第4話

『目指せS級! はい、美少女ダイバーの有栖川英美里で〜す』

 少女が、カメラに向かって拳を突きつけてそんな挨拶をする。


 どうやらお目当ての配信はだったらしい。


 宏斗の言う通り、自分で美少女って、とは思うが、確かに英美里は葉月から見ても美少女ではあった。


 ただまぁ、ツインテールにフリルのリボンであしらわれた服は似合ってはいるが、キャラを作り過ぎているという感じがした。


「なるほど。これがジャンの推しね」


 頬杖をつきながら、これといった感情が湧き上がらない配信をただ見る葉月。


「……なんで、今日はこのダンジョンを攻略していきますよ。皆さん応援よろしくお願いします!

 あ、ジャンさんいつもありがとうございます。頑張りますよ!」


 突如一万の投げ銭の演技起こり、英美里が手を振ってお礼を言っていた。


「おいおい、一万って盛大な……って、ジャンさん? マジか? もしかしてジャン? 本名そのまま使ってるのかよ」


 思わず苦笑いを浮かべる葉月。


 ダンジョン配信のダイバーは本名でやっている。

 これは諸々の登録だったり、規制や規則によって偽名などが禁止されているから。


 けど、ただ視聴をしている者にはそれは適応されないので大抵の人は本名を使うなんて事はないのだ。というか昨今、身バレをするような奴は情弱でしかない。


 んだけど、どうやらジャンは本名を使ってるらしい。

 推しに名前を呼ばれるってのは、特別感が出て良いものだ。まして本名ともなれば格別だろう。


「まぁ、気持ちは分からないでもないけど……」


 そんな事を考えていれば、英美里は今日潜るダンジョンに入っていった。


 今日Cランクのダンジョン攻略らしい。


 ちなみに、S級とかCランクってはまぁ、察してくれ。


 ダンジョンは潜るという事で下に下に伸びていく。

 何回層あるかは、そのダンジョンによって違うが、十階層まではダンジョンの形は固定されているのだが、十一階層からは潜る事に内装が変化する。


 これは深くなるほどに人の認識力が低下するからであり、つまりはその人間の形を形成するのにと影響が出るという事にもなる。


 レベルやステータスはその影響を強く固定する為の物だ。


 級とはその潜る階層によって分けられ、ダンジョンにつけられるランクは階層の多さや影響力によって分けられる。


 もちろん、ランクが高いダンジョンのアカシックレコードの方が叶えられる願いの質があがる。

 これは深い方がよりアカシックレコードに強く接続出来るからだ。


 英美里はどうやらまだD級らしく、Cランクのダンジョンの攻略はなかなかに厳しい物になる。

 初っ端からゴブリンの群れとの戦闘で四苦八苦していた。


「大丈夫か、これ?」


 別に死んでも問題はないからこそ、誰もが願いを叶える為にダンジョンに潜るわけで、安全という性質があるからエンタメとして配信もされてはいる、んだけど、こうも女の子がピンチになってるのを見るのハラハラしていしまう。


 いつも見ている綺咲玲奈の配信は圧倒的強さでの攻略だから、ここまでの緊張感はなかった。


『――やったー! 勝ちました!』


 泥臭く回復アイテムを使ってゴブリンの群れと戦っていた英美里は額の汗を拭ってから、カメラに向かってVサインをして喜ぶ。


 そのお祝いか、画面には投げ銭の演出が何回も起こっていた。


 思わず葉月も投げ銭しそうになるくらいは、白熱した戦いだった。


 ただ葉月もダンジョンに潜るダイバーだからこそ、彼女の戦い方が理になかった堅実な物だと、その中にあえてピンチを演出する様が見えた。


 彼女はD級だが、もしかしたら敢えてそうしているのもと、そんな邪推をしてしまうほどに英美里は上手い戦い方をしていた。


「でもまぁ、男なんて頑張る女の子を、それも可愛ければ応援したくなるものだよな」


 たとえそれが演技だとしても、バレなきゃ事実には変わりない。


 結局葉月も投げ銭をしようと金額を選んでる時に、隣の義妹の部屋から盛大だ音が聞こえた。


「ん? アイツ帰ってきてたのか」


 なに騒いでるんだ? と顔を上げれば、ドタバタ足音がさらに聞こえ、勢いよく自分の部屋のドアが開いた。


「ちょっと、アンタ! この人ってアンタの学校の人!」


 勢いそのまま詰め寄られて、スマホの画像を目の前に突き出された。


「え? なに?」


「いいから黙ってこれを見なさいよ!」


 剣幕に押されて、画面をよく見ればそれは綺咲のライブ配信映像だった。


 でもそこに映るの綺咲ではなく、葉月がよく知っている隣の席の山田くんだった。


「あれ、山田くんじゃん」


「やっぱり、アンタの学校の人なんだ。この人ね、玲奈ちゃんのピンチを颯爽と駆けつけて助けたの! しかもなんとレベルが9999なんだってよ。

 凄いよ〜」


 熱を帯びた言葉で義妹はそれだけ言って、部屋を出ていった。


 一体なにしに来たんだよ。とか、ノックくらいはしろよ、とかは置いといて、


「へー、そうなんだ」


 葉月は軽い返事をもういない義妹に返した。


 余談だが、この時のどさくさで十万円の投げ銭をしてたりするんだけど、葉月が気づくのまだ先だった。

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隣の席の山田くんは、レベル9999で世界最強のようですが、だからなに? としか思えません 水無月/成瀬 @minazuki-naruse

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