ゆら 🌐

上月くるを

ゆら 🌐



「21st Century」と記されているのは、北欧のどこかの小さな街のセピア色の風景。朽ちかけた雑貨屋の前の椅子で、初老の男性がアコスティックギターを弾いている。低い煉瓦づくりの街並みを抜ける石畳の坂道は、少しカーブしていて先が見えない。いましもそこを上りかける荷車を曳くのは愛らしい目と耳を持つ驢馬で息が熱い。


 見慣れた壁画を目で追っていると、細い腰を黒エプロンで包んだ女性がモーニングセットを運んで来てくれた。白いマスクの上で、漆黒の眸がヨウコさんのジョークを待っている。「ごめんね、毎日暇で今日が祝日だって忘れていたの。混むのにひとり客でごめん」「いいえ、ちっとも。わたしは毎日忙しくて忘れていました~、祝日」


 ふたりで弾けて「ごゆっくりどうぞ」きびすを返す若い背からごく淡いピンク色の光線が、ゆらと立ち昇る。あ、やっぱり昴からのひとだよね。やさしい六連星のネックレスのもやもやがスレンダーな全身から滲み出ているもの。生粋のこの星人に見えそうだけど、じつは胡乱をきわめる地球星に宇宙が派遣してくれたエンジェルさん。


      🧚‍♀️🧚‍♂️🧚


 ヨウコさんはときどきこういう体験をする。高校の物理教師は白衣の猫背から黄緑色を、製鉄所の上司は黄色いヘルメットから橙色を、親戚の老女は着物の衿から紫色を、合同庁舎のロビーで待ち合わせた損保会社の営業マンはワイシャツから水色を、コンビニレジの中年女性は青い制服の襟から虹色の光線をゆらと立ち昇らせていた。


 テレビのモニターに発見することもある。たとえば専横な言動で地球軸を大きく傾かせている某大国の統領おやぶんは毒々しいほど真っ赤な、抗するスパイあがりの他国侵略大好き頭領おやかたはコールタールのように真っ黒な。もっともそれは生粋または元祖あるいは本家本元の地球人には、いっさい見えない仕組みになっているらしいけれど……。


      ⛑️🔭🌟


 今夜はやたらに星が飛ぶと思ったら、深夜ラジオが速報で「巨星墜つ」と告げた、それもふたつ同時にと。あ、ついにくだったんだね天誅。言わずと知れた赤光線も黒光線も大失敗作の地球外知的生命体だったから、送り出した天狼と碇(怒)星が恐縮して早々に回収したんだろうね。ちなみにヨウコさんはオリオン星座由来みたいで。




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