。


「ライト。いい?」


「もちろんだ」


 マーシーと対角線上の位置をとったライト。二人に指示を飛ばす。


 そしてわたしも身体強化して上空に飛び上がった。わたしに注目している処刑人。きっと狙うなら、技を外して体勢を崩したところだろう。そう予測して、視線をこちらに集める。普通の人間は、二匹のことを感じ取ることもできないらしい。だからこそ、妖の攻撃は脅威なのだ。


「いけ!」


 わたしの指示で二匹は魔術を展開した。


「斬撃」「火竜降臨フレア・サークル


 二匹の声が綺麗に揃い、同時に魔術を発動する。ちょうど中心にいた処刑人の位置で二つはぶつかり、大爆発を起こした。


「視力強化」


 同時にわたしは身体強化をして、魔術を展開する。


 上空から処刑人を追うと、爆発の中で直撃は避けたものの多少の怪我を負ったようだ。


 土埃のせいで視界が奪われ、わたしの位置を確認しようとしている処刑人に向かって、軌道を少し修正し、目眩しをかけ、魔力を集める。


「ライト。連続お願い!」


 わたしの声に合わせてライトが斬撃を飛ばす。そのライトの斬撃に間に合うように空を駆け、わたしも魔術をのせる。


「雷撃」


「ぐ!?」


 突然現れたわたしに驚いた処刑人が、鎌で防御しようとするも失敗し、雷撃をもろに浴びる。しかし、強靭な肉体は雷撃から身を守り、表面に火傷を負わせるのみだった。魔術が当たったことを確認し、一度距離をとった。土埃が落ち着き、処刑人も息を整える。


「……おっと、土埃で見えない間に、処刑人がぼろぼろだ!? これは童女がやったのか!?」


 ライトとマーシーに目線を合わせていると、唸り声を上げた処刑人が鎌を振り回しながら飛び込んできた。


炎壁ファイア・ウォール


 即座にマーシーの炎と結界を使って防御に備える。炎に思いっきり突っ込んだ処刑人は一瞬うめき声をあげたが、すぐに鎌を構えてわたしの結界に攻撃してくる。


「うぉぉぉぉ!」


 叫び声をあげながら振り回した鎌が、結界に突き刺さった。そして、炎が鎌にまとわりつく。結界に送る魔力を強め、結界から鎌が抜けないように結界を塞ぐ。先ほどよりも強化された結界に、処刑人は鎌を引き抜こうとするも効果はない。


「マーシー」


「はいよ!」


 マーシーが炎壁の炎の勢いを強める。おかげで鎌にまとわりつく炎は勢いを増し、処刑人は熱さと戦っている。ギリギリまで掴んで引っ張っていた処刑人が突然手を離した。処刑人が引っ張っていた方向にぐにゃりと曲がった鎌は、真っ赤に染まり、刃先は丸くなっていた。そこで結界を解除して鎌を地面に落とす。ぐにゃぐにゃと衝撃に合わせて曲がった鎌に、会場は静まり返った。


「……予想できない展開だ。今まで多くの人間を死に追いやった処刑人の鎌が、単なる鉄屑へと変わった!?」


 怒りに染まった処刑人が、無我夢中にわたしに殴りかかってくる。わたしは一つずつ攻撃を避け、全てを交わした。そして、ライトが魔力を込めたわたしの拳で処刑人に反撃した。


「うぐぅ!?」


 会場の隅まで飛んでいった処刑人からは、ライトの斬撃の刃が刺さったようで、血が噴いた。起きあがろうとする処刑人の身体を魔術を使って蔦で固定する。そして、顔の前にマーシーの魔術を当てる。わたしの考えた魔術だ。加熱することで空気をなくす。しばらくもがいた処刑人が、意識を失った。絶対に自分から負けを認めないだろう処刑人を殺さずに負けさせるために考えた作戦だった。意識を失ったのを確認した審判が、わたしの勝利を宣言した。


「……処刑人、戦闘不能。童女の勝利!」


 わぁっと会場が湧き、わたしは会場に向かって手を振る。目が合ったお兄様が心配そうな表情を浮かべながらも微笑んで拍手してくれた。なんで心配そうなんだろうと思っていると、マーシーがわたしの隣に飛んだきて言った。


「……ご主人様。さっきの攻撃で手から血が出ているから、止血するよ?」


 マーシーが何やら魔術を使って止血してくれた。熱くもなく、痛くもなかった。どう言う原理か気になりながらも、わたしは武闘大会を制したのだった。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る