結・2

 出勤の道のりは、いつもより眩しい朝日が差していた。


 けれど、私はなぜかうまく呼吸ができなかった。


 胸の奥にまだ、あの夜の冷たさが残っている。


(⋯⋯大丈夫。仕事すれば、元に戻る。)


 駅の自動改札を抜けると、スーツ姿の人たちが流れるように通っていく。


 彼らの中に、私が自然と混ざっていく感覚があった。

 


 会社に入ると、いつもと同じ雑多な音。


 たくさんの声。キーボードを叩く音。


 コピー機と電話のベル。


 なのに──胸の奥がざわりと波打った。


 みんな、私に声をかけてくる。


「おはよう、立花さん。」

「大丈夫?疲れた顔してるよ。」

「取材、どうだったの?よかった?」


 優しい言葉。


 温もりのある声。



 でも──



 誰もが、昨日見た“同じ顔”だった。



 私は笑顔を貼りつけて、「大丈夫です。」と答えるが、指先が震えて仕方なかった。

 


(っ⋯⋯!)

 


 今朝、真っ暗なスマホが映した“自分の顔”が、脳裏に焼きついて離れない。


 五十嵐が後ろから近づいてきた。


「おい、立花⋯⋯、本当に平気か?」


 私は、無理やり笑ってみせた。


「大丈夫ですよ。ほら、仕事もありますし、」


 振り向いた瞬間──


 五十嵐の顔が。



 同じ顔をしていた。


「彼ら」と、同じ顔に。



(違う⋯⋯違うっ⋯⋯!)



 私は息を止めた。


 叫びたいのに、声が喉につかえて出ない。


 

──そして、頭の中に「彼ら」と同じ声が響いた。

 


「立花?なんだ、お前⋯⋯、今日は──」

 

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