第2話

 今日も今日とて、平穏無事に学校は終わった。


 帰りのHRが終わった途端に、山田くんは教室からいなくなる。

 どうやら佐々木くんたちも放課後まで山田くんを相手にする暇はないようだった。


 まぁ暇で人を殴るのは如何なものかと、葉月も思う。さりとて自分の身に降りかからない暴力なんて対岸の火事であり、わざわざ火の粉を貰いに行きたいとまでは思わない。


「さて、帰ろうぜ」


 教科書もノートも入ってない軽い鞄をかついで、葉月は宏斗とジャンと一緒に教室を出た。


「それで? 今日はどうする? ダンジョンに潜るか? それと例の場所で連休に向けての作戦でも考える?」


 他愛のない話をしながら下駄箱まで来れば、自分の靴を取り出しながら宏斗が聞いてくる。


「今日はダメでゴザル。オレの推しの配信がある日なんで強制解散のカードが発動でゴザルよ」


 言いながら、見えないデッキからカードを拔くジェスチャーをしてみせるジャン。


「配信? 確かジャンの推しってアレだろ? 『美少女ダイバー』とか恥ずかしげもなく掲げてるマイナー配信者の……なんだっけ?」


 宏斗が覚えてるか? と葉月の方を向いた。

 靴と履き替え上履きを下駄箱にしまいながら、葉月は思い出す用に斜め上を見るが、速攻で首を横に振るう。


「ん? ……知らん。超有名な綺咲玲奈なら知ってるけどな。義妹が熱中して何かグッズとかも集めてるんだよな」


「フッざけんな! また義妹アピかヨ! 後、エリリンだよ! 有栖川英美里ダヨ!

 ちゃんと美少女だかラナ、オマエらもみろッテ何回モ言ってるヨ! いい加減覚えロヨ!」


 地面に自分の靴を叩きつけて地団駄を踏むジャンに、葉月も宏斗も遠慮なくドン引きして玄関の方に後ずさる。


「だから語尾を忘れてるって……わかったから、今日観るから配信。な、葉月」


「いや無理。帰るなら俺も綺咲のアーカイブ配信を観なきゃだからな」


 ビシッ、みたいな音が出る感じでジャンが微動だにしなくなた。


「おい、今は嘘で観るって言う空気だろ」


 ジャンに聞こえない様に、宏斗が耳打ちしてくる。横目で見ながら葉月もそれに小声で答えた。


「そりゃそうだけど。観るって言ったら明日絶対感想を聞かれるだろ。そこで答えられなかったら?」

「……まぁ、今よりも面倒くさい事にはなりそうか」

「だろ。なら今ハッキリ観ないって言う方が良いだろ。どっちみち面倒くさいんなら、軽い方が良いって」


 そこでやっとジャンがフリーズから立ち直った。


「なにコソコソ喋ってるンダ! 全部聞こえてるんだヨ。クソ! 覚えてろよ!」


 そう叫んで、ジャンはダッシュで行ってしまった。


「……あいつ靴下のまま行っちゃったけど」


 取り残されたジャンの靴を見て、宏斗がポツリと言う。

 葉月は遠ざかっていく友の背中を眺めていたが、


「あぁ、気づいたみたいだな」


 ジャンは校門まで行ったが、そこでクルッと回ってまたこっちに向かって走り出した。

 ダダダっと下駄箱に侵入して、自分の靴を拾い上げたジャンは「リア充なんて、一万トンの爆弾で爆散しろ!」と流暢な日本語を残して帰っていった。


「ちゃんとした日本語って事は結構ガチで怒ってるぽいな。なんかすげー理不尽な怒り出はあるけど……で、どうする?」


 リア充って誰がだよ、とか葉月は思いながら校門に向かって歩き出した。

 

「いや、どうするって聞かれてもな。大人しくエリリンとか言うダイバーの配信を見るしかないんじゃないか?」


 宏斗が横に並んでそんな事を言ってくる。


「まぁ、仕方ない。それしかないか。明日それで感想言えばコロッと機嫌は直るだろうしな。ジャンだから」


「そうだな、ジャンだからな」


 宏斗もそう言って葉月の横に並んだ。


「にしても、葉月が綺咲の配信を見てるとは思わなかったよ。 義妹さんの影響か?」


「いや義母さんがさ、俺と義妹の関係を取り持とうと食事中に綺咲の話を振ってくるんだよ。義妹は綺咲の事を楽しそうに喋るからさ。

 まぁ、食事中はそれで会話が弾むんだけど、後で調子に乗るな、とかお母さんの手前話を合せてるだけだから勘違いするな、とか言われるんだけどな」


 葉月の愚痴に、宏斗は申し訳ないが笑ってしまう。


「そりゃあまた、苦労してるんだなお兄ちゃんは」


「笑い事じゃないからな、他人事だと思いやがって」


 葉月はそう肩を落とした。


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