第20話「罪と罰」

 俺とカイゼルの想いが結ばれた数日後、王の身体が快方に向かうと共に、卑劣な暗殺計画の黒幕を断罪する時が来た。


 捕らえられた刺客たちの証言により、すべての背後には宰相ヴォルグがいたことがあっさりと暴かれた。彼はアルバ王国と密約を交わし、俺を排除することで国を『古き良き獣人のみの国』に戻そうと画策していたのだ。


 玉座の間に引き据えられたヴォルグは、もはや往生際悪く喚き散らすことしかできなかった。


「陛下! 私は国を思って……! あのような得体の知れぬ人間に、国が惑わされるのを憂いていただけなのです!」


 その見苦しい言い訳を、カイゼルは玉座から冷ややかに見下ろしていた。その黄金の瞳に、かつての温情は欠片もなかった。


「黙れ、国賊が」


 静かだが、万雷の如き怒りを込めた声が響く。


「貴様が憂いたのは国の未来ではない。人間であるミコトに、己の地位と名誉が脅かされることを恐れただけだ。そのちっぽけな嫉妬心で王の番に牙を剥いた。その罪、万死に値する」


 カイゼルは立ち上がり、判決を言い渡した。


「ヴォルグ、貴様の一族は爵位を剥奪の上、王都から永久追放とする。そして首謀者である貴様自身は、反逆者として死罪を申し渡す」


 あまりに厳しい、しかし当然の処罰にヴォルグは顔を歪めて崩れ落ちた。彼の派閥に属していた貴族たちも、皆一様に顔を青くして震えている。カイゼルは、この一件で国に巣食う膿を出し切り自らの絶対的な王権を改めて示したのだ。


 そして、問題はもう一方の共犯者、人間国アルバ王国だった。


 数日後、カイゼルは正式な使者をアルバ王国へ派遣した。その手には、カイゼルと俺の連名で書かれた一通の親書が握られていた。


 内容は、同盟関係の見直しを求めるものだった。


『この度の暗殺計画への加担、断じて許されることではない。しかし、我が国の賢妃(けんぴ)――ミコトの慈悲により、戦争という選択肢は取らないこととする』


 その一文に、アルバ王国の王は安堵しただろう。しかし、その後に続く条件を見て顔色を失ったに違いない。


『その代償として、今後十年間、アルバ王国はライオネル王国に対し毎年国の総生産の三割に相当する物資を献上すること。また、我が国が開発した『王鋼』の技術を求めるのであれば、それ相応の対価を支払うこと』


 それはもはや同盟国への要求ではなく、敗戦国へ突きつけるような、一方的で絶対的にこちらが優位となる新たな条約だった。


 アルバ王国に、否やはない。彼らが断れば、待っているのは『王鋼』で作られた最新の武具で武装した、ライオネル王国の強大な軍隊だ。


 ミコトという宝をゴミのように捨てた国は、その代償としてこれから長い間、獣人国に富を吸い上げられることになった。


 俺はカイゼルの執務室でその報告を聞きながら、複雑な気持ちで窓の外を見ていた。


「……これで、よかったのかな」


「当然だ」


 背後から、カイゼルが俺を優しく抱きしめる。


「お前を傷つけた者たちだ。この程度、生ぬるいくらいだ」


 彼の胸に寄りかかりながら、俺はもう過去を振り返るのはやめようと思った。俺のいるべき場所はここだ。俺の未来は、この人の隣にあるのだから。

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